第二十六話 カーテンコール(5/9)
2018ペナントレース バニーズ0-0ヴァルチャーズ
4回表 1アウト
二塁:リリィ
○天王寺三条バニーズ
監督:柳道風
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[左左]
4左 金剛丁一[左左]
5三 リリィ・オクスプリング[右両]
6指 ロバート・イースター[右左]
7一 天野千尋[右右]
8捕 冬島幸貴[右右]
9二 徳田火織[右左]
投 氷室篤斗[右右]
●博多CODEヴァルチャーズ
監督:羽雁明朗
[先発]
1二 ■■■■[右左]
2遊 睦門爽也[右右]
3中 友枝弓弦[右左]
4一 成宮知久[右右]
5指 フィアマル・ローウェン[右右]
6左 田所瑠璃子[左左]
7三 穂村小町[右右]
8右 ■■■■[右左]
9捕 久保正典[右右]
投 ■■■■[右右]
******視点:柳道風******
「おっと、ここで羽雁監督出てきて……リクエストです!今シーズンから導入されたリクエストをここで使ってきました!」
今のは少なくともあからさまなアウトのタイミングではない。アウトになれば儲け物くらいのもので、1点が重いこのゲーム展開でこちらの勢いに水を差すのが一番の目的じゃろうな。
「アウトアウトアウトアウト……」
「利敵行為だぞ、徳田」
「あ、すぐ出てきましたね。判定は……セーフ!覆りませんでした、盗塁成功!」
「まぁ今のは映像を見る限りでも角度によってはってとこですからね」
相沢が咎めるまでもなかったの。
それにしても赤猫の言う通り、やりおるのう。技術面もそうじゃが、それ以上にあの賢しさがの。
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『1つは信頼できる代走要員の確保ですね。現状、ここ一番での代走要員でもある有川さんを別の起用法に回しやすくなります。そしてもう1つは、レギュラーセカンドに成長の可能性が生じます』
『2つ目はまぁ良いが、1つ目はお前が上手くやれるのが前提となっておるのう。そう言える根拠は何じゃ?』
『今日の赤猫さんの盗塁成功と、徳田の盗塁失敗を比較しました。徳田は全てのリード幅が終始一定でしたが、赤猫さんはリード幅に違いがありました。具体的には、牽制で一塁に戻るのが少し遅れた直後に足幅2つ分以上は大きく取ってました。私は徳田の盗塁失敗時に赤猫さんから『遠い』という旨の指摘を受けてるのをたまたま耳にしたのですが、恐らくこれが正解かと思われます。一塁に戻るのが遅れたのも恐らく故意のもので、こうすることで自分が走れるタイミングを自ら作り上げたのでしょう。こういったアプローチを私も採り入れていきたいと考えております』
『なるほど……面白い。よかろう。その提案、採用しよう』
『ありがとうございます』
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レギュラーセカンドを固めたいのと、勝負事や酔狂を好むワシの性格。それらを交渉の糸口にして、結果的に出場機会を確保。そして分析力の高さを以て、結果を出してみせた。
元々DHありのリプに於いて代走が送られやすいのは、ファースト・サード・DHといった打撃型ポジション。少し特殊な事情となったが、それでもゲーム中盤での交代は十分にあり得る話じゃし、走力のアピールは結果として打席でのアピールの機会を増やすのにも活かせる。いくら代打起用しやすいスイッチヒッターであっても、代打自体が運の要素が強く、代打要員のみではレギュラー確保のアピールは難しいし、ましてやあの小娘は守備に難があるのじゃからの。
考えうる限り、あの小娘のレギュラー奪取の手段としては最適解と言える。
「フォッフォッフォッフォッ……」
全く、面白い小娘じゃ。冬島とは一味違う曲者じゃな。
「アウト!スリーアウトチェンジ!」
得点には繋がらんかったが、あの小娘にとっても、チームにとっても、戦略的に有意義な回になったのう。
「リリィ、そのままサードに入れ。ミスらん限りは今日の残りを預けよう」
「……!ありがとうございます!」
「残念じゃったのう、徳田。フォッフォッフォッフォッ……」
「むぅ〜〜〜……!!!」
そして、徳田にとってもの。
******視点:有川理世******
「4回の裏、ヴァルチャーズの攻撃。3番センター、友枝。背番号9」
「有川くんならどう組み立てる?」
「でゅふっ、そうですねぇ……氷室さんなら思い切ってスプリット3つでも良いと思いますが、友枝さんの狙いを考えたら高めまっすぐを生かしていきたいですねぇ」
「お、有川くんも気付いてたんだね?」
「もちろんですよぉ、でゅふふふ……」
ベンチにいる機会の多いワタクシメにとって、こうやって実力のある方とお話しできるのは貴重な成長機会。
伊達さんも気付いてたんですねぇ。あの最強スラッガーがこれだけ長く不調続きなんて、何らかの意図があるか、よっぽどの故障を抱えてるくらいしか考えられませんからねぇ。一戦目の申告敬遠も、やっぱり単に向こうの打線の穴を突いただけではなく、経験値を積ませない為でもあったんですねぇ。