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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
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第三十八話 再会(1/7)

******視点:財前明(ざいぜんあきら)******


 8月8日、まさに外飲みシーズン。


秋崎(あきざき)ちゃん秋崎(あきざき)ちゃん!」

「……あ、財前(ざいぜん)さん、お疲れ様です」


 寮の廊下で、偶然を装って話しかける。

 秋崎ちゃんは普段あんまり関わりのないオレに対しても笑顔で対応。が……


「秋崎ちゃん、最近元気ないねぇ、夏バテかな?」

「い、いえ……ただ、最近試合で結果が出なくて……」


 まぁそれだろうな。ちょっと前まで絶好調だったのに、あのヒス女……西園寺(さいおんじ)にぶつけられて以来、嘘のように絶不調。今日も4タコだったからなぁ、多分明後日からの遠征には出られねぇだろうな。


「うんうん、プロでもアマでも、調子の波ってのはつきものだよね。こういう時は気分転換が良いよ。今度チームの何人かと阿倍野のビアガーデン行くんだけどさ、秋崎ちゃんもどう?」


 背中に手を当て、さりげなく脇腹の方までさする。もう少し前まで回り込みてぇなぁ。こんなにデッケェんだからなぁ。


「い、いや……!わたし、まだ未成年で……」

「ちょっとくらい大丈夫だよちょっとくらい!ここだけの話、(まり)だってルーキーイヤーに行ったんだからさ!」

「いえ、わたし、財前さん達と違って二軍でもまだまだ半人前ですし、そんなことしてる余裕は……し、失礼します!」

「チッ……」


 やっぱガード(かて)ぇな……

 (まり)は飲みに誘うまでは楽勝なんだけど、アイツとんでもねぇザルだから、結局一度もお持ち帰りできてねぇんだよな。千代里(ちより)は範囲外だからどうでも良いんだけど。


「あーつまんね……」


 (くろ)は千代里と一緒に一軍だから、アイツを餌にして合コンとかもできねぇし。

 全く、オレの価値がわかってねぇ女だらけで困るわ。三条(ウチのオーナー)もお高く止まりやがって。一発やらせてくれりゃ許してやるんだけどなぁ。

 まぁ今度の相手はジェネラルズだから、帝都の方で遊ぶかねぇ。


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******視点:月出里逢(すだちあい)******


 練習と試合の後は身体だけじゃなく、何か頭もだるい。別に自分の苗字になぞらえた痛いキャラ付けでも何でもなく、こういう時は月光浴に限る。今日は一軍のナイター直前まで雨が降ってたから、此花区の都会の夜空もいつもよりクリア。寮の庭に出てボーッと星を眺めてると、暑さを言い訳にした薄着のおかげで、夜風に撫でられるのが心地良い。

 しばらくして、待ち望んでたメッセージアプリの返信。すかさず発信ボタンをタップ。bPhoneを耳に当ててるのに、呼び出し音はやっぱり夜だと響いてしまうけど、応答に時間はかからなかった。


「……あ、もしもし、お疲れ様です」

「ん、お疲れ。元気してた?」


 電話の相手は三条(さんじょう)オーナー。淡々としてるけど、あたし自身が期待してる分の補正もあってか、優しい問いかけに聞こえる。


「はい。あの、実は明後日からのジェネラルズとの2連戦、あたしも出してもらえるみたいで……」

「ジェネラルズ戦?……ああ、確かに二軍だとパークでデーゲームね」


 そう、つまりは帝都……正確には神奈川なんだけど遠征。前のビリオンズ戦で1試合出塁率10割の時から、四球が稼げたりラッキーなヒットが続いてるし、守備走塁も変わらず好調。ようやく、代役とかじゃなく正式なメンバーとして遠征の切符がもらえた。しかも目当てのジェネラルズ戦。


「あ、あの……それでですね……」

「?どうしたのよ?」

「その、お忙しいのはわかってるんですけど、観に来てくれますか……?」

「!そうね……うん、多分大丈夫。私も夏休み中だからちょうど良いわね。久々に視察に行かせてもらうわ」

「ありがとうございます!あの、それともしよかったら、試合の後、どこか食べに行きませんか?」

「……ふふっ、また私におごらせる気なの?」

「そ、そんなことないです!ただ純粋に一緒に……」

「冗談よ冗談。ファンサービスの一環、でしょ?」

「……はい」

「それならもちろん構わないわよ。楽しみにさせてもらうわね」


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「〜♪」

「どうしたの月出里(すだち)さん?何か良いことあったの?」

「……!はわっ!?い、いえ……!」

「まぁ何でも良いけど……廊下でスキップはやめといた方が良いよ?」

「す、すみません……」


 廊下ですれ違った山口(やまぐち)さんに急に話しかけられた。普段、他人との関わり合いを最低限にするためにできるだけ何事も表情に出さないようにしてるんだけど、逆にこういう時に表に出まくっちゃうのが困る。


「……ん?」


 向こうには佳子(よしこ)ちゃんの姿。こっちに向かってるけど、俯いたままであたし達に気付いてない感じ。


秋崎(あきざき)さん、前向いてないと危ないよ」

「……!は、はい!すみません!」

「どうしたの、佳子ちゃん?」

「う、ううん!何でもないよ!」


 そう言ってそのまま、自分の部屋の方に向かっていく佳子ちゃん。

 何となく理由はわかる。前のビリオンズ戦以来、あたしと佳子ちゃんの調子がそっくりそのまま入れ替わった感じになっちゃったからね。


「……月出里さん」

「はい」

「好事魔多し、だよ」

「?何ですかそれ?」

「上手くいってる時ほど、いきなり思いもよらないところから邪魔が入ったりするってこと」

「佳子ちゃんのことですか?」

「月出里さんについてもだよ」

「……そうですね」


 難しい言葉で返すなら『忠告痛み入る』だけど、正直、水を差さないでほしいなぁって気持ちもある。


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