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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
246/1161

第四十話 いつか貴女と(4/8)

******視点:三条菫子(さんじょうすみれこ)******


 ようやく見せてくれたわね、貴女の才能の片鱗。

 貴女と私は別の個人。しかも貴女はただでさえ計り知れない"ブラックボックス"。だから、どんなインターフェースで、どういうアプローチでその才能を発揮してるのかはわからない。

 だけど、最近のラッキーなヒットといい、少しずつだけど『ありすぎる才能に振り回される』のからは脱してきてるみたいね。


「1番センター、■■。背番号■■」

「よっしゃよっしゃ!せっかくの得点圏や!決めたれ■■!」


「ボール!フォアボール!」


 まさに文字通りの四球。確実にアウトを取れると踏んでたところでつまづいたのが効いたのかしらね?


「2番セカンド、桜井(さくらい)。背番号39」

(よしよし、得意の左相手に得点圏。稼がせてもらいますか♪)


 ツーアウト一三塁。一塁ランナーは1番なだけあって走力はある。普通に考えれば……


「セーフ!」


 一塁警戒。当然ね。0点で終わるリスクはあるけど、どのみちバッターがヒット以上を狙わなきゃいけない場面。ここで二塁に行ければリターンも大きい。


(まぁヒットの価値は変わらないけど、こういう時にアシストできるかも査定に関わるとこだからね。めんどくさいけど、協力してあげるわよ)


「ボール!」


(落ち着け、満塁はまずい)

(わかってるよ!)


 まぁ向こうのバッテリーもその辺はわかってるわよね。逆に一塁ランナーを刺せると美味しい場面だから、気にするのは無理もない。


(……これでどうだ!)






「!!!!!」


 な……!?


「!!!おい、バックホームだ!」


 相手投手が一塁へ2つ目の牽制を入れた瞬間、三塁の月出里逢(あのこ)がホームへとスタート……


「くそッ……!」




「……セェェェェェフ!!!!!」

「おっしゃあああ!!!!!」

「まさかのホームスチールで草」

「マジで……!!?」


 向こうの守備はもたつかなかったけど、それでも十分にセーフのタイミング。まさかの形で先制点。

 この場面、私もその可能性はあると思ってた。向こうは左投手(サウスポー)で一塁警戒の最中。確かに隙はあった。

 だけど、月出里逢(あのこ)からはスタートの気配を全然感じられなかった。だからこそ向こうのバッテリーも一塁警戒を優先してたはず。いつでも走り出せるように大きめにリードを取る一塁ランナーと違って、本当に無難なリードで走り出す体勢でもなかったのに、突然強く地面を蹴って、あっという間にホームまで滑り込んだ。


「やるやんけちょうちょ!」

「ほんま走るのはガチやな……」

「ボーッと立ってると思ってたらいきなりとんでもねぇ勢いで走り出してびっくりしたわ……」

(何だと……!?)

(……こんの月出里(クソブス)がぁ……!()せ場奪いやがって……!!)


 観客のまばらな賞賛も、九十九(つくも)の驚嘆も、打席の桜井鞠(さくらいまり)の睨みも一瞥(いちべつ)もせず、ただ私の方を向いて少し笑って一瞬だけピースサインを見せた。


「ふふっ……」


 ほんと、飽きさせない子だわ。初めて()った時から、貴女はいつもそう。


「アウト!スリーアウトチェンジ!」

(クソが……!結果的に月出里(クソブス)の判断を正解にしちまった……!!)


 良い当たりだったけど、外野の捕球範囲内。桜井鞠には十分な素質があるからこそ、私がオーナーになった時に整理対象に入れなかった。普段の振る舞いとは裏腹にかなり感情の起伏が激しいタイプなんでしょうね。あの子が走ってなければ……って考えても詮無いことね。


「3回の裏、ジェネラルズの攻撃。8番キャッチャー、■■。背番号■■」


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「よっしゃあ!ナイバッチ三木(みき)!!」


 流石はリーグの現状首位打者。ツーベースでツーアウト二三塁。


「3番ショート、九十九(つくも)。背番号99」


「一打逆転だぞ九十九!」

「昨日みたいにホームランでも良いぞ!」

「もういっぺん格の違いを教えてやれー!」


 九十九は脚のあるショートの左打者だけど、そのイメージに反して本質的にはパンチ力のあるプルヒッター。ウチの打者だと徳田火織(とくだかおり)に近いけど、彼女と違って角度のある打球も打てる。流石に彼女ほどの選球眼や柔軟さは持ち合わせてないけどね。


(……とりあえずセオリー通りいくぞ)


 だからまぁ、ウチのバッテリーが意図するように、外中心に攻めるのがセオリーではあるんだけど……


(甘い……!)

「ッ!!?」

「ファール!」


「あっぶな……」

「もうちょっとでレフトフェアゾーン入ってたで……」


 アイツは伊達に大阪桃源(おおさかとうげん)の4番を張ってなかった。『三条主将(わたし)の投球を信じて』とか言って、欲張らずに最低限の打撃を遂行する器用さも持ち合わせてる。


(大丈夫だ!甘く入りさえしなければ外が一番安全なんだ!!)


「ボール!」

「ボール!」

「ストライーク!」


(よし、どうにか追い詰めた……!)

(二軍であろうとやはりプロだな。こうも苦手なところに集められるとなかなか手が出せん……が)


「ファール!」


(別に一発は必要のない場面だ。焦らずに打てる球を待つ……!)


 まぁそれでもアイツは自分でも言うように融通の利かない奴だからね。たまにいる悪球打ちのバッターみたいに、『フォームを崩してでもとっさに来た球を打つ』みたいなことはほとんどしない。『コレと決めた球をひたすら待って振り抜く』、そういうタイプ。"天才打者"ならぬ"秀才打者"って感じの奴。


(……!まずい!!)

(もらった……!)


 やば……甘い!!!


「!!!セカ……」




「ッ……!!?」

「は……?」


 ひたすらの外への投球が逆球。お得意の内寄り甘めに入ってしまったまっすぐを弾き返して、痛烈な打球はセカンド方向、処理が難しい勢いのあるハーフバウンド。守備力に優れる桜井でも、捌けないのは致し方ないくらいの代物。外野まで抜かれなかっただけ大したもの……だけど、


「ファースト!」


 捕球しきれず、グラブからこぼれてショートの方に弾いてしまった打球を、二塁カバーに入りつつだった月出里逢(すだちあい)がとっさに斜めに跳んでベアハンドキャッチ。それをそのまま一塁へ送球。


「……アウトォォォォォ!!!!!」


「うおおおおおおおおおお!!!!!」

「マジかよ!?今のを捌きやがった!!」

「今日のちょうちょマジやべぇ!!!」


(やられた……!)


 一塁を踏んだ勢いそのままに、渋い顔で天を仰いだまま駆け続ける九十九。無理もないわ。私もあれは流石に最低でも内野安打にはなると思ったわよ。


「スリーアウトチェンジ!」


「ちょうちょ!今日のちょうちょはマジ最高や!」

「桜井もよう喰らいついたわ!」

「この調子で昨日のリベンジかましたれー!」

「名門のボンボンどもに目にもの見せたれー!」


 最低限声援に応えるためか、申し訳程度に手を挙げながら、ベンチに帰っていくあの子。

 ただでさえあの子自身が昨日以上に集中してる上に、昨日の反動なのかツキも完全にあの子に集まってるわね。この流れはそうそう覆りそうもないわ。


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