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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
213/1161

第三十五話 卑怯なんてない(1/8)

******視点:早乙女千代里(さおとめちより)******


 オールスターを終えてシーズンの後半戦に入り始めた今日この頃。本日7月18日のホーム試合を終えて、ホテルでまったりタイム。

 今シーズン、初めて開幕を一軍で迎えたあーしは、まずは敗戦処理からキャリアを積み始めた。

 今更自慢にもならねーケド、あーしはこれでもドラ1の期待株だったからね。今で言えば雨田(あまた)と同じような扱いで、二軍では大体いつもローテに入ってた。その間にダラダラとではあるケド経験は積めてたみたいで、この前はリードしてる時に左のワンポイントで出してもらえたし、6日後のビリオンズ戦ではローテの穴埋めのために遂に先発を任されることが決まった。


(くろ)、何やってんの?」

「んー、資格の勉強」

「まーた動物関係……好きだねぇ。程々にしときなよ?せっかく一軍に上がれたんだから」

「そうは言ってもまだ安心できる立場じゃねぇだろ……ぶっちゃけいつクビ切られてもおかしくねぇ仕事なんだから、保険くらいかけとかねぇとだろ?」


 ほーんと、畔は変なとこで真面目だよねぇ。言わんとするとこはわかるケド。ドラフトの底の方で指名されても、獣医になる夢を中断してプロになったんだから、本末転倒にならなきゃ良いケド。せっかく今も金剛(こんごう)さんの穴埋めとかでそれなりに試合出れてるんだからさ。


「……徳田(とくだ)みたいになれるかわかんねぇんだからな」

「…………」


 小さな幸せを一口一口丁寧に味わってるだけのあーしらと違って、徳田はもうレギュラーセカンドの座をほぼ手中に収めてる。開幕から首位打者として独走してたのが、6月に入ってからは急激に失速したケド、四球は相変わらず最低限選べてるし、守備はむしろ良くなっていってる。

 あの天野(あまの)でも最近、松村(まつむら)に出場機会をいくらか奪われてるってのに、この時期にもスタメン出場が固いのは、それだけの底力をこれまでに示せた証拠。悔しいケド、それは事実として認めるしかねー。花城(はなしろ)さんに言われた通りね。


「ま、アイツがどうなろうが今度のビリオンズ戦は勝たせてね」

「出れたらな」

「出れるよ。(あのジジィ)はそういうとこにも多分気が回るだろうからね」

「だと良いんだが……」


 ……『アイツがどうだろうが』、ね。自分の口からいきなりそんなセリフが口から出てきて、今更ながら自分の変節っぷりに驚いてる。

 花城さんに色々教えてもらえた後も、なんだかんだしばらくはアイツへの恨みつらみをモチベーションにしてたケド、今となっちゃアイツがコケるよりも、あーし達がどうやったらもっと上を目指せるのか、そっちの方を考えられるようになった。ほんの少しでも成功ってもんを味わえれば、こんなふうになれるものなのかねぇ。

 次の登板、期待半分、捨て駒扱い半分なのはわかってるケド……期待してるかんね、畔。


 さてと、二軍の方、財前(ざいぜん)さんと(まり)はどんな感じだろうね?


「あ」

「どうした?」

「明後日から二軍(あっち)もビリオンズ戦じゃん」

「マジか」


 二軍情報のサイト、日程を確認すると、明日からウチ主催のビリオンズ3連戦。

 となると、つまり……


「……もしかして、アイツが投げるんじゃねーか?」

(くろ)もそう思う?」

「アイツも腐ってもドラ1だしな……」

「まぁねぇ……」


 今はこの程度の立場でも、あーしは高校の頃は"世代No.1左腕"的な評価を受けてたし、嚆矢(こうし)園にだって行ったことがある。

 そんなあーしみたいに、同じ近畿で有名なピッチャーがもう1人いた。アイツは嚆矢園で優勝して、ビリオンズにドラ1で入った。あーしは左で球速だけは上だったから、ドラフトじゃあーしの方が多分評価されてたと思うケド、少なくとも高校の頃は間違いなくアイツの方が格上だった。

 ……もっとも、ついこの間まで一緒に二軍で燻ってて、アイツは今でもそうなんだけどね。


「そういや今、二軍(あっち)のバッター右ばっかだな」

「ああ……確かに。畔が一軍(こっち)来て松村も今は一軍(こっち)だから……秋崎(あきざき)とか月出里(すだち)なんかも右だったよね?」

「……とりあえず、財前さんと鞠の無事だけは祈っとくか」

「だね……」


 大人しくしててほしいんだケドね、アイツ……西園寺雲雀(さいおんじひばり)にゃね。


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