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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
201/1160

第三十三話 アタシのはこっちだよ(3/9)

2018ファーム バニーズ0 - 0シャークス


○天王寺三条バニーズ

監督:旋頭真希(せどうまき)


[先発]

1三 ■■■■[右右]

2遊 桜井鞠(さくらいまり)[右右]

3右 松村桐生(まつむらきりお)[左左]

4一 財前明(ざいぜんあきら)[右右]

5指 ■■■■[右右]

6捕 土生和真(はぶかずま)[右右]

7左 ■■■■[右左]

8中 秋崎佳子(あきざきよしこ)[右右]

9二 月出里逢(すだちあい)[右右]


投 常光千里(じょうこうせんり)[右右]



●横須賀EEGgシャークス

監督:■■■■


[先発]

1二 ■■■■[右左]

2左 ■■■■[右左]

3三 ■■■■[右右]

4中 頬紅観星(ほおべにみほし)[右右]

5右 スモーキー・ハンマー[右右]

6指 ■■■■[右左]

7一 ■■■■[右右]

8遊 ■■■■[右右]

9捕 ■■■■[右右]


投 妃房蜜溜(きぼうみつる)[左左]

******視点:常光千里(じょうこうせんり)******


 あの妃房蜜溜(きぼうみつる)と投げ合って、結果としてこの4回表ツーアウトまで互角の状況。妃房(アイツ)は中学の時から雲の上の存在だったから、こうやって並び立てるのは正直誇らしい。

 ここまでくると、リコのピッチャーみたいに自分で打席に立ってでも勝ちたいって気になるが、まぁそれは現実的に無理だから、俺にできる最善はなるべく長く投げ続けてそのチャンスを待つだけだな。

 今日はとりあえず100球目安でいけるとこまで。幸い向こうは割と早くに手を出してくれてるから、特に左相手だとカットで上手くいなせてる。右相手ならナックルカーブでいけるし、まだあんまり頼りたくはないが一応フォークもある。このペースでいけば6回か7回まではまず心配ねぇ。


「5番ライト、ハンマー。背番号99」


 4番のあの扇風機は変化球の完全失投以外に負けの目はねぇ。

 問題はこの新外国人、スモーキー・ハンマー。育成枠ができて二軍で外国人選手を見かけることも多くなったが、コイツは格が違う。オープン戦でも、一軍で開幕してからも結果を出してるし、怪我明け間もない最近でも二軍で打ちまくってる。どう考えても今日の相手で一番怖いバッターだ。


「ボール!」

「ボール!」


 さっきは手を出してくれたナックルカーブ、2打席続けては釣られねぇか。良い感じのとこに安定して入れられるほど、ナックルカーブはまだ精錬できてねぇからな。


「ファール!」


 打ち損じてくれたが、まっすぐにタイミングは合ってるな……


(どうする?フォーク2つでいくか?)


 土生(はぶ)さんからはフォークのサイン。まっすぐがもう少し速けりゃまだ他にも選択肢はあると思うが、そうするっきゃねぇか。


「ストライーク!」

「うぉっ!めっちゃ良いフォークやん!」

「こりゃ常光も一軍デビューあるか?」

「バニーズなのに若手ポジできる喜び」


 よし、想定通り……!むしろ今日一番良いコースと落ち具合!


(良い感じだ!同じところにもう1球!)

(……まずいかもね)


 今の感じは今後にも生かしていきてぇな。さっきのはこんなふうに……


(……ッ!!!)

「うげっ!!?」


 しまった……!すっぽ抜け……!


(甘い……!)


 捉えられた……!!!けど、相手も体勢を崩してる!これなら……


「ライト!!!」


 は……!?




「よっしゃあああああああ!!!!!」

「先制!ようやく先制なんだ!!」

「横須賀にもこんな助っ人がいたんだ!」


 顔の向きはレフト方向、体勢も流れためちゃくちゃなスイング。なのに何でライトフェンス超えるんだよ……!!?


「何やあの外国人……」

「逆方向に軽々……」

「あっち向いてホイやね」




******視点:旋頭真希(せどうまき)******


 常光(じょうこう)の悪い部分が出てしまったわね。

 常光は上背があるし横幅も高卒2年目にしてはなかなかのものだけど、その体格から繰り出される出力を上手く制御しきれてない。ワインドアップで身体を大きく動かすから、遠心力なんかも働いて余計にね。

 だから、良い時の球威は相当なものだけど、1球1球に安定感がない。投球の勢いで身体が流れたり、リリース時の指のかかりが微妙にブレたりで、思ったより球が来なかったり曲がらなかったりというのがしばしばある。

 つまり、『ストライクとボールを投げ分ける』という意味での制球力は決して悪くないけど、『想定通りの球を想定通りに投げ続ける』という意味での制球力には欠けるということ。その点では、雨田(あまた)と全く逆と言えるわね。


 この辺は私はもちろん常光も自覚してるけど、修正が難しいのよね。なんせ私自身が現役の時に選手契約の条件で『監督だろうがコーチだろうがフォームに口出し厳禁』を絶対に入れる生意気娘だったからね。どうしても教える側になってもフォーム改造のリスクをまず考えてしまう。

 氷室(ひむろ)の時は明確な目標があって、その内容も私と同じく『ストレートとフォークに特化』だったからノウハウもあったし、そんなに苦労はしなかったんだけどね。

 だけど常光は氷室と違って良くも悪くも素材型の未完成品。ナックルカーブはプロに入ってから身に付けたものだし、高校の頃まで使ってた普通のカーブとスライダーとチェンジアップは現状二軍レベルでも微妙だからほぼ封印中。つまり、投手としての明確な方向性がまだ定まってない状態。


 だから現状はひとまずフォームは極力そのままにして、どう転んでも役に立つように基礎体力を付けつつ現状の各球種の球威が上がるように微調整中。まだ身体が完全には出来上がってないのも確かだし、下半身と体幹が鍛えられて軸がしっかりすることで、投球の勢いに負けないようになれば儲けものってとこね。


「ハンマー!ナイスバッティング!!」

「Oh!アリガトデース!!」

「…………」


 向こう側のベンチでは、今日2タコの頬紅(ほおべに)が真っ先に功労者を出迎える。他のメンバーも形式的にって感じのもいるけど、大体がタッチを交わして祝福してる。その一方で、妃房(きぼう)は相変わらずそんなの気にせずこっち側の打者が準備をしてるのをただじっと見つめてる。

 ほんと、同じ投手としては尊敬の念すら湧いてくるけど、同じ野球人としては思うところ満載だわ。

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