第四話 今日は可愛い後輩としてお行儀良く過ごさなきゃね(3/4)
◎2月4日 紅白戦メンバー表
※[投打]
●紅組
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 ■■■■[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5一 ■■■■[右右]
6指 ■■■■[右左]
7三 ■■■■[右右]
8二 ■■■■[右左]
9捕 真壁哲三[右右]
投 百々百合花[右右]
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○白組
[先発]
1左 相模畔[右左]
2右 松村桐生[左左]
3指 リリィ・オクスプリング[右両]
4一 天野千尋[右右]
5三 財前明[右右]
6捕 冬島幸貴[右右]
7二 徳田火織[右左]
8遊 桜井鞠[右右]
9中 有川理世[右左]
投 雨田司記[右右]
[中継登板確定]
氷室篤斗[右右]、早乙女千代里[左左]
[控え]
山口恵人[左左]、夏樹神楽[左左]、伊達郁雄[右右]、
月出里逢[右右]、秋崎佳子[右右]、……
******視点:百々百合花******
良いなぁ、雨田くん。確か最速で156km/hだっけ?私の自己ベストより10km/hも上。私もいつか150km/h投げてみたいんだけど。
「ん?」
雨田くん?私の方を見て、どうしたのかしら?まさか私に惚れちゃった?
「……フッ」
あらま。雨田くんの笑ってるとこ初めて見たけど、まさかこんなとこでとはね。「お前にはこんな球投げられないだろ」ってバッチリ顔に書いてるわ。
……面白いじゃない。
「1番レフト相模。背番号69」
この子、脚だけなら閑さんよりも速いのよね。セーフティには気をつけなきゃ。
「ストライーク!」
「ストライーク!」
(チッ……百々(どど)の奴、相変わらずポンポンストライク取ってきやがる……!)
インコースへのストレート、アウトコースへのバックドアカーブ。2つともストライクゾーンに入ったんだから、ある程度遊べる場面ではあるけど……
(……インコースへのビーンボール!?)
と、見せかけて……
(!!しまった……!)
「ストライク!バッターアウト!!」
「おお!いきなり三球三振!!」
フロントドアのシュートで3球勝負。相模くんには悪いけど、先頭打者だからね。容赦無くやらせてもらったわ。
「2番ライト松村。背番号4」
さて、次は松村くん。今日はチャンスメーカーの2番を任されてるけど、基本的に早いカウントから振りにいくタイプ。
「ファール!」
やっぱりそうきたわね。
(百々さんの制球力に対して四球を狙ったところでカウントを悪くするだけですからね。尚更積極的にいかせてもらいますよ)
1球目から私のストレートに合わせられるそのコンタクト能力。だからこそ、次はこれね。
(絶好球……!いや……)
「ファール!」
打ち損じ狙いのインコーススライダー。だけど流石のバットコントロール。とっさに身体だけ早めに開いて敢えてファールゾーンへ打ったわね。
「ボール!」
(今度は低めチェンジアップ……本当に引き出しが多い人ですね……)
と、思わせておいて。
「ストライク!バッターアウト!!」
最後は真っ向勝負のストレート。これでお膳立ては整ったわね。
******視点:夏樹神楽******
「最後はアウトローいっぱいの140km/hストレート……制球力と変化球で駆け引きするタイプだからあんなのでも空振りが取れるのかな?ボクなら140km/hなんてスライダーでも出せるんだけど」
「おい、お前……!」
コイツ、ドラ1だからってルーキーが何エースディスってんだよ……!
「甘いよ」
「え……?」
どこから声がしたのか一瞬わからなかったけど、思ったより目線の下にいた。イキリメガネのドラ1をたしなめたのは、年下の先輩投手の山口恵人さん。去年良い意味でも悪い意味でも話題になった中卒ルーキー。逢よりちっちゃいけど、投げる球はエグい。
「確かに百々さんは球速だけ見ればそう見えるかもしれないね。実際、制球も球種の多さも百々さんの武器であることは確かだし、今時は高校生でも150km/hなんて珍しくなくなったし」
あっしは140km/hでも結構キツイんだけど……
「でもさ、その程度の投手が何年もプロの世界で"エース"を名乗れると思う?」
「……どういうことですか?」
「見てればわかるよ。百々さんはいわゆる軟投派投手なんかじゃないってね」
「3番指名打者オクスプリング。背番号54」
同じルーキーだけど、大卒の即戦力候補としていきなりクリーンナップ抜擢。大学では相当打ってたんだろうな。スイッチヒッターだから、右の百々さんに対して左打席に立った。
「ストライーク!」
相変わらず140km/h前後の球速で、ここまで3人に対して全部初球ストレート……ただ、リリィさんの様子がおかしい。打席を外して空振ったバットを眺めた後、バックスクリーンの球速表示を見て明らかに動揺してる。
「ファール!」
またストレート。球速も1球目とほぼ同じ。なのに、明らかに差し込まれてた。
「百々さんと初めて対戦したバッターは大体ああなるよ。自分の体感速度と実際の球速があまりにも食い違ってるんだろうね」
体感速度……?
「ファール!」
低めへのチェンジアップ。振りにいったけど、どうにかバットには当てられたって感じ。
「ストライク!バッターアウト!」
「白組三者連続三振!」
「流石は百々だぜ!」
最後は144km/h、これまでよりも少し速い高めボール球ストレート。
「今の配球パターン、赤猫さんの時と大体同じだって気付いた?」
「……あっ!」
確かにそうだ。落ちる変化球で多少目線を動かしたけど、基本は速球中心、力押しの配球。
「……ボクと同じような投球なんて、自分にだってできるとでも言うのか……!」
イキリメガネが悔しげに百々さんを睨みつける。それに気付いてか気付かずか、百々さんはベンチに戻りながらこっちに振り返ってウインクを投げた。きっとそれが答えなんだろうな……




