第三十六話 シュート・ザ・ムーン(3/7)
2018ファーム バニーズ 1-1 ビリオンズ
5回裏 1アウト
打席:1番
二塁:月出里
○天王寺三条バニーズ
監督:旋頭真希
[先発]
1左 ■■■■[右左]
2遊 桜井鞠[右右]
3一 ■■■■[右左]
4指 財前明[右右]
5捕 真壁哲三[右右]
6中 秋崎佳子[右右]
7二 ■■■■[右右]
8右 ■■■■[左左]
9三 月出里逢[右右]
投 雨田司記[右右]
●大宮桜幕ビリオンズ
監督:■■■■
[先発]
1左 招福金八[右両]
2二 ■■■■[右右]
3中 ■■■■[右左]
4一 ■■■■[右右]
5右 ■■■■[右右]
6指 ■■■■[右左]
7三 ■■■■[右右]
8遊 ■■■■[右右]
9捕 西科京介[右右]
投 西園寺雲雀[右右]
「アウト!」
ポップフライ、とりあえずこれでツーアウト。月出里の脚ならシングルでも帰れると思うけど、それでも二塁と三塁は違う。今んところ綻びはないけど、陰キャメガネと試合でバッテリー組むのは今日初めてやからな。バッテリーミスでの失点リスクを避けれるに越したことはない。
「2番ショート、桜井。背番号39」
ここで桜井か……同じ近畿の出やから、コイツと早乙女は小学生の頃からほんのちょっと接点があったけど、プロに入ってからはもうすっかり顔馴染みやな。
(左には強いですが、右はあまり打てない打者です。焦らず無難にここでこの回を切りましょう)
「ストライーク!」
「ボール!」
「ファール!」
よし、これであとは外スラで……
(あんまり私を……なめんじゃねぇよブス!)
な……!?
「ライト!」
「セカンドランナー突っ込んでくるぞ!」
「セーフ!!!」
「「「よっしゃあああああああ!!!!!」」」
「勝ち越しだあああああ!!!」
「ナイスラン逢ちゃん!!!」
外スラ踏み込まれた……
「よう打った桜井!」
「ちょこんと流し打ちナイスや!」
「やっぱ逢ちゃんとか佳子ちゃんより鞠ちゃんだよなぁ……」
「えへへ、ありがとぉ〜♪ファンのみんなのおかげだよぉ♪」
(次が左、財前と続くから、私にぶつけず外スラ勝負は読めてたんだよバーカ。テメェにゃ前からぶつけられてきたから良い気味だわ。月出里には日頃からイラつかされてたけど、あの打球直撃だけは褒めてやるよ)
一塁の上で、わざとらしいくらい媚びた笑みでファンに向かって手を振る桜井。
……せやったな。桜井は『左に強い』って言うよりは『自分が優位に立てる奴に強い』んやったな。脚の状態だけやなく、中盤に入ってきて多少疲れが出始めてるのと、打順が三巡目で向こうも慣れてきてるのもウチにとっては不利に働いてるってことやな……
「ボール!フォアボール!」
「ボール!フォアボール!」
「よっしゃよっしゃ!満塁や!」
「ツーアウトやけどまだまだ追加点いけるで!」
「なお次の打者」
「5番キャッチャー、真壁。背番号23」
「あっ……(察し)」
・
・
・
・
・
・
「ファール!」
「ボール!」
球審のジャッジがさっきまでより辛くなってる……くそッ、これやから可変式の球審は……!
(西園寺さんのさっきの危険球で心象を悪くした上に、このバニーズイケイケの雰囲気に流されてるのかもしれないね……)
「よっしゃよっしゃ!よう見た!」
「ええ粘りしとるやんけ真壁!」
「フルカンフルカン!」
(向こうは育成捕手で、おれは去年の一軍正捕手。このまま無様なとこばかりで終わってたまるか……!)
くそッ……!チャンスにクソ弱い上に早打ち低打率のくせに、こんな時に限って……!!
(落ち着いてください西園寺さん。順当にやれば打ち取れる相手です。どうにか外にスライダーを入れてください!)
……それしかないわな。
「ッ……!!!」
長い間ピッチャーやってるとたまに感じられる、リリースの瞬間のゾクリとした悪寒。ヤバい、これ……外に外れる……!
(……!)
(よし、これは外れる!)
「……ストライク!バッターアウト!!」
「な……!!?」
「おいィィィィィ!?何でやねん!!?」
「意地になって取っちゃダメだよ意地になって取っちゃ!」
「勘違いしたらアカンよ勘違いしたら!」
今の球、確かにほんの少し外に外れてた。でもあのミットの位置……
「スリーアウトチェンジ!」
「西園寺さん!ナイスボールでした!」
「あ……うん……」
フレーミングか……まさか陰キャメガネくんに助けられるなんてな。
「西園寺、脚は大丈夫か?」
「まぁ……大丈夫です」
ベンチに戻ると、監督の再確認。
「予定ではもう1、2回だったが、ここで降りるか?次の準備はできてるから問題ないが……」
「いえ……もうちょっと投げさせて下さい」
「しかし、この回かなり球数使っちまったからなぁ……」
「そ、そうですよ……あんまり無茶しない方が……」
投手コーチと陰キャメガネが便乗。うっさいわ。
「大丈夫です。予定通りいきます。たとえ球数が100球だろうが200球だろうが」
嚆矢園優勝投手なめんなや。1日200球以上なんて大会期間中じゃ珍しくも何ともなかったわ。
「……わかった。ただ、本当に無理だけはするなよ?あくまで二軍戦なんだからな」
「わかってますよ、そんなん」
さっきの満塁のおかげで相手の打順が良い具合に進んだんや。こんな中途半端なとこで諦められるか。
・
・
・
・
・
・




