第五話 アイツにだけは絶対に負けたくない(2/4)
◎2月4日 紅白戦メンバー表
※[投打]
●紅組
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 ■■■■[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5一 ■■■■[右右]
6指 ■■■■[右左]
7三 ■■■■[右右]
8二 ■■■■[右左]
9捕 真壁哲三[右右]
投 百々百合花[右右]
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○白組
[先発]
1左 相模畔[右左]
2右 松村桐生[左左]
3指 リリィ・オクスプリング[右両]
4一 天野千尋[右右]
5三 財前明[右右]
6捕 冬島幸貴[右右]
7二 徳田火織[右左]
8遊 桜井理世[右左]
投 雨田司記[右右]
[中継登板確定]
氷室篤斗[右右]、早乙女千代里[左左]
[控え]
山口恵人[左左]、夏樹神楽[左左]、伊達郁雄[右右]、
月出里逢[右右]、秋崎佳子[右右]、……
「2回の表、白組の攻撃。4番ファースト天野。背番号32」
「よーし!一発狙ってくるよー!」
白組メンバーの中でも一際身体の大きい天野さんが、意気揚々と素振りをして打席へ向かった。
「ファール!」
「うわっ、すごい打球……」
バットから離したトップハンドを天に掲げ、回りきったバットヘッドが地面に付くほど大袈裟なフルスイング。内角ボール気味に食い込んでくるシュートを無理やり引っ張り込んでファールゾーンへ。多少芯を外れてたはずだけど、軽々とスタンド外まで届いた。
(ふふっ、相変わらず怖いスイングしてるけど……)
だけど百々(どど)さんは動じることなく、2球目にタイミングを外すカーブ、3球目の高めストレート。
「ストライク!バッターアウト!」
(当たらなければ何とやらよねぇ……)
あっさり三球三振。ひどく落胆、というほどじゃないけど、ちょっとあざとめに肩を落としながら天野さんはベンチに戻ってきた。
「5番サード財前。背番号46」
「振旗コーチ、今の打席どうでしたか……?」
「緩い球の後に高めのボール球を振るのは仕方ないとしても、せめて体重移動のタイミングで迷わないで、カーブみたいに速球と軌道が異なる球は、リリースの瞬間から違いが出るの。その違いをしっかり見極められるようになれば、タイミングがだいぶ取りやすくなるはずよ」
一軍の天野さんだけど、二軍打撃コーチの振旗コーチにアドバイスを求めてる。
「天野さん。もしかして、天野さんも振旗コーチに指導してもらってたんですか?」
「ん?ってことはひょっとして佳子ちゃんもなのかな?」
「あ、あたしもです」
いつものように、先輩に話しかける時は佳子ちゃんに便乗。
「そうなんだね。うん、ぼくもそうなんだよ!ぼくが去年の途中から一軍でやれてたのは振旗コーチのお陰!だからきっと佳子ちゃんと逢ちゃんも活躍できるようになるよ!」
「……そういうのはせめてアンタがレギュラーになれてから言いなさい」
天野さんの大きな身体に似合わない無邪気な振る舞いで、振旗コーチが少し照れ臭そうにしてる。天野さんのことはそこまで詳しいわけじゃないけど、あの名門ジェネラルズにいた人だから、この人がどのくらい苦労してきたかはある程度知ってる。こういうすれてないところも、逆に名門の水とは合ってなかったのかもしれない。
ポジションはともかく一応同じ右のスラッガー候補同士だからいずれは競争になると思うけど、それでも純粋に「報われてほしいなぁ」と思える。
「おお!やるな!」
気が付くと、観客が沸いてた。
「今年の初ヒットは財前だ!」
「あらら……スライダーが甘く入っちゃったわね……」
ファーストベース上で、昨日の夜と同じように絶妙にウザいにやけ顔で観客の声援に応えてた。よりによってアイツが。
「まぁ……アイツは打つだけなら一軍レベルだからねぇ」
アイツも一応指導してる立場だけど、振旗コーチも複雑そうにしてた。同じ右のスラッガー候補として、天野さんや佳子ちゃんはまだ最悪許せるとしても、アイツにだけは絶対に負けたくない。今からでもサード代わってほしい。




