第四十二話 名前だけでも覚えて帰って下さい(3/6)
******視点:旋頭真希******
「どうしたの、山口?」
「…………」
柳監督からの知らせの後、山口に呼び止められ、今はミーティングルームで2人きり。うーん、山口みたいなタイプは範囲外……
というのは置いといて。熱心な山口だからピッチングについて色々聞かれることは多いけど、どうも今回の要件は違うっぽい。そうだったら、こんな思い詰めた表情をしないはず。
「あの、話に出てたエペタムズ戦について聞きたいんですけど……」
「どうかしたの?」
「伊達さんって、どうなるか聞いてます?」
「……?特に聞いてないわね」
「無理はさせない方針なんですよね?」
「ええ。今シーズン一軍に居続けられたけど、監督がかなり起用に気を遣ってたからね。それを考えると、消化試合で伊達がマスクを被るのはあまり考えられないわね。いつ爆発してもおかしくない爆弾持ちなんだし、無難に冬島、有川、真壁、土生で回すんじゃないかしら?断言はできないけど」
それを聞くと、少しだけ山口の表情が緩んだ。
「それがどうかしたの?」
「今は伊達さんと組むべきじゃない、って思ったんです」
「?」
「おれ、伊達さんと約束したんです。『一軍に上がったら伊達さんに捕ってもらう』って」
「だったら伊達は試合に出た方が良いんじゃないの?」
「……今回のはあくまで『試し』ですよね?『実力で』って言うよりは」
首を縦に振る。
「まぁ実力と将来性を見込まれたからこそではあるけどね」
「だったら今回は違いますよね?おれはあくまで、自分も周りも実力を認めらなきゃ『一軍に上がれた』って言えないと思うんです」
「…………」
ほんと、真面目な子だこと。そこいらの女子より可愛い見た目してるくせに、中身は取材拒否のラーメン屋の親父だわ。
「……あの人、監督は粋な人だからね。貴方が投げる時だけ伊達を出すとか、もしかしたらそんなことするかもしれないわね。遠慮してもらえるようにそれとなく私からも伝えておくわ」
同じ投手として、気持ちはわかる。私はプロ入ってから即一軍だったけど、同じ立場なら私も『施しなんか』って思ってたかもしれないわね。
「ありがとうございます……!」
「確約はできないからそのつもりでね?私の立場的にあんまり強くは言えないし」
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******視点:柳道風******
「……そうそう、ここだけの話なんじゃがな。最後のエペタムズ戦のカードで二軍の小僧どもを何人か連れてこようと思っておってな」
「ええ!?」
もうこんな時期じゃから、伊達が試合に出張ることも少なくなって、試合中はワシの話し相手が主な仕事になってしまったのう。まぁワシとしては他にもちゃんと目的があるんじゃが。
「……もしかして月出里くんとか辺りですか?何か夏頃から今までが嘘のように打ちまくってるって話ですし……」
「うむ。あやつを含めて高卒ルーキー4人と常光、財前、桜井、山口の8人じゃ」
「恵人くんが……」
まぁ気にしとるのはそこじゃろうな。
「それでな、悪いがエペタムズ戦前に伊達には下に行ってもらいたい」
「え……?」
「各試合4人ずつの予定じゃが、それでもその分落とさにゃならんからのう」
「そ、それは良いんですが……」
「どうしたんじゃ?」
「いやぁ、恵人くんとは約束してたものですから……」
「前に言ってた『山口が一軍に上がったらお前が捕る』って話かの?」
「そうです……」
「まぁ形式的には上がるが、今回に限っては『試し』じゃからの。あの頑固者が素直に喜ぶとは思えんじゃろ?」
「……そうですね。恵人くんなら多分……」
ワシも正直そこは配慮してやるつもりじゃったが、それ以上に旋頭に頼まれてもうたしの。
ワシが今こうやって偉そうな口を叩けるのも、選手達が頑張ってくれたからじゃ。特に旋頭と樹神。あれくらいは聞いてやらんとのう。
「それに……」
「レフト前……落ちましたヒット!これで今日は猛打賞!」
「今日の冬島はよく打ちますねぇ」
「若い捕手陣にも経験を積ませてやりたいしの」
「そこは僕も同意見ですね」
それにしても冬島はウッドペッカーズ戦では妙に打つのう。生粋の関西人で東北とは縁もゆかりもないはずなんじゃが……
「良いぞ冬島ー!」
「伊達の後継者はお前やー!」
「お前も来年3割打ってくれよー!」
(アイツにだけは負けへん、アイツにだけは……!)
塁上の冬島、喜ぶでもなく、どこか執念を覚えさせる表情……向こうに誰か意識してる奴でもおるのかのう?
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