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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
226/1166

第三十六話 シュート・ザ・ムーン(6/7)

******視点:雨田司記(あまたしき)******


「アウト!ゲームセット!」

「ご覧頂きました一戦は、5-7でビリオンズの勝利となりました。本日のご観戦、誠にありがとうございました」


 中盤までは落ち着いたゲーム展開だったけど、お互いに先発が降りてからは点が動いて、最後は追い付かず。

 つまり、ボク自身は結果的に上々な内容だったってことになるんだけど……


「…………」

秋崎(あきざき)、背中はもう大丈夫かい?」

「!!!あ、うん……大丈夫だよ、でへへ……」


 上々な内容にしてくれた秋崎がこの調子だからな……


 あの死球以来、いつもほど明るい感じがないし、プレーでも覇気がなくなってしまってる。

 報復なんて褒められた行為じゃないから、そのことについて感謝や好意が欲しいなんて贅沢を言うつもりはない。せめて溜飲は下がってくれればって気持ちだけど、それも叶ってなさそうだな。どうすればまた元気づけられるか……


「どうしたもんかねぇ……」

夏樹(なつき)……」

「あっし自身は責めるつもりはないけどさ……ああいうの、あっしだったら多少は気が晴れるけど、そういう奴じゃないから佳子(よしこ)のこと気に入ってるんだろ?」

「……そうだな」


 夏樹の言う通りだな。結局は独りよがりだったのかもしれないな……

 ……それと。


月出里(すだち)、ミーティングの後ちょっと話せるか?」

「……?うん、良いけど……」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 寮の自販機コーナーで、ご所望のノンシュガーティーと、ボクの分のミネラルウォーターを購入。


「ん」

「ん、ありがと」


 ノンシュガーティーを渡し、近くのソファに1人分のスペースを空けて、ボクと月出里は座った。


 改めて考えてみると、月出里と2人で話す機会って全然なかったな。いつも秋崎か夏樹かを挟んでか、あるいは4人揃っての時ばかりで。

 別に嫌ってるわけじゃない。むしろ逆。練習熱心なとことか勝負に対する姿勢は共感できる部分が多いし、あの妃房蜜溜(きぼうみつる)に勝ってみせた底力とか、そういうところには敬意さえ覚えてる。単に、感性が近いからわざわざ話し合う必要がないってのが正しいんだと思う。多分月出里の方も。実際、今日の報復の打ち合わせにしても最低限の言葉と身振りで十分だったからね。

 だからこうやってわざわざ呼んだのも、情報交換とかそういうのよりは答え合わせに近いんだと思う。


「2打席目のピッチャー返し……あれは狙ってやったのかい?」

「……知りたいの?」

「とぼけないってことは、そういうことなんだね」


 一口目を多めに含んで、ゆっくり飲み干してから、月出里は教えてくれた。


「あたしは勝負するにしても、相手の土俵に立って勝つのが一番好きだからね。ウチのオーナーとかあの変態……妃房蜜溜(きぼうみつる)みたいに、真っ向勝負に持ち込んでくれればそれが一番ありがたいし、そういう投手とできるだけ勝負したいんだけど」

「良い性格をしてる」

「打者ってそういうものでしょ?投手が投げた球に応じてバットを振るんだから、常に受け身なんだよ」

「確かに……だから野手になったのかい?」

「テレビで初めて野球を観て、その時の打席でたまたま打者がホームランを打ったからかもしれないし、元からそういう性格だったのかもしれないし、どっちが先かはあたしにもわからないかな。ただ少なくとも、投手はやらないってのはその時から決めてたよ」

「ボクも似たようなものだ。初めて現地で観た試合で、地元チームのエースが活躍してたからピッチャーになろうと思った」

「結局は『打者をやりたい』『投手をやりたい』よりも先に、まずは『勝ちたい』ってのがあるのかもね」

「人にもよるだろうけど、キミとボクはそうなのかもしれないね」

「あのピッチャー返しもそういうこと。『佳子ちゃんの仇討ち』っていう意味合いももちろんあったし、『同じ打線の一員として自衛のため』ってのもあったけど、一番は『バカの土俵でバカに勝つため』。そうすれば相手に言い訳の余地がなくなるし、勝ち負けもよりはっきりするからね」

「3打席目でわざわざビーンボールをカットしてたのも……」

「昔色々あったから、他の人の悪巧みなんて手に取るようにわかるんだよ。どうせ脚が痛くて手が滑ったのを言い訳にぶつけるつもりだったんだろうね。ああいうバカは身体だけじゃなくて心もへし折らないと、どこまででもつけあがる」

「本当に良い性格をしてる」

「自覚はあるよ」

「誰に対してもアレをやろうとは思わないのかい?終始アレを狙ってれば打率だけなら数倍は稼げるはずだし、盗塁だって生かせると思うけど?」

「ホームランにならないから嫌。それどころか長打も厳しいし。そんなの"スラッガー"じゃないじゃん」

「……フッ、そういうことか」


 それが一番知りたかった……いや、確かめたかった。


「それに、あたしの打球が速くて危ないってのは当然わかってるしね。せっかく真面目に勝負やってる投手にまでやってたら、それこそあたしの方が言い訳できなくなるよ。投手がストライクゾーンに投げるのが基本であるように、打者は守備の手の届かないとこに打つのが基本でしょ?」

「そうやって配慮してくれるのは、同じ投手としてありがたいね。だから、真っ向勝負が良いんだね?」

「どうせホームランを打つのなら、良い投手と良い勝負をした上でが良いからね」

「贅沢な悩みだな。好ましいものだ」

「……誰にも言わないでね?高校の頃だって、ドラフトにかからないの覚悟の上でできるだけ封印してたんだよ?あたしは"世界で一番のスラッガー"になっても、"ピッチャー殺し"になるつもりはないんだから」

「こうやって素直に話してくれた時点で、それ相応の信頼をしてくれてるんだろ?応えるさ」

「……ありがと」


 そう言って月出里は、もう半分は飲んでしまったペットボトルをボクの方に向けた。ボクの方ももう飲み終わる頃だけど、今更の乾杯を交わした。

 やっぱりキミは大した奴だよ、月出里逢(すだちあい)

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