第二十八話 天敵(2/8)
******視点:月出里逢******
一軍の試合開始時間は一般の人達にも広く知られてるように、大体が18:00で、休日だと13:00とか14:00の時もある。それに対して、二軍では大体13:00開始。だから朝から結構バタバタする。最悪8:30の全体のアップ開始に間に合えば良いんだけど、あたしは食事とウォーミングアップはゆっくりやる方だし、瞑想の時間も取りたいし、最近はバッティングでの下半身の使い方のチェックなんかもやるから、かなり早めに起きて早めに球場に入って練習開始。
そして現在11:00頃。いったん練習を切り上げて昼食を摂りに寮へ戻るところ。
「……?」
物陰から何やら視線……と思ったら、天野さんや松村さんくらい身体の大きい、黒髪のおかっぱの女の人が困った顔でこっちを見てる。ウチじゃ見ない顔……というかユニフォーム的にもアルバトロスの人だね。
まぁ良いや。何も話しかけてこないし、早く帰ってご飯にしよう。
「…………」
え……?さっきから追いかけてきては振り返ると物陰に隠れるを繰り返してるんだけど、もしかして不審者?あんな変なのまで惹きつけちゃうなんて、さすがはあたしの美貌だわ。けど困る。向こうも割と綺麗めの人だけど、あたしにそっちの趣味はないから。
「あの……」
「ぎゃひっ!!?は、はい!」
どうせ殴り合いなら負ける気がしないし、埒が開かないからこっちから話しかけてみる。案の定、相当な小心者らしい。
「さっきからなんなんですか?」
「ご……ごめんなしゃい!あひっ……その……ここの球場来るの初めてで、と、トイレ行ったら迷っちゃって……ふへへ……」
「……グラウンドに出たいんですか?」
「そそそそうです!ひぅ……すみません……」
常に困り眉。こんな図体で、胸部にも佳子ちゃんくらい立派なもの2つぶら下げてるのに情けない。
「ここをまっすぐ行けば、ヴォーパルくんの案内板が見えるはずです。それに従っていけば大丈夫だと思いますよ」
「ひゅっ……あり……ありがとうございます!ウェヒヒ……すみません!集合時間なので、これで!」
そう言って、すぐさま背を向けて走り去っていく……んだけど、そこでユニフォームに書かれた名前と背番号が見えた。「KOGOMORI 5」……え?もしかしてあの人、鹿籠葵さん……?
「!!やば……」
あたしも早く帰らなきゃいけなかった。ご飯はたっぷり、よく噛んで。そしてシャワーとスキンケアは欠かさず。スラッガーとしての頂点を目指すのと美貌を保つためにも無駄な時間はかけてられない。
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「どうしたの逢ちゃん?忘れ物でもしてたの?」
「多分、鹿籠葵さんと鉢合わせた」
「え……?鹿籠さんと……?」
寮に戻ってようやく佳子ちゃんと昼食。雨田くんと神楽ちゃんは元々そこまで食べないし、試合前だと尚更最低限で済ますタイプだからもう食堂から出てる。あの2人、背が高い割にまだ身体が細いのにね……
「ってことは、今日出るのかなぁ……?」
「わざわざ大阪まで来たんだから、代打だけってことはないと思うけどね」
あたし達1999年度生まれの世代のスターと言えば、エペタムズに入った高校通算110発男の白雪譲治くん、それからヴァルチャーズに入った嚆矢園優勝投手の矢井場鋒さん、そしてジェネラルズに入った三条オーナーの後輩の九十九旭くん、この3人が特に有名どころ。雨田くんと斉藤エイルさんもドラ1候補筆頭として取り上げられてたけど、この2人は個人の実力が評価されただけで、高校での実績は大したことない。
そして、この辺りに次いで有名どころなのが、ペンギンズに入った九州No.1スラッガーの猪戸士道くんと、アルバトロスに入った鹿籠葵さん。
鹿籠さんは千葉の強打で有名な高校のエースでありながら4番を務めて、嚆矢園で二打席連続ホームランを打ったという、高校での実績だけ見れば佳子ちゃんの強化版みたいな人。と言っても、あたしは元々高校野球には興味がなかったし、自分が高校野球をやってる時でさえも嚆矢園は軽くチェックする程度だったから、鹿籠さんの名前や実績は知ってても、顔までは全然知らなかった。正確にはテレビでチラッとは観たかもだけど、どのみち覚えてなかった。
ドラフトの時も確か、鹿籠さんは野手として指名されてたはず。まぁ実際、中学の頃からスラッガーとして有名人だったし、正しい評価だとは思うけど、アルバトロスはパンサーズと並んで生え抜き大砲が育たないので有名だから、その辺が心配ではある。
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