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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
202/1159

第三十三話 アタシのはこっちだよ(4/9)

2018ファーム バニーズ0 - 1シャークス

4回表2アウト


○天王寺三条バニーズ

監督:旋頭真希(せどうまき)


[先発]

1三 ■■■■[右右]

2遊 桜井鞠(さくらいまり)[右右]

3右 松村桐生(まつむらきりお)[左左]

4一 財前明(ざいぜんあきら)[右右]

5指 ■■■■[右右]

6捕 土生和真(はぶかずま)[右右]

7左 ■■■■[右左]

8中 秋崎佳子(あきざきよしこ)[右右]

9二 月出里逢(すだちあい)[右右]


投 常光千里(じょうこうせんり)[右右]



●横須賀EEGgシャークス

監督:■■■■


[先発]

1二 ■■■■[右左]

2左 ■■■■[右左]

3三 ■■■■[右右]

4中 頬紅観星(ほおべにみほし)[右右]

5右 スモーキー・ハンマー[右右]

6指 ■■■■[右左]

7一 ■■■■[右右]

8遊 ■■■■[右右]

9捕 ■■■■[右右]


投 妃房蜜溜(きぼうみつる)[左左]

******視点:松村桐生(まつむらきりお)******


「アウト!スリーアウトチェンジ!」


 結局失点はハンマーの一発のみ……なれど、現状0-1でこちらが劣勢。


「よう、松村(まつむら)。ちょっと良いか?」

常光(じょうこう)さん……?」


 ベンチに戻る途中に声をかけられた。常光さんからとは珍しい。


「この回お前に打席が回ってくるはずだが、妃房(きぼう)、打てそうか?」

「え……?ええ、もちろんですよ。ここ最近調子が悪いですけど、さっきの打席でタイミングは分かりましたし……」

「そうか……」


 ここで『打てない』なんて答えは返せるはずないんですが……


「さっきハンマーに打たれた後、向こうのベンチ見たか?」

「ええ、盛り上がってましたね」

「大半はな。だが妃房は違った」

「……でしょうね」


 正直外野からじゃそこまで細かいとこまでは見えないのですが、前の試合でよくわかってますよ。妃房蜜溜(きぼうみつる)にとって興味があるのは敵側の打線だけと。


「俺もよ、お前と妃房(アイツ)と同じで、北陸に生まれて、でかい図体を親からもらってよ、不器用なりにここまでやってきたんだ。確かに今の俺じゃピッチャーとしてあの化け物には勝てる気がしねぇ。だが俺はあくまで投手として以前に野球選手としてメシを食わせてもらってるつもりだ」

「…………」

「へっ……もちろんこれはほとんど、投手として勝てないことでの負け惜しみだ。しかも前の紅白戦じゃ、将来的にも山口(やまぐち)の方が期待されてるってわかっちまったからな。そんなことも言いたくなる。でもよ、お前だってそうだろ?妃房(アイツ)に勝つの、月出里(すだち)に先を越されたんだからな」

「……その通りです」


 あのオープン戦。同年代の注目株同士として、できれば妃房さんに勝ちたかった。なのに、私だけ2打席もチャンスをもらっておいて全く歯が立たなかった。正直、対抗心だけで勇んでたわけではありません。あの化け物の恐ろしさにどうにか立ち向かうための虚勢もいくらかは入り混じってました。

 だからこそ、私は勝てなかったんでしょうね。私だけでなく味方ほぼ全員が揃ってあの化け物に畏怖する中、月出里さんだけは凛とした表情のまま、まっすぐに打席へ向かい、そして勝った。

 その姿に当然羨望の念も覚えましたが、同時に嫉妬の念も覚えたのは言うまでもないかもしれませんね。


「ただの二軍の試合だってのはわかってるし、妃房(アイツ)にとっちゃ試合の勝ち負けなんてどうでもいいことだと思う。でも、だからこそ、結果的に流れで妃房(アイツ)が勝つのさえどうしても納得がいかねぇ。妃房(アイツ)も多分最後までは投げねぇと思うから、最悪、降板した後に追いつく形でも構わねぇ。俺だって完投は流石に無理だろうから、せめて今日のこの試合は俺を負け投手にさせねぇでやってくれ」

「……信じてくださるんですか?ずっと不調の私を……」

「俺がドラ6なのを納得させろって話だよ、ドラ1様」

「ッ……はい!」

「頼んだぜ」


 参りましたね、そう言われちゃ。


「ストライク!バッターアウト!」

(あんの月出里(クソブス)、余計なことを……化け物のスイッチ入れやがって……!)

「まぁ桜井(さくらい)じゃあんな球無理だわな」

「いくら左に強くても限度があるわな」

「3番ライト、松村(まつむら)。背番号4」

「松村ァ!そろそろ1本打ってぇや!」

「松村さーん!」


 常光さんに限らず旋頭(せどう)コーチも、ずっと不調だったのにこうやって3番で使い続けてくださったんですからね。


「プレイ!」


 月出里さんとの対戦以降、妃房さんの球威は上がったまま。正確には月出里さんと対戦した時と比べて少しスピードが落ちてますが、それでも前のオープン戦の時と同じで、まっすぐのスピードは150前後、見るからに百々(どど)さんのそれ以上にノビがある。

 ですが、スライダーとカーブの制球は微妙なまま。

 あくまで推測に推測を重ねた話ですが、妃房さんは能動的に本気を出せないのなら、おそらく逆に肩慣らしの段階へ能動的に戻ることもできないはず。そしてそれが正しければ、微妙なスライダーとカーブを修正し直すのは困難であると思われます。

 そして、前の打席は外に逃げる球に対してなら何とか対応できることを印象付けられたからこそ、最後にまっすぐが来たはず。


(背丈はあるがまだまだヒョロい若造だ。それに、コンスタントに打ち返せるタイプに小細工は逆効果。これで入るぞ)

(そうですね。今日のスライダーとカーブじゃ初球ストライク狙える自信がないですし)


 前のオープン戦では不覚を取りましたが、私だって終始カカシだったわけじゃありません。まっすぐの速度感や予測と実際のズレは対戦する内に少しずつですが掴めてきたつもりです。ただ、そこにあの反則級の『三種の神器』を織り交ぜられれば完全にお手上げ。


 故に、勝負は初球……!




「……!!!」

「セカンド……いや、ライト!」


 威勢よく引っ張ったと言うのに、想定よりまだ上っ面……ですが……!


「よっしゃあああああ!!!!!」

「ようやく松村お目覚めやあああああ!!!」

「「「ナイバッチ松村さん!!!」」」

(やるじゃねーか……!)


 セカンドライト間のテキサスヒット……不恰好ではありますが、妃房蜜溜(きぼうみつる)の150km/hフォーシーム、仕留めたり……!


(……面白い!)


 ようやく私に笑いかけてくれましたね、妃房さん。光栄ですよ。

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