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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
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第三十四話 あたしはあの人の言葉を嘘になんかさせないから(4/4)

「2018年フレッシュオールスター、最優秀選手賞は帝都桐凰(ていととうおう)ジェネラルズ、九十九旭(つくもあさひ)内野手です!九十九(つくも)選手、おめでとうございます!」

「ありがとうございます」


 中盤、リーグAの白雪(しらゆき)くんのソロで試合が動き始めたけど、九十九くんの2点タイムリーで逆転して、最終的に3-1でバニーズのいるリーグBが勝ち。守備でも良いプレーがあったし、順当な選出だと思う。

 兵隊さんみたいな帽子を被ってる以外はちょっと地味目なあの男の人が九十九旭(つくもあさひ)。あたしと同じ高卒ルーキー。今の高校球界で"最強"と謳われる大阪桃源(おおさかとうげん)で1年秋から4番ショートを務めた、同校史上屈指の逸材。そして大阪桃源出身ということで、三条(さんじょう)オーナーの一学年後輩にあたる人でもある。

 高校の時に大阪桃源と一度だけ練習試合をして、その時に三条オーナーからホームランを打てたのは確かに誇らしいことだと思うけど、それ以上に同じショートとして九十九くんには実力の違いを思い知らされた。あたしがドラフトの時に諦め気味だったのも、九十九くんの存在が特に大きかったんだと思う。


「今日は2安打2打点、守備でも好プレー、未来のスター達がいる中で素晴らしい活躍でした!これから一軍の舞台に挑む上でも大きな自信になったんじゃないでしょうか!?」

「いえ……確かに今日の試合、両リーグ共に実力のある選手が集まったと思いますが、小生にとっての"宿敵"が今日参加しておりませんでした。小生は高校時代より、その"怪物"に追いつき追い越すことを常に目指しておりますが、それはいまだに叶っておりません」


 そんな人いるの……?まぁ今日出てないけど、鹿籠(こごもり)さんっていう例もいるしね。九十九くんは高校の時にあたしよりずっと色んな人と勝負したんだから、そういう隠し球的な人を他に知っててもおかしくないよね。


「……え、ええっと、九十九選手の尊敬する選手を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」

「それは三条菫子(さんじょうすみれこ)女史ですね。今はバニーズのオーナーに就いておられますが、三条女史より敬意を抱いた野球人はこれまでに会ったことがありません」


 先輩を立てるね……普通は同じ球団の現役選手とかじゃないの?あんまり話したことないけど、ここまでマイペースな人とは。


「中学まで無名だった小生が今この場所にいられるのは、高校時代の三条女史の指導の賜物に他なりません。小生がプロになった今もなお、三条女史は雲の上の存在。小生は今も昔も変わらず、三条女史に誰よりも認めてもらえるような野球選手でありたいと、そう考えております」


 ……ふぅん、そうなんだ。そこまで信奉してるんだね。まぁあれだけの人だったからね。


 ドラフトの事情とかも色々と絡んだと思うけど、それでもあの人が選んでくれたのはあたしだから。"史上最強のスラッガー"になれるって言ってもらえたのはあたしだから。あたしはあの人の言葉を嘘になんかさせないから。ちょっと付き合いが長いからって調子に乗るんじゃねぇ。

 あの人はただ単に義務を課しただけかもしれないけど、それでも、目指すところが同じなら黙ってられないね。


 九十九くんのいるジェネラルズは一軍だと別リーグだけど、今年は二軍では同じリーグ。そして、ジェネラルズの本拠地は東京。二軍の本拠地は神奈川にあるけど、それでもスティングレイみたいに、隣県であっても電車の移動とかで考えればそこまで遠く離れてるわけじゃない。

 あの人はシーズン中は東京で学業優先。よく考えたらちょうど良いね。二軍の試合で結果を出してレギュラーになれれば、必然的に遠征にだって行ける。わざわざ前の試合みたいに無理して大阪まで出向いてもらう必要は無くなる。


 決めた。とにかく今は、二軍のレギュラーを目指そう。それでジェネラルズ戦で遠征に行けたら、あの人にまた観に来てもらおう。あの人の前で、今度こそ九十九くん以上に活躍してみせよう。

 そして試合が終わったら、今度はあたしからご飯に誘ってみよう。


『お互い、当面の目標は『下の名前で呼び捨てにできるようになること』ね』


 あたしを"(あい)"って呼ぶのだって、嘘にはさせたくないからね。

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