第五話 アイツにだけは絶対に負けたくない(4/4)
◎2月4日 紅白戦メンバー表
※[投打]
●紅組
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 ■■■■[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5一 ■■■■[右右]
6指 ■■■■[右左]
7三 ■■■■[右右]
8二 ■■■■[右左]
9捕 真壁哲三[右右]
投 百々百合花[右右]
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○白組
[先発]
1左 相模畔[右左]
2右 松村桐生[左左]
3指 リリィ・オクスプリング[右両]
4一 天野千尋[右右]
5三 財前明[右右]
6捕 冬島幸貴[右右]
7二 徳田火織[右左]
8遊 桜井鞠[右右]
9中 有川理世[右左]
投 雨田司記[右右]
[中継登板確定]
氷室篤斗[右右]、早乙女千代里[左左]
[控え]
山口恵人[左左]、夏樹神楽[左左]、伊達郁雄[右右]、
月出里逢[右右]、秋崎佳子[右右]、……
「7番セカンド徳田。背番号36」
あ、火織さんの番だ。守備走塁は練習で一緒だったからある程度は知ってたけど、打撃コーチの担当が違うから打ってるとこは全然見たことがない。どんなんなんだろ?一応、二軍で上位打線を任されてるとかは言ってたけど。
「ストラーイク!」
「ファール!」
初球バックドアスライダー見逃し、だけど2球目にきた内寄りストレートにはタイミングが合ってる。というか、あたしが言うのも何かもしれないけど、小柄でスリムな見た目に反してスイングが力強い。
「ボール!」
「ボール!」
「あれれ〜?真壁さ〜ん、ひょっとしてアタシも高めで釣れると思っちゃいました〜?」
(クソッ、相変わらず目が良いな……!)
(あらら……真壁さんってば、さっきの幸貴くんの打席のせいで必要以上に慎重な配球になっちゃってるわね)
ランナー二塁で、ランナー自動スタートのアウトカウントだからか、初めて百々(どど)さんが首を横に振った。
(せっかく不利じゃないカウントなんだし、ここはセオリー通り、相手の弱点を狙うのがベターよ!)
(……来た!)
相手バッテリーの選択は、外へのストレート。
(体重はまだ後ろ、限界まで引きつけて、身体とバットでボールを挟まないように、バットヘッドを内側から出す!)
「ファール!」
(!!……へぇ、やるじゃない……!)
芯で捉えられてたけど、打球は逆方向のファールゾーンへ。
「ほう……徳田くん、苦手だったアウトコース打ちがかなり良くなったね」
「伊達さん?」
「徳田くんは単純に分析すると、俊足と選球眼が武器で、一見するとイメージ通りの左のリードオフヒッターなんだけど、如何せんスイングがなまじ速いせいかプルヒッターの傾向が強くて、アウトコースをずっと苦手にしてたんだよ。反面、右投げ左打ちの打者としては珍しくインコースには強いんだけどね」
「ボール!」
低めチェンジアップが外れてフルカウント。
(ふぅ、危ない危ない。もうちょっと高いと入ってたかな?)
(今のも見切るか……!)
(でもあの見送り方、外への意識からか待ち球傾向が強く見られるわね)
ここで投じられたのは、インコースへのストレート。右対左だから、やや食い込んでくるような軌道。
(この状態で得意のインコースについて来れるかしら……!)
(何の……!)
だけど、瞬時に腕を折りたたみ、さっきのアウトコース打ちと同じように逆方向のファールゾーンへ。
「ファール!」
球速表示は今日最速の145km/h。多分決め球意識の一球。
(うっそ……!?)
(ん〜、ぶっつけ本番でもできるもんだねぇ。やっぱアタシって天才?)
「おいおい、アイツ結構やるじゃねぇか……」
「さっきファインプレーやったセカンドだよな?名前何だっけ?」
「徳田だよ。二軍で二遊間やってる」
「あれ?徳田ってあんな見た目してたっけ?」
エースの百々さん相手にガチンコで張り合ってる火織さんを見て、観客もざわついてる。
「膝元いっぱいへの速球を逆方向にカット……」
「あれはちょっと私でも真似するのは難しいですね……」
打つ方で評価されてるリリィさんと松村さんも、この勝負に注ぐ視線が熱い。
「徳田くんの最大の長所は、とにかく身体が柔らかくて関節の可動域も広いとこだね」
「そう言えばさっきのグラブトスの時も……」
「高度な内角打ちをするのにも非常に適した才能だ。しかもあの柔軟な身体はスイングに鞭のような強いしなりを与える」
「スイングスピードも、あの柔らかい身体のおかげってことですか?」
伊達さんは頷いた。なるほど、筋肉以外でもスイングを速くできる要素があるってことだね。
「ストライク!バッターアウト!」
「スリーアウトチェンジ!」
ただ、奮闘虚しく、最後は外角ストレートで空振り三振。一応一塁に走ったけど、当然振り逃げにはならず。
「うう……内角カットで調子に乗っちゃった……」
「ドンマイドンマイ!百々さん相手にあれだけやれたんだから十分すごいよ!」
肩を落とす火織さんを、天野さんが明るく出迎えた。
「よう火織。頑張ってるみたいだな」
そして、ついさっきまでブルペンにいた氷室さんも。
「え……あっくん?ブルペンにいたんじゃないの?」
「ちょっとベンチに忘れ物してな。ちょうどお前が打席にいるから見てたんだが、良い勝負してたな」
「そうだよ篤斗く〜ん。かおりん、さっき守備でもファインプレーだったんだよ〜?」
「へぇ、そうなんですか。やるじゃねぇか火織」
「そ、そんなの……アタシなんだから当然じゃん!?アタシ天才だし!」
「ははは、そうだな。俺が投げてる時も頼むぜ?」
火織さんの頭を軽くポンと叩いて、氷室さんはブルペンに戻っていった。なぜか茹でダコみたいに真っ赤っかになってる火織さんを眺めながら、天野さんはやたらゲスい顔をしてる。どうしたんだろ?今日そんなに暑いっけ?




