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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
222/1167

第三十六話 シュート・ザ・ムーン(2/7)

2018ファーム バニーズ 1-1 ビリオンズ

5回裏 1アウト

打席:月出里


○天王寺三条バニーズ

監督:旋頭真希(せどうまき)


[先発]

1左 ■■■■[右左]

2遊 桜井鞠(さくらいまり)[右右]

3一 ■■■■[右左]

4指 財前明(ざいぜんあきら)[右右]

5捕 真壁哲三(まかべてつぞう)[右右]

6中 秋崎佳子(あきざきよしこ)[右右]

7二 ■■■■[右右]

8右 ■■■■[左左]

9三 月出里逢(すだちあい)[右右]


投 雨田司記(あまたしき)[右右]



●大宮桜幕ビリオンズ

監督:■■■■


[先発]

1左 招福金八(しょうふくきんぱち)[右両]

2二 ■■■■[右右]

3中 ■■■■[右左]

4一 ■■■■[右右]

5右 ■■■■[右右]

6指 ■■■■[右左]

7三 ■■■■[右右]

8遊 ■■■■[右右]

9捕 西科京介(にしなきょうすけ)[右右]


投 西園寺雲雀(さいおんじひばり)[右右]

「9番サード、月出里(すだち)。背番号52」


「ちょうちょちゃーん!同期の仇討ったれー!」

「あの危険球女を妃房(きぼう)やと思い込むんや!」

「ふひひ……今日も(あい)ちゃん可愛いなぁ……」


 あのデカ乳と同じルーキー。まぁ見た目通りコイツもチヤホヤされてるな。

 とは言え、さっきの打席、確かに振りは鋭かったけど過去の成績はおとなしいもんやから、まぁコイツからは素直にアウトもらうわ。さっきの打席でぶつけたのも、あれは本当にわざとやなく内角のコントロールミスやし。


「ボール!」


 念の為外スラから入ったけど、今度は初球から振らんかったな。打率の割に四球は稼いでて三振も少ないから目は悪くないんやろうな。


(OPS自体は低いんですし、素直に打たせていきましょう)


 陰キャメガネの指示は『内角シュート、ストライクで』。せやな。わざわざ球数増やしたくないし、サクッとストライク投げ込んで決めてまうか……




(バーカ)


 ……!!?


「!!内野カバー!」


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い……!!!


「セーフ!!!」


「おいおいおい……どこに当たったんや……?」

「脚の方……やんな?」

「うぇぇ……ちょうちょの打球直撃って……」


「タイム!」


 急遽タイムがかかって、ウチの元に投手コーチとトレーナー、陰キャメガネが向かってくる。

 内角シュート、ほぼ想定通りインコースゾーン内に良い感じのを投げ込めたけど、あっさり打ち返されて、打球はまっすぐウチの方へ。


西園寺(さいおんじ)、大丈夫か!?どこ当たった!!?」

「ふ、太もも……右……」


 痛すぎて手が離せんけど、どうにか当たった箇所をコーチ達に伝える。


「一応患部を診ておきたいな……」


 ベンチから担架が届くまでの間に、現状を確認。

 セーフの判定はどうにか聞こえた。一塁を確認すると、月出里(あのチビ)が防具を外してスタッフに預けてる。内野のリカバリーが間に合わんかったみたいやけど、一塁止まりで済んだだけ儲けもんってとこか……


(ざまぁみろ)

「……ッ!!!」


 ウチは見逃さんかった。月出里(あのチビ)が、ヘルメットをいじってウチ以外に表情を見られないようにしながら、うずくまってるウチを見下して嘲笑うのを。


「ゆっくり、ゆっくり運べよ」


 担架に乗せられベンチに戻り、スプレーで冷却。当たったとこは真っ青。筋肉の分厚いとこやし、折れてはおらんやろうけど、多分しばらくしたら腫れるやろな……


「念の為聞くが、投げられるか?」

「……ッ!投げる!投げるわ!」


 監督の確認に、思わず即答。


「良いのか……?大事を取った方が……」

「今の立場、ウチにとっては窮地や言うてましたよね?」


 苦手な標準語と敬語をまともに絞り出す余裕もない。けど、それでも退けへん。


「……わかった。まだ次の投手の肩が出来上がってないからな、投げられるならこっちとしても助かる。今からでも準備させておくから、何かあったらすぐ言え」


 冷やしたのもあってか、どうにか痛みは引いてきた。強がってみせるために、駆け足でマウンドへ向かう。


「おお、無事やったか……!」

「なんやつまらん。おっぱいちゃんの仇討てた思ったのに……」

「まぁこれは流石に事故やろ」


 デカ乳の件もあってか、奮起を讃える拍手はまばらなもの。別に今はそんなことどうでもええけど。


「西園寺さん……ほんとに大丈夫なんですか……?」

「戻ってきたんやからそうに決まってるやろ。他人(ひと)のこと心配してへんでホーム行けや」

「は、はい……」


 陰キャメガネを帰して、投球練習。軸脚の方やけど、体重移動までの間ちょっと痛いの我慢すればどうにかなる。前脚の方やと、踏み込みで痛んでリリースが狂う可能性があるから、こっちで良かったのかもな。そういう可能性を『事故』の言い訳にする以前に、そもそも投げられへんかったやろうし。


「プレイ!」

「1番レフト、■■。背番号■■」


 それにしてもさっきの打球、ひょっとして故意なんか……?いや、二軍でも低打率のバッターがそんなことできるんか?ウチのシュート、あのコースなら流石に一軍クラスでもそう簡単に打てるような球やないやろ。仮に芯で捉えられたとしても、まずレフト方向にしか飛ばせんはず。よっぽどセンター返しを意識してへん限り。

 仮にそんな器用なバッティングができるんやったら二軍で燻ってるとは考えづらいし、もしウチやったら遠慮せずにやりまくって打率荒稼ぎするし……


「セーフ!」


 いったん牽制を挟む。

 ……まぁあれがわざとかどうかなんて、結局どっちだったとしても、ウチがやることは同じや。


「!!!走ったぞ!」

「ストライーク!」

(間に合うか……!?)

「セーフ!」

「おっしゃあ!」

「さすがちょうちょ!走り直しや!」

(こっちでもリベンジ完了)


 今度は二塁盗まれたのもまぁええわ。そっちは陰キャメガネのせいってことにしといたるわ。

 不思議なもんで、冷却だけでは考えられんくらい痛みがそれほど気にならへん。人間、目的がはっきりしてるとそっちに集中できるもんやからやろうか?

 ウチがわざわざマウンドに戻ってきた理由?そんなん決まってる。月出里(あのチビ)にこの借りを絶対に返すためや……!

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