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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
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第三十一話 たまにはこんなのも(3/5)

******視点:柳道風(やなぎみちかぜ)******


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[先発]

1中 赤猫閑(あかねこしずか)[右左]

2遊 相沢涼(あいざわりょう)[右右]

3二 徳田火織(とくだかおり)[右左]

4指 ロバート・イースター[右左]

5一 天野千尋(あまのちひろ)[右右]

6三 リリィ・オクスプリング[右両]

7右 森本勝治(もりもとかつじ)[右左]

8捕 伊達郁雄(だていくお)[右右]

9左 相模畔(さがみくろ)[右左]


投 百々百合花(どどゆりか)[右右]


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 ……今日のスタメンはこんなもんかのう。


 交流戦前、金剛(こんごう)が離脱したのは痛手ではあるが計算の内じゃ。あやつは元々怪我抜けが多いからのう。外野はそれなりに揃っておるから、長打力が薄れることを除けば穴埋めは容易。

 むしろグレッグが早々に抜けたことの方が痛いかもしれんのう。リリィがある程度穴埋めにはなっておるが、やはり守備に不安がある。今の所終盤はサードを有川(ありかわ)に任せる形で補っておるが、スタメンでも使ってみたい有川以外にサード要員が少ないのがしんどいわい。


 ただまぁ、ワシの想定と比べて、収支としてはプラスじゃな。

 特に徳田(とくだ)。いまだに打率が4割を切っとらん。ホームランはまだじゃが長打自体は決して少なくないし、元々森本(もりもと)も率で勝負するタイプのクリーンナップ。期待値で言えば、現状は確実に徳田の方が上。流石に今のペースがこのまま続くとは思えんが、それでも去年と比べて明らかに不運な感のある森本の打撃に揺り戻しが来れば、さらに穴を埋め直すことは可能じゃろう。

 そして、徳田の台頭でセンターラインがかなり固まってきたのは大きいのう。赤猫(あかねこ)伊達(だて)は年齢とコンディション的に長くは続かんじゃろうが、センターは比較的替えがきくし、センターもキャッチャーもどちらかは有川(ありかわ)で埋められる。冬島(ふゆしま)も尖ってる部分はないがルーキーとしては十二分の働き。常勝軍団の足掛かりとして重要なセンターラインの形成が予想以上に早く目処がついたのは嬉しい誤算じゃ。


 投手陣に関しては無難に補強されたのう。去年からの主力投手が健在で、そこに氷室(ひむろ)が加わってきた。現状、ウチの先発陣の中で最優秀防御率と最多奪三振数。ようやく、百々(どど)のエースの座を脅かせるほどの者が台頭してきた。早乙女(さおとめ)もビハインドではそれなりにやってくれるが、あの四球の多さではまだリードしてる時に投げさせるのは怖いのう。奪三振の多さはなかなか褒められたものなのじゃが。


 そして、肝心の順位は暫定3位。これまでを考えれば大健闘じゃな。予想はしておったがヴァルチャーズがそこまで勝てておらんし、ウッドペッカーズが大きく低迷してるのを除けば混戦状態。時期が尚早でもあるが、今年に関してはどこが優勝するかはウチを含めても予想がつかん状態じゃ。リコの方は今年も順当にスティングレイが優勝しそうな雰囲気ではあるが……


「ぐっ……グホッ、げ……っ……!」


 すっかりシワだらけの乾いた手に、赤い湿り気。ようやく面白くなってきたのに、ここ最近これじゃからのう。樹神(こだま)が現役として強がってる内はワシも強がり続けたいが、『酒は百薬の長』も流石に限度かのう?


 ワシは選手としては才能を無駄にしてしまった半端者。ピッチャーとして高卒でプロになって、すぐにセカンドに回されてしまったが、それでも1年目から定位置を奪った。そこまでは華があったんじゃが、その華々しさに酔って努力を怠り遊びに走り、結局は"本来あるべきだった柳道風(ワシ)という選手"をワシ自身もわからぬまま現役を終えてしまった。

 だからこそ、今まで様々な選手達に自分を重ねてこれた。『ワシもあそこでもう少し頑張っていれば、こういう形の柳道風(ワシ)もあったんじゃないか』、とな。徳田なんかはポジションといい色好みなとこといい、色々とワシの若い頃とよう似とるから、見ていて飽きんわ。

 未完成のまま終わったからこそ、選手達の十人十色の完成形全てに純粋な憧れを抱ける。それこそが、ワシが指導者としては成功できた最大の勝因であると、ワシは誇りに思っとる。

 じゃが同時に、ひょっとしたらワシは、ワシが現役の頃のスターが懐古主義の庇護を受けるようになった今になって、選手達を利用してそいつらに勝ちたいと思ってるだけなのかもしれん……という引け目も感じておる。『ワシのようにはなってほしくない』という善意を謳って誤魔化しておるがな。


 どちらにせよ、野球というのはいつの時代もその時代相応の面白みがある。旋頭(せどう)や樹神、幾重(いくえ)のような、それまでは創作作品にすら存在しなかった新しい可能性がこれから先も現実に生まれてくるのじゃろう。妃房(きぼう)……そしてウチの月出里(フィノム)も、もしかしたらそういう存在になるのやもしれん。

 監督としてこれから先もそんな可能性を間近で見つめ続けたいが、それができないのなら、いっそ人として生き続けることすらできなくても良い。人が、あるいは野球が尽きるまで、これから先生まれてくる全ての新しい可能性を見つめ続ける、ただそれだけの存在に成り果てさせてほしい。それこそ柳の木のように、吹き荒ぶ風に従いながらただそこに在り続けるような、そんな存在にの。

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