第三十五話 卑怯なんてない(6/8)
2018ファーム バニーズ 1-1 ビリオンズ
2回裏 2アウトランナーなし
○天王寺三条バニーズ
監督:旋頭真希
[先発]
1左 ■■■■[右左]
2遊 桜井鞠[右右]
3一 ■■■■[右左]
4指 財前明[右右]
5捕 真壁哲三[右右]
6中 秋崎佳子[右右]
7二 ■■■■[右右]
8右 ■■■■[左左]
9三 月出里逢[右右]
投 雨田司記[右右]
●大宮桜幕ビリオンズ
監督:■■■■
[先発]
1左 招福金八[右両]
2二 ■■■■[右右]
3中 ■■■■[右左]
4一 ■■■■[右右]
5右 ■■■■[右右]
6指 ■■■■[右左]
7三 ■■■■[右右]
8遊 ■■■■[右右]
9捕 西科京介[右右]
投 西園寺雲雀[右右]
******視点:西科京介******
「9番サード、月出里。背番号52」
「ああ^〜今日もちょうちょちゃんに癒されるんじゃ^〜」
「かわヨ」
「あれで結構畜生らしいけどな」
3回の裏のワンナウトランナーなし。この打者で向こうの打線の一巡目が終了。
それにしても本当に綺麗な子だ。同じ野球で飯を喰ってる人間とは思えない。まぁ僕はまだプロに囲われたアマチュア程度の立場なんだけどね。
さて……このバッターは数字上では選球眼こそ優れてるものの、根本的な打力が足りてないから待ち球になりがち。西園寺さんはスライダーシュートを打たせるタイプだから、早いカウントならとりあえず初球は外まっすぐかな?
(ま、やろうな)
西園寺さんも頷いてくれた。横手気味のフォームから繰り出されるまっすぐ、この軌道なら……
「うぉっ!?」
「ファール!」
初球から振ってきたか……
「チッ……」
「ええでええで!どんどん振ってけ!」
「ちょうちょちゃん!アカンくてもワイが慰めたる!」
「いや、ワイがやるから(迫真)」
映像でも一応確認はしてたけど、やっぱりこの見た目なのに怖いな……舌打ちとかそんなのじゃなく、スイングスピード。
こんな立場だけど、一軍の選手ともキャンプとかで試合をさせてもらったから、本物のプロのスイングというのはごく身近でもう体感してる。それでも、この子のはウチの一軍クラス並か、下手するとそれ以上……これで打撃成績が二軍でも並以下というのが逆に怖いくらいだ。
こういうタイプはやっぱり最後は外で勝負したい。早いうちに内側のシュートを見せてカウントを稼ぎましょう。
(……ムカつくなぁ)
西園寺さん、何か不機嫌そうだなぁ……まぁ配球に異議はないみたいだけど……!?
「うぉっ!?」
「ヒット・バイ・ピッチ!」
「あっぶな……」
「まーたやりおったか……」
シュートが左腕をかすってデッドボール。痛がってる様子はないから、ユニフォームにかすっただけかな?西園寺さんと試合でバッテリーを組むのは初めてだけど、やっぱりこういうシュートピッチャーにはつきものと言うべきか。毎年死球数多めだし。
それにしても月出里さん、特にデッドボールのアピールをしなかったな。出塁を求めてるのならむしろ実際に当たってなくても身体の近くに来たならアピールするものだと思うけど。今のくらいなら審判が見落としてもおかしくないしね。
「1番レフト、■■。背番号■■」
「まぁ出られたんやったらええわ」
「これでちょうちょの見せ場やな」
そうなんだよねぇ。ここまで盗塁7-7。巧く阻止できるか……
(やらせんわ……!)
!!!早いカウントから仕掛けてきた!だけど、西園寺さんのクイックでウエストなら……!
「アウトオオオオオ!!!!!」
「ああ……ついに連続成功途切れたかぁ……」
「流石に今のは間に合わんわな……」
(うーん……確かに前までの7回、成功し続けられたのは月出里くんの俊足による部分が多少あるけど、それよりも、どういうわけか『高確率で刺される』タイミングでは絶対走ってなかったんだよね。強引に次の塁を奪ってきたんじゃなく、確実にやれる時を見極めてやってたような、そんな感じだったんだけど……それが今回はガッツリ警戒されてた中で走ってしまった。スタートのタイミングも微妙だったし、読み違えたのか、それとも向こうのバッテリーが上手かったのか……)
(ふぅん……あの瓶底メガネ、肩は結構ええんやな)
思ったより簡単に刺せちゃったな……確かに盗塁阻止は僕のセールスポイントではあるんだけど……まぁ、これで支配下に近づけたかな?
(天野の次は秋崎……ほんと、嫉妬深い子ねぇ……)
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