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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
272/1165

第四十四話 3人用なんだよ(2/8)

バニーズ 2-2 エペタムズ

7回表 1アウト

******視点:早乙女千代里(さおとめちより)******


「アウト!スリーアウトチェンジ!」

「これでスリーアウトチェンジ!夏樹(なつき)、プロ初登板で三者凡退のパーフェクトリリーフ!」

「ちょっと危ない当たりもありましたが、バックの手の届くところに打たせたのなら上等ですね。初マウンドでも堂々とした良いピッチングだったと思いますよ」


 同期の連中とタッチを交わしつつ、夏樹はベンチへ戻っていく。かませになるはずがかませにし返したことで随分と偉そうな面構え。まーウジウジして余計な仕事増やされるよかは全然良いんだケド。


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「バニーズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、夏樹に代わりまして、早乙女(さおとめ)。ピッチャー、早乙女。背番号17」

「「「「「チョリーッス!」」」」」」


 いつの間にか定着した、あーしが登板する時の観客のノリ。まー正直寒いケド、期待されてるって実感があるのは嬉しい。


「8回の表、エペタムズの攻撃。9番ショート、黄金丸(こがねまる)。背番号9」

「勝ち越し勝ち越しー!」

「出塁頼むぞ魅零(みれい)ー!」


 左なのは良いんだケド、いきなりめんどい相手だね。


「ボール!」

「ボール!」

「ストライーク!」

「ファール!」

「151km/hストレートファール!ここまで全て150km/hオーバーのストレート!」

「いやぁ、ほんと速いですねぇ。今年は花城(はなしろ)の穴埋めをよく務めてくれましたよ」


 今年のあーしは敗戦処理からのスタートになったケド、途中までは順調に序列を上げていって、穴埋めとは言え先発も何度か任された。

 ケドまぁ、そこでつまづいちゃったんだよね。一巡目までは何とかなるんだケド、二巡目からは四球祭りからの甘く入った球打たれまくりで……

 だからあーしは、とりあえず今年いっぱいはリリーフに専念するってことで、ストレートとスライダー以外を封印することにした。対右でよく使ってたスプリッターまで敢えて封印したのは、鬼のようなスプリッターを投げる氷室(ひむろ)への対抗心とか劣等感も正直ちょっとあるんだケド。


 ……考えてみりゃ、あーしってガキの頃はまっすぐだけで勝負するのにこだわってたっけ?

 そういうこだわりを一度捨てたのは自分に自信がなくなったからとかじゃなく、単純に中学高校と環境が上がっていけば変化球にも頼るのが常識だと思って、そのまま流されてたから。あの頃は試合に負けてグチグチ言われるのが嫌で、『自分なりに工夫した』っていうアリバイ作りのために、今じゃほとんど投げてないカーブとかも投げてたっけ?そのおかげで、あーしがどれだけ緩い球投げるのが下手かってのが自覚できたんだケドね。


「ファール!」

「粘ります黄金丸!」

「今のよく当てましたねぇ……」

(めちゃくちゃ曲がるスライダーだけど、曲がり幅が大きい分、ボクにはお見通しだもんね!)


 あのボクっ娘、本当に鬱陶しいバッターだねぇ。打率はあんまり高くないし、ホームランもほぼ打てないヒョロガリなんだケド、とにかく粘り強くて、あーしみたいにコントロールがアバウトなピッチャーから容赦なく四球をもぎ取ってくる。これで守備走塁でも実績持ちなんだから、確かに上位打線への繋ぎ役としては申し分なしだね。


(でもまぁ、布石は打てたな)


 わかってんじゃん、冬島(ふゆしま)


「!!!」

「ストライク!バッターアウト!」

「空振り三振!152km/h!!最後は力で押し切りました!!!」

(くっそぉ……!あのスライダーの残像が……!!)


 コーチのアドバイスに従って、調整とかにリソースを割くのをストレートとスライダーだけに絞って、この2つの再現性?ってやつに特化した。そのおかげで指がかかったストレートがストライクゾーンにバンバン投げられるようになって、スライダーもストライクゾーンに入りやすくなった。それに、別に意図したわけじゃないんだケド、スライダーが今のトレンドと違って曲がり幅重視なのが逆に幸いして、空振りを()れるようで()れない中途半端な球から、ストレートを生かすための緩急を付ける手段になった。

 ……まーつまり、少なくとも今のところあーしは、リリーフが適材適所ってことだね。ストレートとスライダーの二択しかなくて、先発をやるにはピッチングの引き出しが少なすぎるから。


「ええでええで!ストガイ最高や!」

「やはり筋肉は全てを解決する……」


 ケド、今はそれで十分。

 一軍で投げ続けて、ようやくあーしは色々気づけた。どんな形であっても、あーしはとにかく誰かに期待されたかったんだってね。最初は花城さんに、そして少しずつファンにも期待されるようになって、それでようやく前に進めた。

 できもしないことをできるって強がってばかりで何の結果も出せないくらいなら、今できる精一杯をやって最低限の結果を出した方がよっぽど良い。たとえその妥協したあーしが氷室に敵わないものだとしても、今はそれで良い。

 プロに入ってからたっぷり無駄にしてきた時間を、今はとにかく取り返していかなきゃね。


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