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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
224/1169

第三十六話 シュート・ザ・ムーン(4/7)

2018ファーム バニーズ 2-1 ビリオンズ

5回裏 攻撃終了


○天王寺三条バニーズ

監督:旋頭真希(せどうまき)


[先発]

1左 ■■■■[右左]

2遊 桜井鞠(さくらいまり)[右右]

3一 ■■■■[右左]

4指 財前明(ざいぜんあきら)[右右]

5捕 真壁哲三(まかべてつぞう)[右右]

6中 秋崎佳子(あきざきよしこ)[右右]

7二 ■■■■[右右]

8右 ■■■■[左左]

9三 月出里逢(すだちあい)[右右]


投 雨田司記(あまたしき)[右右]



●大宮桜幕ビリオンズ

監督:■■■■


[先発]

1左 招福金八(しょうふくきんぱち)[右両]

2二 ■■■■[右右]

3中 ■■■■[右左]

4一 ■■■■[右右]

5右 ■■■■[右右]

6指 ■■■■[右左]

7三 ■■■■[右右]

8遊 ■■■■[右右]

9捕 西科京介(にしなきょうすけ)[右右]


投 西園寺雲雀(さいおんじひばり)[右右]

「アウト!スリーアウトチェンジ!」

「くっそぉ〜、あと1本出なかったか……」


 クリーンナップから始まった6回表、こっちも満塁までいったけど得点はできず。まぁ一息つくにはちょうどええ時間稼ぎにはなったな。


「6回の裏、バニーズの攻撃。6番センター、秋崎(あきざき)。背番号45」


 このデカ乳にはもう用はないわ……!


(うう……!)

「ストライク!バッターアウト!」


「あっちゃ〜……」

「久々に三振したな、おっぱいちゃん」

「さっきのでビビってもうたか……?」


 別に出塁なら出塁でも良かったんやけどな。この回に月出里(あのチビ)と勝負できるし。


「アウト!」

「アウト!スリーアウトチェンジ!」


「良いぞ西園寺!」

「普通にやってもいけるやんけ!」

「こういうのでいいんだよこういうので」


 こんな時に限って三凡、月出里(すだち)の直前でチェンジ……まぁええわ。ポイント稼ぎにはなったやろ。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「7回の裏、バニーズの攻撃。9番サード、月出里(すだち)。背番号52」


「ちょうちょちゃーん!もう1回かましたれー!」

「逆転するぞ逆転!」

西園寺(さいおんじ)!リベンジや!」


 7回の表に向こうがルーキーのメガネを降ろしたところ、ウチの打線が機能して、3点取って逆転。勝ちが付くかもしれんのはまぁありがたいけど、それよりも月出里(このチビ)のことが優先や。


「……!」

「ストライーク!」


「おお、ちょうちょが珍しく空振りしたで……」

「いや、追い込まれるまではそんなに珍しくないで」

「そもそも追い込まれるまで振らんことも多いけどな」


 初球は横変化に頼らず、あんまり使わんフォークで空振り。これで『この打席はちゃんと勝負する』って印象を与える。


「ボール!」

「ストライーク!」

(外スラ2つ……)


 そしてさらに外スラのみで追い込んで……


「ボール!」


「無駄無駄。ちょうちょはそんなん引っかからんわ」


 ……追い込んでからの高めも余裕で見送り。やっぱウチのまっすぐはこんなもんやんな。

 でも、これならこれでええ。


(これで内角シュートで勝負……)


 そう。陰キャメガネと事前に打ち合わせしてた通り、最後は内角シュートで決める。

 ただ、生半可にはやらへん。全力投球。それで……


「……!」

(ちょ、ちょっと西園寺さん!ストライクにするはずじゃ……!?)


 お前の太ももも抉ったるわ。死にさらせ……!




(ふぅん、やっぱまだそんなことするんだ)


 な……!!?


「……ファ、ファール!!!」

(ほんと、こういう奴らの考えることってわかりやすい)


 陰キャメガネも……いや、球審もしばらく月出里(あのチビ)を見つめてたから、マスク越しでも驚嘆は伝わってきた。

 バッティングの動作の関係で、前脚はたとえスイングしなくても体重移動しようと前に踏み出される。そこへめがけてくるシュートはまず避けられんし、あんなクソボール、そもそもバットに当てるのすら困難。それを、自打球にさえすることなくレフト方向にカットしよった……!?


「どんなバットコントロールしてんねん……?」

徳田(とくだ)でもあんな内角捌きせんやろ……」

「そう言えば、2月の戦犯の時もぶつかりそうな球をありえんカットしてたな……」


 くそッ……!


「ボール!」

「ボール!」


 外スラと外まっすぐ見逃されてフルカウント……なら!


(……バカが)

「ファール!」

「そうそう、あの時もあんな感じで……」


 今度は胸元スレスレへのまっすぐを、上体を逸らしながらバットを縦振り気味で逆方向に……!?




「大丈夫ですかぁ?疲れてませんかぁ?プロのピッチャーなのに、ストライクどころかデッドボールも投げられないなんて……」




「ッッッ……!!!」


 月出里(あのチビ)……!あざとく心配そうに困り眉で言ってくれる……!!


(まさか、これを言うためにフルカウントでわざわざあんな球をカットしたのか……!?)

「……タイム!警告試合!!」


「ん、今なんかコールしたか?」

「タイムかかったけど、何かあったんやろうか……?」


 観客がざわつく中、球審がマスクを外してマイクを取りに向かってる間に一息つく。


「えー、球審の■■です(半ギレ) ただいまの投球に関して、両チームに警告試合を出します」


「あー、警告試合か……」

「ちょうちょが謎カットしてるだけで、普通ならデドボ2つ出とるしな」

「こっちも明らかな報復もあったしな……」


(多分、西園寺さんの危険球だけじゃなく、月出里(すだち)さんの発言も原因だろうね。荒れるのを防ぐために……)

「西園寺さん……」

「……わーっとるわ」


 陰キャメガネの指差す方向には、ベンチからの監督と投手コーチの視線。これ以上やったらまずいのはわかってる。

 くそッ、月出里(あのチビ)……!こんなことまでしてウチのプライドを……!?


 ……ってことはやっぱり、あの打球直撃も狙ったんか……?


「……ふふっ」


 月出里(あのチビ)の方を向くと、わざとらしく微笑まれた。

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