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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
255/1160

第四十一話 答え合わせ(5/7)

バニーズ 2-1 ヴァルチャーズ

6回表

「ストライク!バッターアウト!!」

「三振!これで氷室も三振7つ目!!」

「プレッシャーがかかる状況で、今日かなり合わされてた友枝(ともえだ)にも臆さず勝負していけましたね。良い経験になったと思いますよ」

(ヤベー、前までの打席よりフォークキレッキレでヤベー……)


 張り切っておるのう。前の回から少し落ちたと思ってた球威が、この回になって息を吹き返したの。


「4番ファーストベースマン、成宮(なりみや)。背番号1」

(火織(かおり)が守って繋いで、リリィが打って作ってくれたこの勝利のチャンス!絶対に逃さねぇぜ!!)

(なめるな……!)


「ライト前……落ちましたヒット!」

「チッ……!」


 テキサスは出たが……まぁ事故の範疇じゃな。


「5番サードベースマン、穂村(ほむら)。背番号5」

「同点のランナーが出ましたヴァルチャーズ。打席には今日5番の穂村」

「ちょっと今日タイミング合ってないですね。何とかランナーだけは進めたいですが……」


 今日2三振じゃが、喰わせもんじゃぞ。油断するな。


「引っ張った!ショートバウンド、サード有川(ありかわ)よく捕った!!」

「セカンド!」

「アウト!」

「ファースト!」

「ぬおおおおお!!!根性ッッッ!!!!!」

「セーフ!」

「一塁セーフ!何とか間に合わせました」


 併殺は取れんかったか……


(うう……ワタクシメにもう少し肩があれば……)


 有川はどこでも守れるし球際にも強いんじゃが、どうしてもスローイングがな。メインのキャッチャーでもここだけは泣きどころじゃ。外野での送球はそれなりに力があるから、おそらく有川にとって最も適したポジションはセンターなんじゃろうな。


(今のは抜けなかっただけラッキーだ。割り切っていかねぇと。何せ……)

「6番レフトフィールダー、田所(たどころ)。背番号7」

「よろしくお願いいたしますわ」

(山場はまだ続いてるんだしな)


「るりっぺー!かっ飛ばせー!」

「逆転ツーランかましたれー!」

「さぁツーアウトですがここで迎えるのは田所!」

「今年二桁打ってますからね。バニーズも最後まで油断できませんよ」


 田所瑠璃子(たどころるりこ)。今年の向こうの打線で、おそらく友枝(ともえだ)に次ぐ厄介者。元より例年本塁打一桁台ながらも3割ほどの打率を残せて、現代の打者では稀少な、通算成績で四球が三振を上回っている巧打者。おまけに高校時代までは長距離砲として鳴らし、今年はキャリア初の二桁本塁打で長打もありうる。

 今日はここまで凡打と四球じゃが、安心できる場面ではないのう。


「ファール!」

「初球から振っていきました!」

(今年はスイング軌道をアッパー気味にしたせいで三振が(かさ)んでしまいましたが、結果として数字が付いてきましたし、こうやってコンタクトもできるようになりましたわ。ツーアウトで小町(こまち)様の健脚なら、ツーベースでも十分。そろそろ1本打たせて頂きますわよ)


「ボール!」

「ストライーク!」

(よし、良いところに決まった!これで……)

(決まりませんことよ)

「!!?」

「ファール!」


 やはり巧いのう……ナイスコースのまっすぐの直後でもあの対応力。


「引っ張ってファール!粘ります田所!」

「少し浮いたとは言え、氷室(ひむろ)のフォークにきっちり合わせてきましたねぇ」

(確かに今年は珍しく三振が四球を上回るペースやけど、それでも並の打者基準では十分に少ない部類。生粋の左利きやから、よくいる『作られた左打者』と違って膝下のスプリッターにも合わせられるくらいスイングも柔らかい)

(……上等じゃねぇか)


 いつもの必勝パターンがなかなか通用しない相手。となると……


(ならば……真っ向勝負あるのみだッ!!!)

(上等ですわッッッ!!!)


「!?これは……!」

「ッ……!」


 氷室の渾身のまっすぐ。捉えられはしたが……


「ショート下がって……下がって……」

「アウトォォォ!!!」

「捕りましたスリーアウト!!!」

「後ろ向きのキャッチになりましたが、この辺は流石ですね相沢(あいざわ)は」

「スリーアウトチェンジ!」


「っしゃあッ!!!」

(やられましたわね……このわたくしがストレートを待っていながら詰まらされるなんて)


 勝利に吠える氷室と、トップハンドたる左手をさすりながら悔しがる田所。やりおったわ。


「6回の裏攻撃終了、1-2!バニーズリードのままゲームは終盤へ突入します!」

「やったわ!これで氷室くんに勝ちが付くわ!」

篤斗(あつと)くーん!」

「バックもよう守ったで!」

「このまま逃げ切れー!」


「力勝ちですね」

「うむ」


 重要な回をきっちり守り抜き、観客に祝福されながらベンチへ戻っていくナイン。

 氷室の今年の台頭は、ツーシームスプリッター自体の威力のみならず、それを生かすまっすぐの球質向上もあったからこそ。速度こそ148km/hで今日最速というわけではなかったが、高めにスラリと通る良いまっすぐじゃった。ますます若い頃の旋頭(せどう)に似てきおったのう。


(くそ……このまま終わらせんぞ……!)


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