第三十三話 アタシのはこっちだよ(8/9)
2018ファーム バニーズ2 - 1シャークス
7回表
打席:ハンマー
○天王寺三条バニーズ
監督:旋頭真希
[先発]
1一 ■■■■[右右]
2遊 桜井鞠[右右]
3右 松村桐生[左左]
4二 ■■■■[右左]
5指 ■■■■[右右]
6捕 土生和真[右右]
7左 ■■■■[右左]
8中 秋崎佳子[右右]
9三 月出里逢[右右]
投 夏樹神楽[左左]
●横須賀EEGgシャークス
監督:■■■■
[先発]
1二 ■■■■[右左]
2左 ■■■■[右左]
3三 ■■■■[右右]
4中 頬紅観星[右右]
5右 スモーキー・ハンマー[右右]
6指 ■■■■[右左]
7一 ■■■■[右右]
8遊 ■■■■[右右]
9捕 ■■■■[右右]
投 ■■■■[右右]
******視点:夏樹神楽******
「7回の表、シャークスの攻撃。5番ライト、ハンマー。背番号99」
光栄だねぇ。初っ端から今日一番厄介な打者をあてがってもらえるなんてねぇ。あっしとしちゃ好都合……
「!!!」
「ストライーク!」
"一番厄介な打者"ってのは、あっしにとっちゃ"一番対策した打者"だからな……!
「うぉっ、外いっぱいカーブ……」
「ほんま制球すげぇわ」
「今回右相手やけど、どないして打ち取るんやろ?」
このハンマーって奴は一応アウトローが一番苦手なのに、真ん中より高めのアウトコースが得意っていう結構面倒なタイプ。ただそれはあくまで対右・対左両方をまとめた上での話。
「ボール!」
「ファール!」
「あっぶな……メッチャ飛んだで……」
「2球続けて内スラーブ。相変わらず球遅いのに強気やな」
コイツはサウスポーの投げるインコース……つまり身体の近くに入ってくる軌道の球があんまり得意じゃない。ゆえに、よっぽど甘く入らない限り、あのコースはそこまで心配なし。そうそうフェアゾーンにはいかねぇよ。
「……ボール!」
手は上がんねぇか……外いっぱい入れたつもりだけど……
まぁ良い。これくらいは想定内。
「ッ……!」
「あぶな……!」
「ストライク!バッターアウト!!」
「よっしゃあ!みのさんや!」
「さっきホームランの奴相手に度胸あるわほんま……」
「「ナイピッチ神楽ちゃん!」」
悪ぃな佳子、逢。この打者は前に打たせるつもりは最初からなかった。フロントドアシュート。あると地味に便利なんだよな。
「6番指名打者、■■。背番号■■」
ちょっと困った。今日のあっし、対右想定で調整してきたから左が逆にしんどい。
「……うぇっ!!?」
「ヒットバイピッチ!」
「あっちゃ〜……」
「まぁ肘当てのとこかすっただけなら……」
やっぱこういう時に左にシュートなんて投げるもんじゃないね。中南米からの育成の人っぽいから意図が通じるかわからんけど、謝罪の上でとりあえず頭を下げておく。
「7番ファースト、■■。背番号■■」
次は右なんだけど、今度は変化球打ちが得意なタイプ……うーん。
日本の野球じゃ左右ジグザグで打順組むのが普通だし、同じ右打者、左打者でも得意不得意はそれぞれ。相手によりけりに頼らず、もっと自力で何とかできるようにしないとな……
そのためには、まずベースとなる『球速』。球速を出す上で大事なのは肩関節。単純に腕や肩周りの筋肉だけ付ければ良いってもんじゃない。肩関節の外旋……つまり、いかに腕を背中側に大きくしならせられるか。最近はその辺のトレーニングがあっしの課題。
こんな感じで……!
「ボール!」
「おおっ!141!」
「ついに140超えたやんけ!」
「思いっきり外れたけどな」
プロの指導ってのはたいしたもんだよ。あれだけ頑なに140以上を出し渋ってたあっしの身体を手懐けるんだからな。これでも向こうの妃房蜜溜のチェンジアップにも届かないのはご愛嬌。
球速を決める要素は他にいくらでもあるけど、この肩関節の外旋角度は球速と特に相関性があるらしい。あっしみたいに140km/hくらいの投手なら平均180度、150km/hくらいの投手なら平均195度。
ちなみにあっしはだいたい平均くらいで、あの雨田は210度以上。ちくしょうめ。
「ファール!」
一応真ん中でも力勝ち。まっすぐを続けるのは想定外だったか。
(流石に3つ続けるのは怖いな……さっきみたいにインへのスラーブいけるか?ファールで追い込んでフォークで仕留めたい)
それっきゃねぇか。中学以来の、まっすぐでねじ伏せるってのもやってみたいんだけどねぇ。
「うっ……!」
巧……腕綺麗に畳んで……
「アウト!」
「おおっ!!」
うぉっ!?逢、それ捕れるのか……!?
「セーフ!」
「かーっ!惜しい!」
「もうちょっとで刺せたんやけどなぁ。めっちゃええ動きしよる」
「やっぱちょうちょの肩はショートかサードで生かしたいな」
「外野もできるんやろか?」
「あのバッティングじゃなぁ……」
かなり速い打球がレフト線を沿うように飛んでったんだけど、逢が横っ跳びでサードライナー。側転で受け身を取ってすぐに鬼のような送球をしたけど、ファーストの帰塁の方が先。
「サンキュー逢!助かったぜ!」
「球走ってるよ神楽ちゃん!」
最近、佳子と逢が試合で結構やれてるからな。あっしも取り残されねぇように、もっとレベルアップしていかねぇとな。
******視点:妃房蜜溜******
うーんすごい反射神経と運動神経。アレがアタシのまっすぐについていける要因の一つだろうけど、それだけじゃちょっと説明がつかないね。
……けど、あの調子なら大丈夫かな?
今日試合をやって、こうやってベンチで座りながら頭の中を整理してみると、もしかしてアタシ、もう月出里逢と戦えないかもって思ってたのかな?あのオープン戦の時の月出里逢は本当にただのまぐれだったのか、そうでなくてもアタシ以外は本当に全く打てなくて、このままじゃ二度と勝負できないままって思っちゃったのかな?……実際、そうだったのかもね。だからアタシは二軍落ちをどこかで願ってたのかも?
だけど、あのバッティングは少なくともアタシとの相性に嘘はないはずだし、守備も良い。最近、盗塁で結果を出してるってのも聞いてる。そして何より、あの入れ知恵。あの子はあの子なりに頑張ってる。
うん、これなら一軍で待ってても大丈夫かな?
アタシも、『良い打者がいるなら二軍でも良い』みたいにカッコつけたこと考えてたけど、周りに悪い方向にばかり振り回されるのは流石に嫌だからちょっと前言撤回。与儀さんが簡単そうに捕ってくれるのがどれだけ大きいか思い知らされたね。
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