表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
219/1158

第三十五話 卑怯なんてない(7/8)

2018ファーム バニーズ 1-1 ビリオンズ

3回裏 2アウトランナーなし


○天王寺三条バニーズ

監督:旋頭真希(せどうまき)


[先発]

1左 ■■■■[右左]

2遊 桜井鞠(さくらいまり)[右右]

3一 ■■■■[右左]

4指 財前明(ざいぜんあきら)[右右]

5捕 真壁哲三(まかべてつぞう)[右右]

6中 秋崎佳子(あきざきよしこ)[右右]

7二 ■■■■[右右]

8右 ■■■■[左左]

9三 月出里逢(すだちあい)[右右]


投 雨田司記(あまたしき)[右右]



●大宮桜幕ビリオンズ

監督:■■■■


[先発]

1左 招福金八(しょうふくきんぱち)[右両]

2二 ■■■■[右右]

3中 ■■■■[右左]

4一 ■■■■[右右]

5右 ■■■■[右右]

6指 ■■■■[右左]

7三 ■■■■[右右]

8遊 ■■■■[右右]

9捕 西科京介(にしなきょうすけ)[右右]


投 西園寺雲雀(さいおんじひばり)[右右]

******視点:旋頭真希(せどうまき)******


4回の表、向こうの攻撃。打線が二巡目に入って、また試合が動き始めた。


「アウト!」

「ふぅ……」


テキサスとクリーンヒットが続いて一二塁の状況だけど、単純に打ち損じてくれたのか、ポップフライでようやくワンナウト。


「5番ライト、■■。背番号■■」


ただでさえ引き出しが少なく、球威に依存しがちな雨田(あまた)。並の二軍打線相手なら二巡目くらい十分乗り切れるはずだけど、相手はビリオンズ打線。それに……


「……あ!」

「ゴーゴー!」


「ああ……まーたやりおった……」

真壁(まかべ)……ほんまあのゴールキーパーは……」

「これで雨田に暴投は付かんよな……?」


キャッチャーの壁性能に難があって落ちる球を使いづらいから、少ない球種にさらに制限がかかってる状況。

真壁は他のスキルは一軍の正捕手として最低限以上備わってるし、最近では少なくなった二桁打てるパンチ力のあるキャッチャーなんだけど、投手からしたら一番備わっててほしい能力が欠けてるのが悩みどころだわ。


「ボール!フォアボール!」

「く……!」


「ドンマイドンマイ!」

「球走ってるぞ!落ち着いてけ!!」


雑に落ちる球で空振りを狙いづらい以上、できるだけコースを突くしかないけど、雨田にそんな制球力があればとっくに一軍でやれてる。球威があるから追い込むまではまだ甘めでも何とかなるけど、フィニッシュはどうしてもね……


「6番指名打者、■■。背番号■■」

「満塁満塁!」

「続け続けー!」

(相手は左……同じ落ちる球に変わりないが、どうにかチェンジアップを低めいっぱいに決めれば……!)


雨田は与四球は決して少なくないけど、連続で出して自滅するようなタイプじゃない。修正力に期待したいところだけど……


「ファール!」

「よっしゃ!よう喰らいついた!」

「欲張らずに繋げてけー!」

「ッ……!」


追い込んでせっかく良い感じの高さにチェンジアップを落とせたのに、どうにか喰らいつかれたか。あんな良いカットはそう続けられるとは思えないから、続けるのが無難なとこだけど……


(くっ!高い!)

(モラッタ!)


再びのチェンジアップ。流石にまだあの高さのそれを再現しきれなかったみたいで、バットが届く範囲。無理なく巧く拾い上げてセンター前……


「うげっ!?」

「アウトオオオオオ!!!」


と思いきや、秋崎が猛チャージから体勢を崩しつつもノーバンキャッチ。

しかも……


「セカン!!!」

「アウトオオオオオ!!!スリーアウトチェンジ!!!!!」

「うおおおおおおおおおお!!!!!」

「おっぱいちゃん最高やあああああ!!!」

「すげぇ!すげぇぞ佳子(よしこ)!!」


巧く受け身を取って瞬時に送球体勢に移り、二塁へ送球。ランナーの帰塁が間に合わずアウト。単純に脚と肩が優れてるだけじゃできないプレーね。

野球はフィジカルだけでは実力の差がつきづらいスポーツだから、プロでも選手のみんながみんな絵に描いたようなアスリートではない。みんなだいたい似たような体格してるサッカーとか相撲とかと違って、野球は選手の役割やプレースタイルによって体格や運動能力の得意不得意にバラツキがある。特に投手やスラッガーだと肥満気味だったり、どのポジションでも他のスポーツはからっきしな選手も珍しくない。

そういう誰しもが大成しうるという面も野球の魅力と言えるけど、それでなおのこと、ああいうシンプルに飛び抜けた運動神経の持ち主が一層華を感じさせるものよね。


「すごいじゃないか秋崎!助かったよ!!」

「雨田くんも良いピッチングだったよ!」


流石の雨田も、珍しく味方のプレーに興奮を隠せてないわね。


旋頭(せどう)コーチ!ありがとうございます!!」

「え……?」

「さっきのプレーは旋頭コーチのおかげです!さっき教えてもらった通り気を引き締めなおしたからできました!本当にありがとうございました!!」

「え、ええ……よく頑張ったわね……」


……ほんと、色んな意味で人の心を動かせる子だわ。どこまで天然で、どこから計算なのやら。いずれにせよ、人間的には素直に好感を持てるわ。

だからこそ、この試合を乗り越えて一皮剥けてもらいたいものね。


「……ん?」


賑わうベンチでは目立つような目立たないような小さな異音。何かを叩いたか蹴ったような、そんな音。その方向を見てみると、月出里の後ろ姿。表情が見えず、ただ直立してるけど、拳を握りしめてる。


「……佳子ちゃん!この回打席が回ってくるね!」

「うん!打つ方も頑張るよ!」


だけどすぐ振り返って、いつも通り秋崎と接してる。

やっぱりこの子、良い意味でも悪い意味でも相当な爆弾みたいね……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ