第三十三話 アタシのはこっちだよ(6/9)
2018ファーム バニーズ0 - 1シャークス
5回裏
○天王寺三条バニーズ
監督:旋頭真希
[先発]
1三 ■■■■[右右]
2遊 桜井鞠[右右]
3右 松村桐生[左左]
4一 財前明[右右]
5指 ■■■■[右右]
6捕 土生和真[右右]
7左 ■■■■[右左]
8中 秋崎佳子[右右]
9二 月出里逢[右右]
投 常光千里[右右]
●横須賀EEGgシャークス
監督:■■■■
[先発]
1二 ■■■■[右左]
2左 ■■■■[右左]
3三 ■■■■[右右]
4中 頬紅観星[右右]
5右 スモーキー・ハンマー[右右]
6指 ■■■■[右左]
7一 ■■■■[右右]
8遊 ■■■■[右右]
9捕 ■■■■[右右]
投 妃房蜜溜[左左]
「ひゃうっ!?あ、逢ちゃん!!?」
いきなり後ろから肩を揉まれた。びっくりした……
「今度はあたしが佳子ちゃんの力になる番」
「え……?」
「打者と投手だけの勝負であっても、周りが支えてくれれば結果は変わる。この前のオープン戦であたしが勝てたのは佳子ちゃんのおかげだよ」
「逢ちゃん……」
珍しく逢ちゃんが屈託のない笑顔。うーん、ほんと可愛い……
「でもね、周りは支えてくれるばかりじゃないんだよ」
「ど、どういうこと……?」
「耳貸して」
肩を揉まれた時も振り返らなくても逢ちゃんだってわかったくらい、甘くて良い香りがさらに強まる。けど逢ちゃんの言うことに集中集中……
「…………!」
「できそう?」
「……うん、やってみる!」
今までの役割的にあんまりやったことないけど、やってみる価値はある。そのためにも、いつもより少し強く素振りをしてネクストで待機。
「アウト!」
「8番センター、秋崎。背番号45」
「佳子ォ!でっかく打ったれや!」
初球から強く……!
「ストライーク!」
「あない思いっきり振って、引っ張る気やな」
「マン振りで妃房の球捉えられるんか……?」
「おっぱいプルプルヒッター」
(待ち球は無駄だと悟って、積極スイングに切り替えたか。当たる確率自体どうせ低いんだから、当たった時のリターンを高めていくスタイル。スイングスピード自体は高卒まもないガキとは思えんくらいだから、捕る方としちゃ確かにこっちの方が嫌だな)
(マグレでも当たったら結構飛びそうだな……右だし、少し下がっといた方が良いか?)
これで当たってホームランだったらそれはそれで嬉しかったんだけどね。
「……な!?」
本当の狙いはこれ……!
「セーフティか!!!」
「サードチャージ!」
役割的にもバットを強く振るのが基本だったから一歩目がいつも遅いんだけど、今回はセーフティバント前提だし、元々脚自体には自信がある。
「セーフ!」
「おっしゃあああああ!!!ナイス奇襲!」
「こういうのでいいんだよこういうので」
「良い揺れだった……(ご満悦)」
「佳子ちゃん!ナイバン!」
ネクストで両手を挙げて手を叩く逢ちゃんに向かって拳を掲げてみせる。もうブルペンに行っちゃった神楽ちゃんにも見てて欲しかったな。
ピッチャーだけに勝とうとしなくても良い。チームスポーツなんだから当たり前のことなのに、目の前のことでいっぱいいっぱいになってた。プロに入って初めてのヒットはもう打ってるけど、初めて偶然とかじゃなく自分の力で出塁をもぎ取れた気がする。ありがとう、逢ちゃん……!
******視点:旋頭真希******
フルスイングで強い打球を匂わせて、バックを下がらせた上でバントで奇襲。これがあるから脚のある長距離砲は強い。長打警戒でボール球が嵩んでしまった場合、長打こそ防げても有能なランナーにもなり得てしまうから、俊足のスラッガーはバッテリーにとっても困る。
『ホームランを打てば脚の速さなんて関係ない』なんてことはない。ランニングホームラン抜きでも、脚はホームランの可能性を高めるための圧力になりうる。
単打と走塁の応酬とされた太古のデッドボール時代であっても、フライボール指向の現代真っ只中であっても、脚の価値は不変と言えるわね。
それに、二軍は単純に平均的な守備力が一軍より低いだけではなく、一軍での起用法に幅を持たせるため、慣れないポジションを任されることもしばしばある。今日の向こうのサードも、セカンドでの出場の方が多い。
……盗塁技術の高さもさることながら、月出里はなかなか頭が回るみたいね。まぁあの子の性格的に、今まさに不得意なポジションを任されてることへの意趣返しとか、他にも色々裏がありそうだけど。
(『野手経験的には先輩な立場としてアドバイス』……って言えば、聞こえはいいんだろうけどね。理屈はあたしにもさっぱりわからないけど、どうもあたしってあの変態と相性が良いみたいだし、これで逆転ツーラン……そうでなくても、佳子ちゃんの脚なら同点タイムリーツーベースとかが狙える。さっきみたいにバッテリーミスがあればシングルでも十分。恩返しにかこつけて、火織さんだけじゃなくあんな純粋な良い子まで都合良く利用するなんて、あたしってほんと性格悪い)
「9番セカンド、月出里。背番号52」




