第三十八話 再会(7/7)
2018ファーム バニーズ 3-0 ジェネラルズ
3回裏 1アウト満塁
打席:九十九
投手:常光
小生は融通の利かん男だ。三条主将に言われるがままになっていなければ、おそらくせいぜい控え投手程度で、嚆矢園での栄光を掴むことも、プロに擁立されることもなく終わっていただろう。『走攻守に優れる』と讃えてもらえはするが、逆に言えばそれしか優れていないのだからな。だから、月出里逢が"怪物"であること自体はこの目で見てよく理解しているが、その所以までは恥ずかしながらまだ理解できていない。
だが、それが理解できずとも、上回ることはできる。
「ストライーク!」
「よっしゃ!追い込んだで!」
「常光!キッチリ締めたれー!!」
あの稀代の天才・三条菫子にとって、あったはずの『未来の可能性』。"世界一の投手"……それどころか幾重光忠をも凌駕するほどの二刀流選手。そういう可能性も、三条菫子はおそらく内包していた。小生のような凡才ではその全てを代わりに実現するなど、到底できることではないだろう。
だがそれでも、小生は三条菫子の『未来の可能性』の一部を授けられた者。たとえ今現在、三条主将の元にいるのが小生ではなくあの"怪物"であったとしても、その点だけは揺るぎない事実。
故に小生は、せめて三条主将の代わりに、あの"怪物"を打倒する。そう望んで、三条菫子という可能性は潰えてしまったのだから……!
「ぎゃあああああ!!!!!」
「行くな!行くな!越えるな!」
「いやったあああああ!!!!!」
「逆転!逆転満塁ホームラン!!」
「あ^〜若手ポジが止まらんのじゃ^〜」
「これで神結の後釜は安泰やな(ご満悦)」
会心の当たり。常光氏は確かに球威に優れているが、辛抱強く待っていれば甘い球が必ず来ると予想していた。第一打席ではうまくいかなかったが、良いタイミングで来てくれた。
(……くそッ!!!)
悠々とダイヤモンドを駆ける中、月出里逢の姿を見る。小生の方を見るでもなく、ただ茫然としながら涙をこぼしていた。
「あーあ、これで常光に自責1付くんか……」
「まぁバッテリーエラーも遠因やけど、これはちょっとなぁ……」
「打っても守ってもお荷物やなぁホンマ……」
「うわ、あのねーちゃん良いとこなしだな……」
「可愛いからなんとなく応援しようと思ってたんだけどなぁ」
「あれが噂に聞く"顔だけ枠"ってやつか……」
「まぁ日頃から男と遊んで練習とかしてねーんじゃねーの?」
「リプの連中、最近散々リコのこと弱い弱いって馬鹿にしてるくせに、自分らのとこにはこんな球団置いてるのかよ」
(月出里ざまぁwwwwwwww)
大衆のみならず、向こうのセカンドの桜井女史もグローブで顔を隠しながら、しかし明らかに笑っている目元を出して月出里を見つめていた。
……なるほど、バニーズが低迷してきたわけだ。大阪桃源では考えられなかった光景だ。
月出里逢、貴様に恨みや妬みなどない。故に、今の貴様を大衆と共に嘲笑ったりもしない。あの悲劇は貴様が直接引き起こしたことではないのだからな。表面上の責任は監督が取られたし、監督にも小生自身にも止められなかった責任がある。
だがそれでも、三条主将に擁立されてここにいる以上、貴様にも責任がある。貴様は三条主将がそう認識したように、"怪物"にならなければならない。三条菫子という可能性が潰えたに値する"怪物"にならなければならない。それが貴様の責任だ。
仮にそんな無様な姿を晒して何も成し遂げられないまま終わってしまうのなら、その時に初めて、小生は貴様を軽蔑し、憎悪するだろう。
だから、このくらい乗り越えてみせろ。その上で、小生は貴様に勝つ……!




