第三十一話 たまにはこんなのも(4/5)
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******視点:月出里逢******
5月末、夏向けの記事やグッズ展開に備える頃。あたしを含めて二軍メンバーの何人かが大阪某所の撮影スタジオに集められて水着グラビアを撮影中。
野球はただそれ自体をやるだけじゃお金はもらえないけど、お金がなきゃレベルを上げるための時間も環境も作れないし、モチベーションも生じない。そうなってくると、野球によってお金をもらえる仕組みを持ってるところが有利になるのは明白。だからこの資本主義の世の中じゃ、必然的に一番競技レベルの高い環境はプロになる。
だけど、お金を払う側は勝つだけで満足できるとは限らないし、仮にそうだとしても、プロ同士とか、同じ環境の中で野球をやって常に勝ち続けるなんてほぼ100%不可能。限りなく無敵に近いチームを作れても、そういう人達だっていつかは歳を取って衰える。そんな事情でも商売を継続していくためには、世代交代の足掛かりとかも兼ねて、他のサービスも提供する必要がある。
つまり、競技レベルが一番高いはずなのに、その競技にだけ専念できるわけじゃない、というジレンマがあるってこと。常勝軍団でさえファンとの交流イベントとかがあるのが当たり前なんだから、ウチみたいに弱い球団は勝利というサービスを多く提供できない分、より他の部分で補わなきゃいけない。
幸か不幸か、ウチの選手は前々から"顔だけ枠"みたいに揶揄されてるだけあって、実力はともかく見た目は華やかな人が比較的多い。かくいうあたし自身も、今のところはそういう扱い。まぁ見た目だけで競うのなら、12球団どころかメジャーを含めても誰にも負けない自信があるけど。
「んん〜良いですよぉ〜もうちょっと脚広げてみましょうか!ああ^〜たまらねぇぜ」
(これもプロの仕事、これもプロの仕事、これもプロの仕事、これもプロの仕事……)
普段あれだけ真面目に野球に取り組んでる山口さんであっても、プロ意識も兼ね揃ってるからこそ、あんな際どい水着姿をカメラの前で晒してる。
その姿を見たら、純粋な人であれば『やっぱりプロはこんな小さな身体でも鍛えてるんだなぁ』みたいなことを感じるかもだけど、そういうサービスにお金を払える余裕のある大人が全員そんな人だったら、世の中はもっと上手く回ってる。山口さんは球界で一番若い選手だし、おまけにウチの弟並に見た目が整ってるから、まぁぶっちゃけそういう目的でお買い上げになる人は男女問わず少なくないだろうね。山口さん自身はそういうのに疎いから、単純に露出度の高い格好で恥ずかしがってるだけっぽいのが不幸中の幸いかな?
「おっほぉ!最高ですよぉ!!」
「ありがとうございます!」
("巫女キャラ"で通ってて助かった……)
向こうでは佳子ちゃんと神楽ちゃんが一緒に撮られてる。
今シーズン、二軍メンバーで一番グッズが売れてるのは、実はあたしじゃなく佳子ちゃん。まぁ胸にあんな立派なものぶら下げてて、あの人当たりの良さをファンにも向けてるんだから当然と言えば当然なんだけど。この撮影にしたって、あんなに楽しそうに取り組んでる。見た目的に最大の持ち味が活かせるような、割と際どいの着せられてるのにね。
神楽ちゃんはプロ入り前まではピッチャーとして野球エリートまっしぐらな人だけど、プロとしてはまだ実績がないから、どうしても『神社生まれ』とかそういうわかりやすい個性がファンの目に留まる。そういうわけで、神楽ちゃんの水着は巫女装束を改造したような比較的大人しめのやつ。
「ハイ!お疲れ様でしたー!」
「ふぅ……」
「月出里さん、お待たせしました!準備お願いしまーす!」
「あ、はい……」
とは言え、三条オーナーだって、去年は立て直しのために、単に球団を買い取るだけじゃなく自らこういう仕事も請け負ってお金だけは何とか稼げるようにした。あの人の性格的にそんなこと望んでなかっただろうから、責任はきっとあたしにもある。
あたしだって、本当は野球だけに専念して、野球だけで稼ぎたい。男選びだって、実は結構こだわりがある。だけど今のあたしはそんなのを望める立場じゃない。あたしがクッソ可愛いことを世に知らしめられるチャンスでもあるから、『たまにはこんなのも』って割り切るしかないよね。