第二十六話 カーテンコール(6/9)
2018ペナントレース バニーズ0-0ヴァルチャーズ
4回裏 攻撃開始
打席:友枝弓弦
○天王寺三条バニーズ
監督:柳道風
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[左左]
4左 金剛丁一[左左]
5三 リリィ・オクスプリング[右両]
6指 ロバート・イースター[右左]
7一 天野千尋[右右]
8捕 冬島幸貴[右右]
9二 徳田火織[右左]
投 氷室篤斗[右右]
●博多CODEヴァルチャーズ
監督:羽雁明朗
[先発]
1二 ■■■■[右左]
2遊 睦門爽也[右右]
3中 友枝弓弦[右左]
4一 成宮知久[右右]
5指 フィアマル・ローウェン[右右]
6左 田所瑠璃子[左左]
7三 穂村小町[右右]
8右 ■■■■[右左]
9捕 久保正典[右右]
投 ■■■■[右右]
「ファール!」
初球アウトローツーシーム……まぁ現状、左打者のアウトローに運用を限定してるツーシームならアリですねぇ。
「初球はレフト方向切れていきます。▲▲さん、今年は氷室、ツーシームも投げるようになってますねぇ」
「なかなか良い変化してますね。代わりにカーブはあまり投げなくなったようですが」
「ボール!」
高めまっすぐ。流石に向こうもここは読んできますよねぇ。
バックドアのスライダーなんかも使えると良さそうなんですが、今日の氷室さんは全体的に球のキレがあるものの逆球が少し多い印象なので、真ん中に入るリスクが考えられるんですよねぇ……
「ストライーク!」
と思ったら使ってきましたね。
「これで1ボール2ストライクと追い込みました!」
「まだフォーク使ってないですね」
恐らく裏をかくのと、今後に向けてスプリットにできるだけ慣れさせない算段ですね。
(ヤベェ。フォーク以外も色々パワーアップしててマジヤベェわ。どうすっかなぁ……?)
「ファール!」
「ファール!」
「2球続けてインハイ速球!粘ります!」
シチュエーションによっては打ち取れたでしょうが、向こうも恐らく先頭打者なので出塁が頭にあるんでしょうね。
(インコース見せられたんはデカい。アウトローまっすぐで決めるで!)
(おう……!?)
逆球インロー……
「打ちましたレフト方向!」
「よっしゃ!詰まっとる詰まっとる!」
「これはどう見てもレフトフライやろ」
氷室さんも冬島さんも、逆球ながらも打ち取れて安堵してる様子。
ですが……
「「は……?」」
背走してた金剛さんがフェンスまで到達しても、いよいよ打球は落ちて来ず、落下地点はレフト方向テラス席。
「は、入ったあああああ!!!先制!先制ホームラーン!!友枝の今季第一号は、ゲームの均衡を破る貴重な一発!」
「おっしゃあああああああ!!それでこそ友枝たい!!!」
「良か男じゃ!弓弦!」
「う、嘘やろ……?」
「何であんなどん詰まりが入るねん……?」
「流石、広角に大きいの打てますねぇ……テラス込みとはいえ、インコースどん詰まりでレフトに持って行けるんですねぇ……」
(ヤベェ、めっちゃ打ち損じたわ。今年の氷室くんのまっすぐマジヤベェ)
「『流した』……んじゃないんだよねぇ……」
「ええ、『流れた』んでしょうねぇ……」
友枝さんは世間の評価やゲームでの設定などでは"広角打法のスラッガー"として名が通ってますし、実際にライト方向とレフト方向でホームランの本数にあまり差がないどころか、シーズンによってはむしろレフト方向の方が遥かに多いくらいなんですが、それには少し誤解が含まれてます。
右投げ左打ちのスラッガータイプの打球は傾向としてライト方向は強いラインドライブ、レフト方向は弱いフライになりやすいのですが、友枝さんもまさにこのタイプ。持ち味としてるライト方向へのラインドライブ性の打球は角度に乏しい分ホームランにはなりにくいものの、打球速度に優れてるから内外野の守備範囲を突破しやすく、結果的に一般的なホームランバッター以上に高いOPS……つまりは期待値を叩き出せてる、というわけですね。毎年三桁ほどの三振をしても安定して3割以上の高打率を叩き出せてるのは、まさにこれの賜物。
逆にレフト方向は打率だけ見てみるとライト方向のそれの半分未満。意図的に逆方向に『流して』強い打球を打てる本来の"広角打法のスラッガー"とはこの点で大きく異なってるんですよねぇ。
つまり、友枝さんは本質的には圧倒的なスイングスピードを生かした"プルヒッター"。
他の同タイプの打者と決定的に違うのは、あまりの長打力ゆえに引っ張り損ねて『流れて』もスタンドまで届いてしまうという点ですね。だから、結果としてレフト方向はライト方向と比べて打球が弱い分、期待値こそ低いものの、角度が付きやすいからホームランの数は稼げる、というわけなんですね。
右投げ左打ちのスラッガーはOPSの割にホームランの本数が少ないことが多く、友枝さんもその例に漏れず、飛距離の最大値こそ球界最高クラスにもかかわらず40本塁打に到達したことがなく、それどころか30本塁打も2回だけで他のシーズンは全て20本未満。
しかし、OPSやRC系統などの細かい打撃指標が取り上げられやすくなって、その上右投げ左打ちの多い現代では、スラッガーはホームランの本数そのものよりも期待値を求めるのが最適解と言えるのかもしれませんねぇ。




