第四十三話 水の球場へ愛をこめて(4/7)
バニーズ 1-0 エペタムズ
3回裏 攻撃終了
******視点:月出里逢******
「4回の表、エペタムズの攻撃。3番レフト、草薙。背番号8」
先制点のチャンスを作って、ホームベースを踏んだのはあたし。だけど、基本的に持ち上げられるのは打点を挙げた方。
最近はOPSだの何だのでバッティングの数字に関して考え方が色々変わってきてるけど、今のところ打点はまだ三冠王の項目の一つとして認められてて、今でも打点を重視してる人はプレーする側にも観る側にも少なからずいる。でも、そんな人達でさえ基本的に得点という項目にはチーム単位ならともかく選手個人単位では見向きもしない。前に聞いた話だと、大昔はむしろ打点よりも得点の方が重視されたらしいんだけどね。
「ボール!フォアボール!」
「カーブ見極めました!先頭打者出塁!」
「4番ファースト、黒毛屋。背番号6」
と言っても、それはホームスチールよりも柵越えホームランの方が珍しくて、単打と走塁の応酬が当たり前、ホームランを狙うという考え方自体がほとんどなかったような時代の話。
ホームランを打ちたい打ちたい言ってるあたしが、天野さんに対抗するためにそんな理屈を並べてたら、余計に自分が惨めになるってもんだよね。あの人は別にあたしが恨んだり嫌ったりするような類の人じゃないのに、どうしてもあの紅白戦で最後にやらかしたこととかを思い出してね……
「!火織!!」
「あいよ!」
「おおっ!間に合った!」
「流石はかおりん!」
「セカンド捕って二塁送球!」
ッ……!
「アウト!」
「一塁……ああっと、投げられません!」
「セーフ!」
しまった……!
「おぃぃぃィ!今のはゲッツーいけたやろ!?」
「何握り直しとんねん!!」
「ちょうちょはほんま連携だけはイマイチやなぁ……」
「スローイングと守備範囲だけなら下手したら相沢以上かもしれんのになぁ……」
「逢ちゃん、捕りにくかった?」
「す、すみません……!あたしのミスです……」
すみちゃんが観てくれてるはずなのに、またバッティングのこと守備に引きずっちゃった……ベンチにいた時間が短かったとか、久々に火織さんと組むから、なんて言い訳にならないよね。切り替えて集中しないと。
「5番サード、グコラン。背番号5」
「ランナー一塁変わらず、打席にはグコラン!今シーズンもチーム最多タイの24本塁打を放っています!」
「今年は不調で連続30本塁打は危ういとこですが、仕事は十分ですね」
なーんか嫌な予感が……
「……!?これは……レフト下がって、下がって……」
「いやあああああ!!!」
「行くな!行くな!越えるな!」
「入りましたホームラン!グコラン、今シーズン第二十五号、逆転ツーランホームラン!!」
「よっしゃあああああ!!!」
「今からでも5年連続30本間に合うぞ、大将!」
……やっぱり。
「あーあ、さっきのとこゲッツー取れてりゃなぁ……」
「相沢だったらなぁ……」
「まぁ今日は勝ち負け関係ないんやし、切り替えていこうや」
「そうは言っても、百々の成績がなぁ……」
前に九十九くんに打たれた時と同じ。あたしのミスで傷口を広げてしまった。それも、またあたしにはエラーがつかない形で、すみちゃんが観てるであろう試合で。
ほんと、あたしってば……
「6番指名打者、白雪。背番号21」
「さぁランナーいなくなりましたがまだワンナウト。ここで打席に立つのは高卒ルーキーながら今季9本塁打、高校通算110本のドラフト1位ルーキー、白雪譲治です!」
「ジョージ!ジョージ!ジョージ!ジョージ!」
「第一打席は空振り三振。『平成最後の高卒1年目二桁本塁打』がかかっておりますが、今年のエペタムズは今日含めて残り4試合。今日の試合、月出里、秋崎と、同じ高卒1年目の選手が他にも出場しておりますが、ライバル達の前でその打棒を披露できるのか……」
……でも。
「打ちましたショート正面強いゴロ!」
「ファースト!」
「アウト!」
「アウト!軽快に捌いてツーアウト!同学年の月出里、今度は落ち着いて捌きました!」
せめて引きずらない。前は試合中ずっと凹みっぱなしだったけど、このくらいは進歩しなきゃいけないよね。
(……へぇ)
・
・
・
・
・
・




