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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
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第三十三話 アタシのはこっちだよ(9/9)

******視点:月出里逢(すだちあい)******


 今日の試合はあのままバニーズの勝ち。どっちも守備のミスが多かったけど、ピッチャーがしっかりしてたから特に馬鹿試合にはならなかった。

 あの後もう1回打席が回ってきて内野安打で出れたけど、やっぱりあの変態に結果的に負けたのは悔しい。

 とは言えチームは勝てたし、あたし達高卒組も満遍なく一定以上の仕事ができた。佳子(よしこ)ちゃんはあの後クリーンヒットも打ったし、神楽(かぐら)ちゃんも少しバタついたけど1イニングをちゃんと抑え切った。

 そんなわけで、今夜は祝勝会がてらに、3人で外食の予定。約束の時間はまだではあるけど、到着してるのはあたしと神楽ちゃんだけ。とりあえず喋って時間潰し中。


「今日の試合ってオーナーが来る予定だったんだよ」

「マジか」

「でも大学の用事で大阪までは来れないって」

「よく知ってるなぁ。もしかしてプライベートの連絡先知ってるのか?」

「うん。前にご飯食べに行った時にね」

「やるなぁ。あっし小学生の時から顔見知りだけど、そこまでお近づきになれなかったぞ……」


 オーナーが来なかった日に中途半端な結果で終わったのは良かったのか悪かったのか。

 人におごってもらうのは好きだけどオーナー相手には気が引ける……っていうのは置いといて、中途半端な結果見せて変に期待させるよりは良いのかなぁって。


「お待たせ!」

「……はわっ!?」

「おい佳子、どういうことだ……?」


 到着したのは佳子ちゃんだけじゃなかった。どっかのお菓子メーカーのマスコットに似た赤いほっぺと髪の女の子と、小麦色の肌でパツキンショートカットの超大型女子。まさかのシャークスの人達。同じ高卒ルーキーの頬紅観星(ほおべにみほし)さんと……そしてあの変態、妃房蜜溜(きぼうみつる)


「こんばんわ!夏樹(なつき)さんと月出里(すだち)さんですよね!覚えてますか?わたし、今日4番センターだった頬紅(ほおべに)です!」

「見事に扇風機だったけどね」

「もう、蜜溜(みつる)さん!」

「いきなりでごめんね、逢ちゃん神楽ちゃん。帰りに偶然、偶然ね?シャークスの人達に会えたから思いきって声かけちゃって……」

「お前、もしかして出待ちしてたのか……?」

「そんなことないよぉ〜?偶然だよぉ〜?フヒヒヒヒ……」


 そう言えば佳子ちゃんってシャークスファンだったね。毎回ほんとためらいなく声をかける。そしてたまに見る佳子ちゃんのあの何か企んでそうなキモい笑い方。


「キミ達ご飯食べにいくんだよね?観星(みほし)のついでにキミ達もおごってあげるよ」

「い、良いんすか……?」

「良いよ良いよ。これでも高給取りだし。まぁ懇親会ってことでね」

「すみません、ごち……!?」


 流石に試合とプライベートは別ってことで、あの変態にも素直に感謝しようと思ったけど、急にシンバル持ったサルのおもちゃみたいに、無表情でそっぽを向いて耳を叩き続けてる。

 何コイツ?なめてるの?


「…………」

「ふん、ふん……」


 そして今度は不祥事やらかした高級料亭の謝罪会見みたいに、頬紅さんに何やら耳打ち。


「すみません、月出里さん。何か蜜溜さんはとある昔の投手に憧れてて、その人に(なら)って本当に良い打者とはプライベートでも直接口をきかないって決めてるみたいなんです。なので別に嫌ってるわけじゃなくてむしろ大好きだから心配しないでください……だそうです」


 めんどくせぇ……


「月出里さんすごいですよね、蜜溜さんに認めてもらえるなんて!同じ背番号を背負ってるわたしも頑張っていきたいです!」

「え、えへへ……」

「夏樹さんもあのハンマーにあっさり勝っちゃうなんてすごいです!明日ももし投げるなら、わたしも勝負したいです!」

「おう、ありがとな!」


 なるほど、頬紅さんはこういうとこも佳子ちゃんに似てるね。いきなり一緒に食べに行こうってなるわけだね。


「それじゃ、そろそろ移動しましょうか」


 変な宗教上の理由で絶対に口をきかない変態だけは例外だけど、話しやすい顔ぶれ。歩きながらでも会話は途切れない。その中でもとりわけ佳子ちゃんは憧れのシャークスの人と交流を持てるようになって、上機嫌であの2人との話を弾ませてる。


「……わわっ!」

「っと」


 会話に夢中になりすぎてつまづいた佳子ちゃんを、隣にいたあの変態が咄嗟に抱き留める形でフォロー。


「大丈夫?」

「フヒヒ……だ、大丈夫っす……フヒッ、フヒヒヒ……!」

「佳子……」


 つまづいたのは多分わざとじゃないだろうけど、その状況にかこつけて佳子ちゃんはあの変態の胸元に縋りつきっぱなしで、盛りのついた猫みたいに左胸に顔を擦り付けてる。

 佳子ちゃん、普段本当に良い子なのに、何でたまにこんなことになるんだろ?あの変態も全然気にしてないし。あの変態のもなかなかのサイズ感だけど、自分のやつの方がデカいじゃん。


「……!ふぇっ!?」


 と思ってたら、急に身体を離した。


「?どしたの?」

「き、妃房さん……その……心臓が……」

「……ああ、そういうこと」


 何かを納得して、あの変態は佳子ちゃんの左手首を握って、今度は右胸の方にあてがった。


「アタシのはこっちだよ」


 え……?

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