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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
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第四十一話 答え合わせ(6/7)

バニーズ 2-1 ヴァルチャーズ

6回裏攻撃終了

「アウト!スリーアウトチェンジ!」

「スリーアウト!何とか切り抜けましたが7回の表、徳田(とくだ)のタイムリーでバニーズはリードを2点に拡げています!」


「くそっ!波照間(はてるま)が打たれるなんて……!!」

「やっぱお(きく)続投の方が良かったんじゃね?」

「いや、向こうの徳田、お菊得意っぽいけん……これは仕方なか」


 金剛(こんごう)ヒットからの冬島(ふゆしま)四球、さらに有川(ありかわ)が送ったところで向こうは真木(さなぎ)を降ろした。が。


「ふふん、どうだったあっくん!?」

「おう、ナイバッチだったぜ!今日は絶好調だな!」

「んふふ……でしょでしょ?」


 塁上から一旦ベンチに戻ってきて、ご満悦の表情をわざわざ氷室(ひむろ)に見せにいく徳田。

 まぁ実際、今日は値千金の働きじゃしな。初回の守備に先制点のアシスト、そしてこの回は向こうの自慢の左キラーから貴重な追加点を奪うタイムリー。ムラっけのある小娘じゃが、氷室が投げる時は大体ようやっとる。


「バニーズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、氷室に代わりまして、牛山(うしやま)。ピッチャー、牛山。背番号29」

「よーし!勝ちパターン入ったぞ!」

「『カーテンコール』し返したれー!」

「うーん、氷室もうちょっと投げて欲しかったけどなぁ……」


 氷室はよう投げたが、まぁ奪三振投手にはありがちじゃが、球数が(かさ)んでしまったからのう。このままシーズン最後まで完走させてやりたいし、無理はさせられん。ぶっちゃけ負け越してる分、勝ちパターンにはそこまで負担がかかっておらんしの。

 それに対して……


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「ヴァルチャーズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、■■に代わりまして、矢井場(やいば)。ピッチャー、矢井場。背番号38」

「え、マジか……!?」

「ここで出るのか……!!?」

「なんと、9回のマウンドに立つのは、今年のドラ1ルーキー、昨年の嚆矢園優勝投手の矢井場鋒(やいばきさき)!プロ初登板となります!」


 うーむ、やはり窮しておるのう……


(ようやくの一軍の舞台だと言うのに、(わらわ)の初登板がこんな……!)

(先発で華々しく……と考えていたが、下でもやはりリリーフ向けのようだったからな。まぁ経験にはなるだろう)


 矢井場自身も、向こうの監督……羽雁(はがり)もおそらく不本意ではあるじゃろうな。1点差に迫ったとは言えビハインドの状況でプロ初登板。確かに勝ちの目が残ってる以上、粗末な投手は出せない状況ではあるが、有望株を初めて送り出すにはケチのつくマウンド。

 しかし、これもある意味自業自得ではある。


「9回の表、バニーズの攻撃。7番レフト、金剛(こんごう)。背番号55」

(若いな……今年の高卒ルーキーということは、雨田(あまた)達と同学年ということだな)


「ボール!」

「初球146km/hストレート!」

「いきなり金剛との勝負ですが、気にせずしっかり腕を振っていってほしいですね」


 二軍では別リーグじゃから情報があまり入って来ておらんが、まっすぐが150に届いて、得意のカットボール以外にも球種を増やしたようじゃの。一軍の初舞台でどれほどその力を発揮できるか……


「ボール!フォアボール!」


「外れてフォアボール!歩かせてしまいました!」

「うーん、慣れてないマウンドだからなのか、緊張してるのか……」


 何にせよ、まだまだ成長途上なのは確かじゃろうな。じゃが、容赦はせんよ。


「バニーズ、選手の交代をお知らせします。ファーストランナー、金剛に代わりまして、相模(さがみ)。相模が代走でファーストベースに入ります。7番代走、相模。背番号69」

(っし!出番だ!)

「繋いでけ繋いでけ!」

「8番キャッチャー、冬島(ふゆしま)。背番号8」


 いきなりの四球であれば、続く打者もという期待はあるが、冬島の鈍足じゃと併殺もありうる。最低でも流れだけは()られんためにも……


「アウト!」

「送りバント成功!ワンナウト二塁!」

「ナイメイ冬島!」

「ほんま何かと無難にこなすやっちゃで」

(打ちたかったんやけどなぁ……まぁこの場面じゃ手堅くもなるか)


 DHありのリプじゃ、バントは大体キャッチャーの仕事。こういう時にきっちり仕事ができるという点でも、冬島はルーキーとは思えぬほどできる男じゃ。


「バニーズ、選手の交代をお知らせします。バッター、有川(ありかわ)に代わりまして、イースター。9番代打、イースター。背番号42」

「ここで代打イースターが送られます!」

「最近あまり調子が上がらないですが、こういうタイプの投手には強いですからね。要警戒ですよ」


(次に徳田が控えている以上、逃げることはできん。腹を括れ、矢井場!)

(理解()かってますわよ!)


「ストライーク!」


 この場面で切り替えてパワーのある外国人打者相手に堂々とファーストストライクを()れる……この点だけでも嚆矢園優勝投手として相当の場数を踏んだことがわかるのう。

 じゃが……


「……これは!右中間方向……落ちましたヒット!」


 まだまだ青い……!


「うおおおおおおお!!!」

「速っ!!?」

「二塁ランナー一気にホームへ!」

「させるか!!!」


 センター友枝の自慢の強肩で、バックホーム一直線。


(よし、これならギリギリ刺せる……!)

(このくらい間に合わせなきゃ……商売上がったりなんだよッ!!!)

「!!?」


 キャッチャー久保(くぼ)のタッチを掻い潜るように、ホームベースとは少し逸れた方向にスライディングし、ベース横を通過する瞬間にベースタッチ。


「……セェェェフ!!!」

「セーフ!判定はセーフ!!」

「よっしゃあ!!!」


「……おっと、ここで羽雁(はかり)監督が出てきて……リクエストです!」


 当然じゃな。久保のタッチを(かわ)せたかどうか微妙なとこ。しかも1点が非常に重い場面。ワシでもそうするわ。


「頼むで……!」

「アウトアウトアウト……!」


 滑り込んだ相模(さがみ)はホームベース付近で腕を組んで判定待ち。あの様子なら……


「今審判が出てきて……セーフ!セーフです!!判定覆らず、バニーズ4点目!!!」


「いよっしゃあああああ!!!」

「ナイスラン相模!」


 今度こそはと言わんばかりに、勝ち誇った笑みのままベンチに戻る相模をベンチメンバーで出迎える。


(くろ)!!やったじゃん!!!」

「へっ、このくらい余裕余裕。お前のピッチングに比べりゃな」


 8回裏を友枝含め3人で切った早乙女(さおとめ)が特に我が事のように喜ぶ。

 流石に徳田(とくだ)達ほどではないが、この2人が思いの(ほか)戦力になってくれたことも、今年の躍進の原動力となったのう。

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