第三十三話 アタシのはこっちだよ(7/9)
2018ファーム バニーズ0 - 1シャークス
5回裏 1アウト
打席:月出里
一塁:秋崎
○天王寺三条バニーズ
監督:旋頭真希
[先発]
1三 ■■■■[右右]
2遊 桜井鞠[右右]
3右 松村桐生[左左]
4一 財前明[右右]
5指 ■■■■[右右]
6捕 土生和真[右右]
7左 ■■■■[右左]
8中 秋崎佳子[右右]
9二 月出里逢[右右]
投 常光千里[右右]
●横須賀EEGgシャークス
監督:■■■■
[先発]
1二 ■■■■[右左]
2左 ■■■■[右左]
3三 ■■■■[右右]
4中 頬紅観星[右右]
5右 スモーキー・ハンマー[右右]
6指 ■■■■[右左]
7一 ■■■■[右右]
8遊 ■■■■[右右]
9捕 ■■■■[右右]
投 妃房蜜溜[左左]
******視点:妃房蜜溜******
やられたね。確かに打たれたわけじゃないけど、結局セーフティを許す程度の球だったってことだからね。これもまた投手の負けの1つ。
……さっきチラッと見えた耳打ち、そしてその笑み……そうか、そうか、つまりキミはそんな子なんだね。結構だよ。同点、もしくは逆転のチャンス、良いお膳立てをしてくれるね。
「ちょうちょちゃーん!逆転ツーランでええんやでー!!」
「蜜溜ちゃん!今度こそ三振奪って完璧に勝ってやるんだ!!」
二軍の試合にしては珍しいくらい、ファンからの大きな声援。流石に二軍の試合だからホーム側の向こうの方が大きいけど、それでも盛り上がってるのは確か。
まぁアタシにとっては勝負が最優先だけど、こうやってただの一打席の勝負で魅せられるっていうのは、日暮さんに近づけたような……あるいは戻れたような気がして悪くない。
(さぁ来なよ変態さん……!)
言われなくても……!
「ファール!」
「うぇぇ……いきなり当てるんかい……」
「今日一番の159やで。流石やな……」
前の状態でも勝てなかったんだからね。これくらいやられても不思議じゃない。
「……ボール!」
さっきもボールになった内側スライダー。そこを余裕を持って見逃したってことは、狙い球を絞ってて、他の球は最初から見逃す気だって証拠。
(!!!チェンジアップ!)
「ストライーク!」
「ッ……!!!」
「な、なんや今の球……?」
「141km/h……まぁそれなりに速いけど普段の高速チェンジほどでもないし……」
即席だけどうまくいった。威力は落ちるけど制球重視のチェンジアップ。
威力低下の原因はフォーム自体を緩めることだから、まっすぐの投げ方と差分化されて早い段階で見極められやすいと思うけど、だからこそ追い込まれる前のまっすぐに絞っていられるカウントなら逆に見逃してくれる。前に勝負した時にボールになる全力のチェンジアップを見切られちゃったからね。
(球威全振りかと思ったら、器用な真似をするわね。あんなのデータにはなかったはずだけど……)
まぁつまり、逆に言えば決め球として使うのは怖いってことなんだよね。中途半端に速度が保たれてるからタイミングは外しづらいし、かと言ってこれ以上緩めてもきちんと変化したり制球できるかわからないし、最悪本来の投げ方の感覚が狂いかねないし……
だからこの次は……
「ファール!」
「あっぶな……よう当てたな今の……」
「148のチェンジアップってほんま何の冗談やねん……」
前と比べて振ってくれただけマシ……だけど、本来の方の高速チェンジも相変わらずこの調子。
「……ボール!」
そしてまっすぐはここぞで見送れる。ほんと手強いね、キミ。
おそらくベースはまっすぐ狙いのはず。というか流石にアタシのまっすぐくらいになると、ある程度意識してないと対応できないはず。前のオープン戦の時と比べたら高速チェンジは効いてるっぽいし、自己ベスト更新を狙うつもりで、もう1球高速チェンジいくしかないかな……
「……!!!」
(しまった、高い……!)
(いける!)
「うおおおっ!」
「アウト!」
「げっ!!?」
「アウト!スリーアウトチェンジ!!」
「おっしゃあああああ!!!」
「ナイスショートなんだ!!!」
「ッッッ……!!!!!」
センター方向への強烈な打球。アタシが差し出したグラブも抜かれたけど、ゲッツーシフトでセカンド寄りに守ってたショートが何とか間に合って、狙い通りのゲッツー。
(……こんなこと考えちゃうのはアレだけど、佳子ちゃんを出しちゃったからこそ……か……)
向こうからしたら、お膳立てが逆に仇になっちゃったね。状況に合った方向に打てなかった打者の負けとも言えるし、失投して危うい打球を打たせた投手の負けとも言える、何ともな結果。
だけど、これだけははっきりと言える。月出里逢、やっぱりキミは本物だよ。
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「いったあああああ!!!」
「復活ッ!松村桐生復活ッ!松村桐生復活ッ!」
「「ナイバッチ松村さん!!!」」
アタシは思ったよりも早く5回で降りて、6回裏。向こうの3番の松村さんが逆転ツーラン。うん、やっぱり良い打者だねあの人も。直前の打者をエラーで出しちゃったのもあって、流れは完全に向こう。
「アウト!スリーアウトチェンジ!!」
「くっそぉ、もう1点くらい取りたかったなぁ……」
「財前が地蔵やからなぁ……」
「まぁ松村復調だけで余裕でお釣りが出るわ」
4番のシングルと6番のツーベースもあったけど、結局残塁。
「バニーズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー常光に代わりまして、夏樹。ピッチャー夏樹。背番号27」
「おっ、今日巫女ちゃん投げるんか」
「高卒組フル活用やな」
「雨田は出んのか?」
「アイツ基本先発やろ」
「また、ファースト財前に代わりまして■■がセカンドへ、セカンドの月出里がサードへ、サードの■■がファーストに入ります。4番セカンド■■。背番号■■」
今度はサード……今日の月出里逢はいろんなとこを守るね。前のオープン戦の時は確かショート守ってたけど、艶さんのお墨付きをもらってたね。セカンドは色々微妙だったけど、サードはどうなのかな?




