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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
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第四十一話 答え合わせ(3/7)

「3回の表、バニーズの攻撃。9番サード、有川(ありかわ)。背番号0」


「有川ァ!せっかくのスタメンなんや!アピールしていけ!」

「この球場ならホームランいけるやろ!」


(でゅ、でゅふっ……期待してくれるのはありがたいんですけど、流石にホームランは無理ですねぇ……)


 有川はすでに守備走塁は一流じゃが、打撃はまだまだ。プロに入ってからどころか、生まれてから一度も柵越えホームランを打った事がない……らしいが……


「ファール!」


(ちぃっ、しつこいな……!)

(や〜っぱり大振りしてくる人より〜、こういうタイプの方が苦手だよ〜……)

(ホームランなんて打てないですけどね、裏を返せばその辺は割り切れてるんです。真木(さなぎ)さんは球威こそ球界屈指ですが、細かいコントロールはないですし、決め球もボールゾーンに逃げる球。しかも幸いこの打席はボール先行。欲張らずにいけば……)


「ボール!フォアボール!」


「選びましたフォアボール!」

「良い仕事しますねぇ。守備面で埋まらないポジションをカバーしつつ、打席でも自分の役割に徹するんですからね。10人目の野手レギュラーと言っても差し支えがないくらいの貢献ぶりですよ」


「よう見たよう見た!」

「これが高卒3年目という事実」


 初球からストライクゾーンにストレートを集められてたら厳しかったじゃろうが、初球すっぽ抜けからの綻びを上手く突いたのう。ベースの打力こそまだまだじゃが、選球眼は悪くないし、何より考える頭がある。

 余裕があれば二軍でじっくり打つ方も磨かせても良いんじゃろうが、あの守備走塁は惜しいし、できればこのまま一軍で伸ばしていきたいのう。


「1番セカンド、徳田(とくだ)。背番号36」


「さぁノーアウト一塁でバニーズ打線は二巡目へ!今日1番に入ってる徳田が打席へ向かいます!」

「3割近く打って14盗塁。守備だけではなく打線の方でも今年不調の赤猫(あかねこ)を見事にカバーしてますねぇ」


「かおりん!お得意さんやで!」

「次こそは打ったれー!」


(今日こそは全打席抑えるよ〜……!)

「ストライーク!」


 初球からスイング。今日の徳田はいつも以上に積極的にいくのう。


(三振献上したくないし、残り試合的に3割で終われるか微妙なラインだしね)


 まぁ何にせよ、フォークPに対して早いカウントのストレートを狙いにいくのは理に適った選択ではある。

 それに何より……


「!!?」


「引っ張って鋭い打球、一二塁間抜けました!ライト前!」

「っしゃあ!さすがかおりんや!」

「ほんとインコースに強いですよねぇ。夏頃はなかなか打球が飛んでなかったんですが、最近になってまた状態上げてきましたね」


(……全く面倒な奴だ。お菊のまっすぐですらあっさり引っ張れるんだからな……)

(でゅふっ……やっぱり火織さんはバッティングのものが違いますねぇ。ワタクシメだったらあのまっすぐ続けられてたら間違いなく三振してましたね)


 相応の結果を出せるからこそ、今年ここまでセカンドのレギュラーを任せてきたんじゃ。結果を出せるならやり方は選手に任せる。それでワシはここまで来たんじゃ。

 しかし、それでも徳田はどこか納得しとらんような顔をしとるのう。


(シングル止まりかぁ……ツーベースだったら理世(りせ)ちゃんの脚ならホームまで行けたはずだったんだけどなぁ。アタシの打率3割ももちろん大事だけど、それよりも今年二桁勝利いけるか微妙なあっくんに援護点あげたいんだよね。せっかくウチの先発陣で一番多く登板してるんだから)


「2番ショート、相沢(あいざわ)。背番号3」


 まぁ良い。この状況なら……


「右方向……落ちましたヒット!二塁ランナーホームへ!」

「セーフ!!!」

「セーフ!相沢先制タイムリー!」


「うおおおおお!!!!!」

「ヴァルチャーズ相手に先制だあああッ!」

「走攻守に優れた二遊間とか、ワイの知ってるバニーズやないんですがそれは……」


『強いチームには強いセンターライン』。短期決戦なら投手力がものを言うことが多いが、数をこなすペナントレースにおいては野手の総合力が最終的には滲み出てくる。

 去年から蒔いてきた種がようやく芽を出してきたのう。今年は『最下位脱出』に留まってしまうじゃろうが、来年あたりからは勝負していかんとのう。


「ゴホッ……ゴホッゴホッ……」

「監督?」

「……いや、何でもないわい」


 伊達(だて)の声で気を持ち直し、吐き出しかけたものを飲み込んで戻す。

 ……上手く()っても、来年が関の山じゃろうしな。


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