第三十話 追いついてみな(6/7)
2018ファーム バニーズ3 - 5スティングレイ
4回表攻撃終了
○天王寺三条バニーズ
監督:旋頭真希
[先発]
1左 ■■■■[右左]
2中 ■■■■[右右]
3一 松村桐生[左左]
4指 財前明[右右]
5捕 土生和真[右右]
6右 ■■■■[右左]
7二 ■■■■[右右]
8三 ■■■■[右右]
9遊 月出里逢[右右]
投 山口恵人[左左]
●瀬戸内杜橋スティングレイ
監督:■■■■
[先発]
1指 ■■■■[右左]
2遊 ■■■■[右右]
3三 坂本麟太郎[右左]
4右 綿津見昴[右右]
5一 ■■■■[右右]
6中 ■■■■[右左]
7捕 ■■■■[右左]
8二 ■■■■[右右]
9左 ■■■■[右左]
投 ■■■■[右右]
******視点:綿津見昴******
「おう、麟!ナイバッチだったな!」
「たまたまだ。あんなテキサスじゃ、復調したとは言えん」
「ガハハハハ!なーに言ってんだよ、そういうの打てるから"天才"って呼ばれてんだろ?」
「本物の"天才"に言われても響かんな」
「やり方の違いだよ。確かにお前にゃオレのバッティングはできねーかもしれねーけど、その逆も然りだ。多分オレはこのまま予定通り先に一軍に戻るけどな、ウチの三連覇のためには坂本麟太郎の力も必要だ」
「……善処する」
ほんと、オレと同い年なのに大真面目なんだよなー。オレは高卒でプロに入れたけど、コイツは『自分の口の分は自分で稼ぎながらプロを目指す』って言って工場勤めながらプロになったような奴だからなー。今だって多分そのせいで行き詰まってるんだろうけど、まーいずれは何とかなるさ。
……"天才"、ねぇ。オレから言わせりゃ、"天才"ってのは光忠とかウェザ様辺りだよ。オレはそんなんじゃねー。
普通のご家庭と違って、何もかも野球優先にしてきたからこそ、オレは綿津見昴になれた。だけどそれでもなお、同い年の幾重光忠にはまだ敵わねぇ。元々別リーグの上に、アイツは今年からメジャーでウェザ様と一緒だからな。勝ち逃げしやがって。ちくしょう。いつかオレも絶対……
「4回の裏、バニーズの攻撃。9番ショート、月出里。背番号52」
……おっと、まずは試合に集中だな。
「ボール!」
「ボール!」
「ボール!」
「ボール!フォアボール!」
「おいィ!?何やっとるんじゃ己!!」
「ストライク取らんかいストライク!」
若造ながらプロを多少経験したオレから見て、一軍・二軍の投手の能力で決定的に違うのはやっぱ『制球』だな。
そりゃあ一軍にだって制球がアバウトな投手なんてごまんといるけど、そういう奴らはストライクゾーンに入れるの自体は最低限なんとかなってる。こうやって二軍で燻ってる投手ってのは、総じて実力不足って言えるけど、その原因は色々ある。アマチュア環境と比べて固いマウンドに適応できないとか、打者のレベルがアマチュアと段違いだから今までストライクゾーンに通してりゃ良かったところをコーナーも狙わなきゃならなくなって球威自体が落ちたとか、単に怪我や歳で衰えたり感覚が狂ったりとか、そんなとこだな。
そしてここ最近、四球を稼げる能力が日本でも評価されるようにはなってきたけど、それでも制球に大きな差があるんだから必然的に一軍と二軍じゃ四球の価値もその分違う。一軍じゃ単純に打つ力がねーとなかなか稼げねーけど、二軍じゃこうやって投手が9番打者相手に一人相撲することなんて珍しくねー。
だから二軍の打者の将来性を測る上で四球の数とか出塁率ってのは一軍ほどは重視されねー。それ以上に『三振』の方がよっぽど重視される。基本的に二軍で三振しまくるような打者は一軍ではそれ以上にする。よっぽどホームランを量産できるとかそんなんじゃなけりゃ、必然的に四球だって稼げねー。そもそもストライクゾーンの球さえ当たんねーんだったら、そりゃ相手はボール球なんて投げる必要ねーんだし。
逢はさっき調べた限り、二軍での三振はまだ1つ。オープン戦でも見逃三振がちょろっとあったくらい……ま、ヒットはまだ出てねーし、打席自体まだ全然もらえてねーから何とも言えねーけど、少なくとも今の四球は完全にウチの投手の自滅だな。
******視点:月出里逢******
完全にもらった出塁。だけど、それでもアピールのチャンスは広がった。
(僧頭コーチがここ最近推してるし、試させてあげようかしらね)
旋頭コーチからの青信号。ありがたいね。
(気をつけろよ、バッテリー)
あたしってどうも、自分のやり方とか感覚とかを他の人に説明するのが苦手なんだよね。お父さんが言ってた『相手の呼吸と拍子を読む』ってのを、野球でどう説明すればいいのか……
とにかく、あたしはずっとそういうのを重視してやってきた。ネクストでも、素振りよりも相手ピッチャーを観ることを重視して、打席では相手ピッチャーの拍子に合わせるようにしてる。それがどういう風に功を奏してるのか災いしてるのかはわからないけど、結果としてみんなが知ってる通り、空振りはほとんどしないけど打てない。
川越監督に『それで良い』って言ってもらえたけど、もちろんあたしだって結果を出さなきゃいけないって思って全く違う方法を模索したこともある。だけどあたしは逆に他の人のやり方とか感覚とかを自分の耳に入れて理解するのも苦手みたいで、結局自分の感覚でしかまともにプレーができない。左打ちになろうかなって思った時期もあったけど、感覚が全く噛み合わなくてすぐに諦めた。
そしてそれは、走塁でも守備でも同じ。ちゃんと打ててた頃は盗塁とか細かいプレーはみみっちいって思って全然興味がなくて、高校に上がってからは打てなくなってその分走らなきゃってなって、やってみたら意外と上手くやれるから盗塁が結構好きになったんだけど、そもそも打てないから走る機会も少なかった。
「セーフ!」
呼吸と拍子が読めれば、牽制のタイミングだって何となくわかる。
(くそっ、なめるなよルーキー……!)
そして当然、打者と勝負するタイミングも。
「!!!走ったぞ!」
盗塁は一歩目でほとんど勝負が決まる。最適なタイミングで、どれだけ強く地面を蹴れるか。あたし自身も気付かない内に向上してた脚力とか、僧頭コーチから教わったスタートの時の体重移動とか色々に、この前のアルバトロス戦で間近で観た高座さんの走りっぷりから何となく見えたものとか、そういうのを駆使すれば……
「セーフ!」
この通り、盗めちゃうんだよね。
「おおっ!?ちょうちょやるやんけ!」
「逸れてんくても今のならセーフやな」
「あんなに速かったんか……」
最終目標はもちろん"史上最強のスラッガー"だけど、そこに至るまでの手段は打つ以外にもいくらあっても困ることはない。バントでも盗塁でも、今は望まれる結果を望み通り叶えていくまでだね。
(良いスタートだったよ、月出里くん)
(やるじゃねーか、逢……!)




