第三十八話 再会(5/7)
2018ファーム バニーズ 3-0 ジェネラルズ
3回裏 1アウト満塁
打席:九十九
投手:常光
******視点:九十九旭******
「九十九ー!どでかいのかましたれー!」
「父ちゃん!九十九だよ九十九!」
「常光!ルーキーに調子乗らせんなや!!」
……まさか貴様がこんなお膳立てをしてくれるとはな、月出里。
貴様の実力はそんなものではないだろう?あの三条主将に勝ったほどの貴様が……
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幼少期から、小生は野球少年の例に漏れず、元よりプロ野球選手を志していたが、それ以上に高校野球に……嚆矢園に強い憧れを抱いていた。そしてそういう類の例に漏れず、元々は投手としての大成を目指していた。
中学の頃までは投手として特別大きな功績はなかったが、それでもシニア全国経験などを買われ、憧れだった大阪桃源……高校球界最強校の一員となることが許された。
「次、九十九……お主は38番でおじゃる」
当然、入部まもなくで監督から渡されたのは補欠の背番号。その理由はもちろん、小生がまだ実力不足だったということもあった。だがそれ以上に、大きな壁があった。
三条菫子。王者・大阪桃源で、入部まもなくからベンチ入りが許され、1年秋にはエースとして抜擢、2年春のセンバツで優勝投手という、まごうことなきスーパースター。常に冷静沈着、140km/hを超える糸を引くようなフォーシームに、ワンシームやサークルチェンジ、カットボールなどの多彩な変化球をコーナーに集めるという、超高校級の完成度を誇る好投手。
ただ、小生はその頃はまだそこまでの焦燥はなかった。確かに実績だけ見れば超一流ではあるものの、球速や球質といった投手としての将来性や傑出性は同学年の妃房蜜溜女史と比べれば明らかに見劣りするし、小生も同じようにこの環境で研鑽を重ねればエースの座を奪い取ることも十分できると、そんなふうに高を括っていた。
だが、それがどれほど甘い見通しであったかを、入部してほんの1週間ほどで思い知らされることになった。
「それじゃそろそろ始めるわよ」
「はい!」
小休止も兼ねて、三条主将のブルペンでの投球練習を見学。いくら安い見積もりであっても、格上の投手であることに違いはないから、あわよくば何か参考になるものがあればと、最初はそのくらいの気持ちで見ていた。
「んじゃ、とりあえず『外角低めに137km/hまっすぐ』ね」
耳を疑った。コースを事前に決めるところまではわかるが、球速まで設定。もちろん、最初は『大体そのくらい』の気持ちでの発言だと考えた。
だが……
「オッケーイ!」
「まぁまっすぐは楽勝ね」
マネージャーの目の前にある、機材と接続されたPCの画面を見てみると、その投球の球速と球種、コースの記録。本人の申告通り、『外角低めに137km/hまっすぐ』。
「次はそうね……『左打者のインハイ131km/hのカッター』にでもしとくわ」
投じられた2球目。コースは申告通り。だが球速は……
「……ごめん、今の2km/h遅くなかった?」
「!!?」
「は、はい!」
当たっていた。『左打者のインハイ129km/hのカッター』……
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「よろしくお願いします!」
「ん、よろしく」
実戦形式の打撃練習。三条主将と初めて対戦したのは、小生が打者ではなく投手として。
投球練習では恐ろしいものを見せられたが、実力と直結するものではない。打線でも5番以上を任される三条主将が相手であれば、投手としてのアピールに直結する。そう割り切った。
しかし……
「!!?」
「んー、右中間抜くつもりだったんだけどね……」
一打席目からいきなりのスタンドイン。確かに実力は明白となった。小生の完敗という形で。
「うん、1年にしちゃまぁまぁね。そんじゃ、今度は私が投げるわ」
「はい……」
小生が投手ではあったものの左打ちなのは、打においての自信の表れ。プロでさえ『投手は9番目の打者』という考えがいまだに根強いのだから、高校野球なら尚更。故に、せめてこちらでは一矢報いたいと考えたが……
「ッ……!!!」
「あら、良いスイングしてるじゃない」
こちらでも完敗。いくら妃房蜜溜ほどの球威はないと言っても、制球は確実に上だし、高校球界最高峰の投手であることに変わりはない。
「貴方、この前内外野のノック受けてるの見たんだけど、今日のスイングと言い、見どころがあるわね。初見で私のサークルチェンジをカットしたのは大したものだわ」
「どうも……」
「だから貴方、今日から野手やりなさい。投手のままじゃどうせ私には絶対に勝てないから」
「……は?」
「うむ、確かにな」
「か、監督!?」
「元より麻呂がお主を評価してたのは打者としてておじゃる。三条も言うのなら間違いはなかろう。九十九、お主は今日から内野組に入れ」
「……はい」
立場上、逆らう術がなかったが、当然、最初はその方針に不満しかなかった。
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