第四十一話 答え合わせ(1/7)
******視点:徳田火織******
2018年9月7日。ペナントレースもいよいよ佳境という時期。
流石にまだ順位は完全に確定してないけど、それでもこの頃になればチーム単位でも選手単位でもその年の出来の良し悪しというのはだいたい見えてくる。
アタシ達バニーズのいるリーグ・プログレッサー……リプはAクラスとBクラスがほぼ確定。
Aクラスは、春先からほぼ常に首位で、優勝候補筆頭と目されるビリオンズ。ずっと中間くらいに落ち着いてたけど、先月から追い上げてきて2位に浮上したヴァルチャーズ。今年から幾重光忠抜きでもまだまだ役者揃いのエペタムズ。
つまりBクラスはバニーズとアルバトロスとウッドペッカーズなんだけど、ウッドペッカーズはビリオンズとは真逆で、春先からほぼ常に最下位独走状態。
要するに今のリプはビリオンズとヴァルチャーズが首位を、バニーズとアルバトロスが4位を争ってるような状況。一応、まだAクラスの可能性も残ってはいるんだけどね。そして逆に言えば、最下位の可能性も一応残ってる。
だから万年最下位のウチにとっては、『最下位脱出』という目標の達成のためにも、まだまだ勝ちにいかなきゃいけない状況。
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2018ペナントレース バニーズvsヴァルチャーズ
○天王寺三条バニーズ
監督:柳道風
[先発]
1二 徳田火織[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3中 森本勝治[右左]
4一 天野千尋[右右]
5指 リリィ・オクスプリング[右両]
6右 松村桐生[左左]
7左 金剛丁一[左左]
8捕 冬島幸貴[右右]
9三 有川理世[右左]
投 氷室篤斗[右右]
●博多CODEヴァルチャーズ
監督:羽雁明朗
[先発]
1右 ■■■■[右左]
2遊 睦門爽也[右右]
3中 友枝弓弦[右左]
4一 成宮知久[右右]
5三 穂村小町[右右]
6左 田所瑠璃子[左左]
7指 ■■■■[右左]
8捕 久保正典[右右]
9二 ■■■■[右左]
投 真木菊千代[右左]
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たとえ相手が、優勝争いをしてるヴァルチャーズであろうとね。
開幕戦と同じく、今日の試合は向こうの本拠地のヨグバゲドーム。こっちでの3連戦は今日からので最後っぽいけど、このカードの後にもヴァルチャーズとは何試合かやる予定。
ただ、一応今年中のセカンドのレギュラーが安泰のアタシはもしかしたら逆に消化試合の時期に入ったらあんまり試合に出れないかもしれないし、同じく向こうのショートのレギュラーに定着してる爽也くんとの勝負もこのカードが最後になるかもしれない。
そして何より……
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「1回の裏、ヴァルチャーズの攻撃。1番ライトフィールダー、■■。背番号■■」
「さぁ本日のバニーズの先発はついに今年ブレーク、"将来のエース候補"と期待される氷室です!」
「チームの先発陣で一番多くの試合を投げて、一番三振を奪ってるんですからね。ほんとに成長しましたよ」
「氷室くーん!」
「今日もいっぱい空振り奪ってねー!」
「氷室ー!まだAクラスいけるんやからきばれやー!」
今日の先発はあっくんで、向こうの先発が真木さんだからね。
どっちも現状、トップとは少し離されてるけど、それでも奪三振数は横並びで一応タイトルの可能性も残ってる。表の攻撃で初っ端から打ち取られちゃったけど、それでも一応三振は免れた。アタシとしては守備であっくんを支えたい気持ちもあるけど、できることなら残り少ない試合でどんどん三振を稼いでほしい。
「初球打ちレフトへ!レフト前ヒット!」
「スプリット警戒からか、積極的に打っていきましたね」
うーん、なんともデジャヴ。確か開幕戦もこういう流れだったよね?あの時とはセカンドの人とライトの人とで打順が逆だけど、初球打ちシングルなのは同じだったはず。
(よしよし、必勝パターンだ……!)
「2番ショートストップ、睦門。背番号6」
「送っていきます!」
「ファースト!」
「アウト!」
「睦門、送りバント成功!」
爽也くんが悠々と送る。これも確か同じ。んで、次は……
「3番センターフィールダー、友枝。背番号9」
「さぁヴァルチャーズ、いきなりのチャンスで友枝を迎えます!」
「バニーズとしては初回から怖い場面ですね……」
「友枝ー、バントの直後でも気にせずぶちかませー!」
「今年こそホームラン40本、チェストたい!」
もはや説明不要の最強打者、友枝さん。春先はポップフライばっかりで不調だったけど、どうも今流行りのフラレボ向けに色々調整してたみたいで、結局それが功を奏して今年はホームランがキャリアハイペース。元々毎年飛距離の割にあんまり本数の多くない人だったんだけど、今の時点でもう30本を超えてる。OPSも相変わらずトップで、首位打者も争ってる。
確かにまずい状況だけど……
(……篤斗、ええな?)
(おう!)
「ボール!」
「ボール!」
「ファール!」
「ボール!」
「ストライーク!」
キャッチャーじゃなくても、あっくんの投球は穴が開くほど視てきたからわかる。かなり慎重な配球。とっておきのツーシームスプリッターを初球から積極的に使って、アウトはあわよくばくらいで、とにかく甘いとこには絶対投げないようにって感じ。
「ファール!」
「ボール!フォアボール!」
「選びましたフォアボール!」
「フルカウントまで立て直されましたけど、この選球眼があるからこその友枝ですよね」
(いやぁ、そういうわけじゃねーんだけどなぁ。余裕でボールだったし。この状況、むしろヤベーんじゃね?)
友枝さんには四球献上。これも開幕と同じ流れ。それってつまりは……
(……火織)
ランナーを見るついでに、アタシの方を見て少しだけ笑ったあっくん。やっぱり偶然とかじゃなく、託してくれたんだね。開幕ではああなったのに。
なら、やるしかないよね……!
「4番ファーストベースマン、成宮。背番号1」
「ワンナウト一二塁で4番の成宮に繋げてきましたヴァルチャーズ」
「今年はあまり調子が良くないですが、ここぞというときの集中力はすごいですからね。一仕事を期待したいところです」
「ストライーク!」
「ボール!」
「ファール!」
(サード方向のゴロが最悪、最低でも右方向のゴロで進塁打の場面だが、あえての外攻め。となると……)
「……ボール!」
「外れましたボール!」
「インコースのツーシームですかね?良いとこだったんですけどねぇ……」
(やはりあわよくばと言ったところか。だが、インコースは張ってるし……)
(これで勝負……!)
(氷室はスライダーとカーブはさほどでもない。これなら……!)
「打ったァ!これは一二塁間……」
……ほんとに来ちゃうとはね。
「いや、セカンド追いついた!」
「何……!?」
もう感覚は掴んだよ、一軍の打球……!
「アウト!」
「セカンドフォースアウト!」
「アウト!スリーアウトチェンジ!」
「ファーストもアウト!!4-6-3ダブルプレー!!!バニーズ二遊間、鉄壁の守りを魅せました!」
「いやぁ……今のよく追いついて、しかも送球間に合わせましたねぇ。ゲッツー体制で二塁寄りにいたのに……あっち方向に行くのを想定してたのか、一歩目が素晴らしかったですねぇ」
「よっしゃあ!かおりんナイスや!!」
「ほんま守備良うなったわ……」
「夏場くらいに我慢して使い続けた甲斐があったな」
「相沢もファーストよう間に合わせたで」
(バカな……!?この場面で無得点だと……!!?)
あの時は一歩目の時のイメージよりも打球のスピードが落ちなかったからテンポが合わなくて捕れなかったせいで1点取られたけど、ここのグラウンドってゴロのスピード自体は人工芝の割に遅いんだよね。だから追いつくくらいはできるし、テンポが分かった今なら送球にもスムーズに入れる。
「……おい、徳田」
「はい」
「やるじゃねぇか」
「相沢さんも、よくアタシのプレーについて来れましたねー」
「バカ言え。あのくらい楽勝だわ」
アタシだって成長して、相沢さんのお墨付きももらってるんだからね。




