第四十四話 3人用なんだよ(1/8)
バニーズ 2-2 エペタムズ
6回裏
******視点:夏樹神楽******
「流石だな、天野さん」
ブルペンからの観戦。あの紅白戦の時と同じような強烈な逆方向への一発で、雨田が思わず呟いた。
「でもちょっと重いよなぁ……」
チームとしては嬉しい瞬間だけど、7回以降のマウンドを任されるあっし達の役割が少し変わった瞬間でもある。期待株の雨田はともかくあっしみたいな立場なら本来は敗戦処理とかからスタートになるんだろうけど、いくら勝敗を問わない試合とはいえ、最初の一軍の試合がこんな場面なんてな……
「ブルってんじゃねーよ」
「おわっ!?」
真後ろから突然の声。振り返ると、あっしよりもデカい身体のギャル。
「早乙女さん……」
「テメェがふがいねーと、一軍投手様のあーしに負担がかかるんだよ」
「そ、そうっすね……」
予定では、スムーズに進められるのなら7回にあっし、8回に早乙女さん、9回に雨田。ただ、ヤバい流れになったら本来の主力リリーフも出していってカバーする予定。
7回と8回どっちからって言うのは元々試合の流れ次第になってて、7回は下位打線からってことであっしが7回担当についさっき決まった。
9回雨田はほぼ確定。何せ競合ドラ1のゴールデンルーキー様だからな。最終戦に来てくれたファンへのサービスとしてはうってつけ。二軍の成績も普通に常光さんと肩を並べられるくらいだし。
「テメェ、正式にじゃねぇとは言え一応実力を認められてここにいるんだろ?」
「……!ま、まぁそういうことになるはずですけど……」
「だったら堂々としてやがれ。ブルペンだからって、誰の目があるかもわかんねーんだからな」
「はい……」
元々この人、紅白戦の時の懲罰労働を手伝ってくれたりしてたけど、何か色々変わったな……もっと話しかけづらい人だったのに。あっしに限らず、雨田の待遇にしても、色々思うことだってあるはずなのに。
「……夏樹、雨田」
「「?」」
「『カーテンコール』って知ってるか?」
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「バニーズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、百々(どど)に代わりまして、夏樹。ピッチャー、夏樹。背番号27」
「巫女ちゃんキター!」
「誰やアレ?」
「ドラ4の高卒ルーキーや」
やーっぱ大して騒がれねーよなぁ……小・中で活躍はしたけど、いくら関西人でも関東人で、しかも肝心の高校ではイマイチだったあっしなんて知る由もなかっただろうし。
……ま、それはこの際もう良いよ。それよりも……
「7回の表、エペタムズの攻撃。6番指名打者、白雪。背番号21」
(久しぶりだな、夏樹)
同い年の関東人同士、感動の再会だからな。
「さぁ7回は何といきなり高卒ルーキー同士の対戦となります。打席には高校通算110発、今シーズン9本塁打、4球団競合ドラ1の白雪譲治。対するはバニーズのドラ4ルーキー左腕、夏樹神楽。いずれも小学生の頃から世界の舞台で活躍した逸材同士です」
同年代でプロ入りした奴に顔見知りは結構いるけど、白雪とは特に長い付き合い。対戦相手にもなったし、チームメイトにもなった。まぁあの頃から白雪の方が注目されてたんだけどな。あっしもアイツのホームランに泣かされたクチだし。
(夏樹ちゃん、やれるか?手の内とか知られてへんか?)
(大丈夫っすよ冬島さん)
いつものように、両手で大幣を振るようなルーティン。このマウンドは今は自分のものなんだってことを示すように、まずは清めたような気分にする。
確かに白雪とは高校でも同じ西東京だったからその辺気にはなるだろうけど……
「ストラーイク!」
「一球目スラーブ空振り!」
生憎と、落ちぶれてたおかげであんまり勝負する機会がなかったからな。
「ボール!」
「シュート外れてボール!」
「……ストラーイク!」
「カーブ外いっぱい!」
「良い球ですねぇ。カーブ系得意なんですかね?」
「球種はストレート、カーブ、スローカーブ、スラーブ、シュート、フォークのようです」
「球速はMAX142……嵐田のように、豊富な球種と制球力で勝負するタイプですかね?」
(話に聞いてた通り、ねちっこく攻めるようになったな……昔はまっすぐとカーブだけでゴリ押しだったのに)
そして何より、今日のあっしは左打者警戒の調整。ただでさえ騒速さんと草薙さんもいるんだしな。後続の2人が右なのがネックだけど。
「ジョージ!二桁狙えやー!」
「ホームランホームランジョージ!」
こっちホームなのにやっぱりかませだねぇ……まぁ向こうとしちゃ、この平成の世で唯一高卒1年目に二桁打ってる五宝さんに並び立てるかもしれねーんだしな。
まぁ同い年のよしみで、あっしもそれができりゃおめでたいことだと思うよ。お前はあっしと違って、ずっとまっすぐにスターの道を歩んできたんだからな。
「ファール!」
「ファール!」
「ボール!」
(やっぱり変化球を続けるんだな……だがこの程度、一軍でいくらでも見てきた)
相変わらず怖いスイングをする。バットにまともに当たってなくても、捉えられたら確実に持っていかれるっていうのが、そのスイングの速さと軌道で何となくわかっちまうから、プロの偉い人達もお前のことを認めてるんだろうな。
でもな……
「!!!??」
「ストライク!バッターアウト!!」
「三振!空振り三振!144km/hインハイ速球!バニーズ、白雪の快音を許しません!」
残念だけど、今日はまだお預けだ。
(くそっ、裏をかかれた……!)
「神楽ちゃーん!球走ってるよー!!」
「ナイピー!!」
「……うおっ!?」
佳子と逢の声がけに応えるついでにスコアボードを見たんだけど、思わず二度見してしまった。144km/h……いつもより走ってると思ったけど、こんな時に自己最速更新できるなんてな。
……白雪相手に意地になったのと、早乙女さんの無茶振りのおかげかねぇ?
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