第五話 アイツにだけは絶対に負けたくない(1/4)
◎2月4日 紅白戦メンバー表
※[投打]
●紅組
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 ■■■■[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5一 ■■■■[右右]
6指 ■■■■[右左]
7三 ■■■■[右右]
8二 ■■■■[右左]
9捕 真壁哲三[右右]
投 百々百合花[右右]
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○白組
[先発]
1左 相模畔[右左]
2右 松村桐生[左左]
3指 リリィ・オクスプリング[右両]
4一 天野千尋[右右]
5三 財前明[右右]
6捕 冬島幸貴[右右]
7二 徳田火織[右左]
8遊 桜井鞠[右右]
9中 有川理世[右左]
投 雨田司記[右右]
[中継登板確定]
氷室篤斗[右右]、早乙女千代里[左左]
[控え]
山口恵人[左左]、夏樹神楽[左左]、伊達郁雄[右右]、
月出里逢[右右]、秋崎佳子[右右]、……
******視点:冬島幸貴******
「2回の表、紅組の攻撃。4番レフト金剛。背番号55」
「ボール!」
「ボール!」
前の回は一応ストレートで十分ストライクを取れてたんやけど、この回はどうも冴えんな。確かに強打者の金剛さんが相手やけど、雨田みたいな肝っ玉の持ち主がそういうのを意識して簡単に乱れるタイプやとは思えん。返球した後、落ち着くようそれとなくジェスチャを送る。
(クソッ……!あんな当て付けみたいな真似して……!)
「ボール!」
「ボール!フォアボール!」
ストレート四球……ま、こういうこともあるわな。でも念の為、ちょっとマウンド行った方がええかな。……ん?
「ギア1の場合、軸脚への体重移動の際に……脚の踏み出し角度は……ボールへの握力は……」
声はよく聞き取れんし、ここからやとグローブで口元が見えんけど、何か呟いとる。アイツなりのルーティンなんかな?自分のペースでやりたいタイプっぽいし、別に焦る場面でもない。アイツのやりたいようにやらすか。
「5番サード グレッグ。背番号56」
「ストラーイク!」
「ボール!」
「ファール!」
お、元通りやな。逆方向打つの上手い右のスラッガーのグレッグ相手やし、これも試してみるか。
「ワッツ……!?」
雨田のスライダーは2種類。汎用性の高い縦のやつと、この鋭く横気味に曲がるやつ。
「オーライ!」
狙い通り、ライトの松村さんが捕球。
「アウト!」
同じ右方向でもセカンドゴロでゲッツーがベストやったけど、当然これならファーストの金剛さんも進塁できんし、十分十分。
「6番指名打者イースター。背番号42」
さて、ある意味一番の問題はこいつや。今年からの助っ人外国人。左打ちで、見た目通り長打力が武器っぽいけど、如何せん去年までアメリカのマイナーリーガー。これといったデータがあらへん。
「ボール!」
わかってるデータからして、ドミニカンらしい初球からの積極的なスイングを警戒して縦スラから入ったけど、振らんかったか。まぁ慎重にいきすぎてもしゃーない。まっすぐで真っ向勝負。股の間に1本指を見せると、雨田は頷いた。
(当然。外国人相手だからって、ボクが力負けなんてしないさ)
雨田が投げ始めると、ファーストの金剛さんがスタートを切った。そしてそれに応えるように、イースターのスイングは雨田の速球を捉えた。
「くッ……!」
打球方向は右寄りピッチャー返し。雨田も反応良くグローブを出したけど、球足の速いゴロはそれを容易くすり抜けた。まずい。これは内野を抜ける。
「センター!」
せめてサードへの進塁を阻止するように、センターの有川さんに前進を促す……つもりだったが、
「おお!捕った!」
一歩目が早かったセカンドの徳田さんが追いつき、横っ飛びで捕球に成功。
「でもあの体勢じゃ……!」
「セカンド!」
「何……!?」
徳田さんは二遊間方向へ寝そべったまま、グラブトスで二塁ベースカバーに入ってたショートの桜井さんに送球。
「アウト!」
「ファースト!」
そして桜井さんもセカンドへ滑り込んできた金剛さんをかわしつつ、すぐさまファーストの天野さんへ送球。
「アウト!スリーアウトチェンジ!!」
「すげぇ!今のでゲッツー間に合った!!」
ベンチへ帰っていく途中、桜井さんとサードの財前さんとレフトの相模さんがタッチを交わしてた。
「ナイスプレー!」
「さっすが鞠!内野守備のスペシャリスト!」
「……フン!あの裏切り者のサポートなんて癪だけど、私もアピールしなきゃいけないからね……」
******視点:月出里逢******
「火織さん!あのグラブトスすごかったです!」
「でしょー逢ちゃん?もっとアタシを敬ってくれて良いんだよ〜?」
二遊間寄りの位置からセカンドの二塁へのグラブトス、普通は肘の関節とかが邪魔であんな正確に素早くできるものじゃない。
「アタシ身体も柔らかいけど、どうも関節も他の人よりもルーズみたいでね。グラブトスに関しちゃ、相沢さんにだって負ける気がしない」
さらにあの一歩目の早さとそれによる守備範囲の広さ。あたしも内野の守備には自信があるけど、セカンドでは敵わないかも。このドヤ顔は正直ウザいけど。
「司記くんも助かったでしょ〜?ねぇねぇ?」
「クソッ、ボクのストレートが一振りで……!打球もゴロだったし、金剛さんもスタート切ってたし、捉えられたのは想定の内だったのか……!?」
「ええ……」
ピンチを救ってくれた先輩を無視して、イライラしながら一人反省会。呆れるくらい図太いね、この眼鏡男子。




