第四十一話 答え合わせ(5/7)
バニーズ 2-1 ヴァルチャーズ
6回表
「ストライク!バッターアウト!!」
「三振!これで氷室も三振7つ目!!」
「プレッシャーがかかる状況で、今日かなり合わされてた友枝にも臆さず勝負していけましたね。良い経験になったと思いますよ」
(ヤベー、前までの打席よりフォークキレッキレでヤベー……)
張り切っておるのう。前の回から少し落ちたと思ってた球威が、この回になって息を吹き返したの。
「4番ファーストベースマン、成宮。背番号1」
(火織が守って繋いで、リリィが打って作ってくれたこの勝利のチャンス!絶対に逃さねぇぜ!!)
(なめるな……!)
「ライト前……落ちましたヒット!」
「チッ……!」
テキサスは出たが……まぁ事故の範疇じゃな。
「5番サードベースマン、穂村。背番号5」
「同点のランナーが出ましたヴァルチャーズ。打席には今日5番の穂村」
「ちょっと今日タイミング合ってないですね。何とかランナーだけは進めたいですが……」
今日2三振じゃが、喰わせもんじゃぞ。油断するな。
「引っ張った!ショートバウンド、サード有川よく捕った!!」
「セカンド!」
「アウト!」
「ファースト!」
「ぬおおおおお!!!根性ッッッ!!!!!」
「セーフ!」
「一塁セーフ!何とか間に合わせました」
併殺は取れんかったか……
(うう……ワタクシメにもう少し肩があれば……)
有川はどこでも守れるし球際にも強いんじゃが、どうしてもスローイングがな。メインのキャッチャーでもここだけは泣きどころじゃ。外野での送球はそれなりに力があるから、おそらく有川にとって最も適したポジションはセンターなんじゃろうな。
(今のは抜けなかっただけラッキーだ。割り切っていかねぇと。何せ……)
「6番レフトフィールダー、田所。背番号7」
「よろしくお願いいたしますわ」
(山場はまだ続いてるんだしな)
「るりっぺー!かっ飛ばせー!」
「逆転ツーランかましたれー!」
「さぁツーアウトですがここで迎えるのは田所!」
「今年二桁打ってますからね。バニーズも最後まで油断できませんよ」
田所瑠璃子。今年の向こうの打線で、おそらく友枝に次ぐ厄介者。元より例年本塁打一桁台ながらも3割ほどの打率を残せて、現代の打者では稀少な、通算成績で四球が三振を上回っている巧打者。おまけに高校時代までは長距離砲として鳴らし、今年はキャリア初の二桁本塁打で長打もありうる。
今日はここまで凡打と四球じゃが、安心できる場面ではないのう。
「ファール!」
「初球から振っていきました!」
(今年はスイング軌道をアッパー気味にしたせいで三振が嵩んでしまいましたが、結果として数字が付いてきましたし、こうやってコンタクトもできるようになりましたわ。ツーアウトで小町様の健脚なら、ツーベースでも十分。そろそろ1本打たせて頂きますわよ)
「ボール!」
「ストライーク!」
(よし、良いところに決まった!これで……)
(決まりませんことよ)
「!!?」
「ファール!」
やはり巧いのう……ナイスコースのまっすぐの直後でもあの対応力。
「引っ張ってファール!粘ります田所!」
「少し浮いたとは言え、氷室のフォークにきっちり合わせてきましたねぇ」
(確かに今年は珍しく三振が四球を上回るペースやけど、それでも並の打者基準では十分に少ない部類。生粋の左利きやから、よくいる『作られた左打者』と違って膝下のスプリッターにも合わせられるくらいスイングも柔らかい)
(……上等じゃねぇか)
いつもの必勝パターンがなかなか通用しない相手。となると……
(ならば……真っ向勝負あるのみだッ!!!)
(上等ですわッッッ!!!)
「!?これは……!」
「ッ……!」
氷室の渾身のまっすぐ。捉えられはしたが……
「ショート下がって……下がって……」
「アウトォォォ!!!」
「捕りましたスリーアウト!!!」
「後ろ向きのキャッチになりましたが、この辺は流石ですね相沢は」
「スリーアウトチェンジ!」
「っしゃあッ!!!」
(やられましたわね……このわたくしがストレートを待っていながら詰まらされるなんて)
勝利に吠える氷室と、トップハンドたる左手をさすりながら悔しがる田所。やりおったわ。
「6回の裏攻撃終了、1-2!バニーズリードのままゲームは終盤へ突入します!」
「やったわ!これで氷室くんに勝ちが付くわ!」
「篤斗くーん!」
「バックもよう守ったで!」
「このまま逃げ切れー!」
「力勝ちですね」
「うむ」
重要な回をきっちり守り抜き、観客に祝福されながらベンチへ戻っていくナイン。
氷室の今年の台頭は、ツーシームスプリッター自体の威力のみならず、それを生かすまっすぐの球質向上もあったからこそ。速度こそ148km/hで今日最速というわけではなかったが、高めにスラリと通る良いまっすぐじゃった。ますます若い頃の旋頭に似てきおったのう。
(くそ……このまま終わらせんぞ……!)
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