第二十六話 カーテンコール(4/9)
2018ペナントレース バニーズ0-0ヴァルチャーズ
4回表 攻撃開始
○天王寺三条バニーズ
監督:柳道風
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[左左]
4左 金剛丁一[左左]
5三 アレックス・グレッグ[右右]
6指 ロバート・イースター[右左]
7一 天野千尋[右右]
8捕 冬島幸貴[右右]
9二 徳田火織[右左]
投 氷室篤斗[右右]
●博多CODEヴァルチャーズ
監督:羽雁明朗
[先発]
1二 ■■■■[右左]
2遊 睦門爽也[右右]
3中 友枝弓弦[右左]
4一 成宮知久[右右]
5指 フィアマル・ローウェン[右右]
6左 田所瑠璃子[左左]
7三 穂村小町[右右]
8右 ■■■■[右左]
9捕 久保正典[右右]
投 ■■■■[右右]
******視点:相模畔******
バニーズは元々、機動力が売り。そしてヴァルチャーズも日本球界で最強のスラッガーと去年のホームラン王を抱えてるくせに、『こういうことがきちんとできるから王者なんだ』と言わんばかりに堅実な攻撃をするから、このカードは数字だけで見れば良い勝負をしてる。
だけど、それは俺や千代里みたいな立場だと困るんだよな……接戦ってのは必然的にチームの主力が出張るとこ。俺らみたいな立場はどっちかにとって捨て試合がほぼ確定したような場面で出てきて、主力を休ませてやるのが主な役割。その中で結果を出していかなきゃ、なかなか立場は上がってこない。
「おっと、これはライト下がって下がって……捕りました、ワンナウト!」
「ああっ、惜しい……!」
「ええでええでー!テラスあるんやから打球上げてけー!」
「そろそろ金剛の一発も出て欲しいとこですねぇ」
向こうの先発も氷室と同じくここまで無失点だが、出塁の数も現状こっちが上で、今みたいな当たりも出てるから内容でも上回ってる。正直、今日の試合は割と勝ちの目があると思う。
「5番サード、グレッグ。背番号56」
(今日は前の2試合に比べて投手戦になってるから、4番から7番までの並びは要警戒だな……)
向こうの久保のミットは外低めに構えられてる。やっぱ今日の試合はソロムランでも怖いって考えなんだろうな。
「……!!!ああっと!!!!!」
「ヒット・バイ・ピッチ!」
「おい、大丈夫か!?」
速球がすっぽ抜けて、恐らく二の腕辺り、肘当てが覆ってるかどうか微妙なとこへ……
「グレッグ、大丈夫か?」
「〜〜〜ッッッ!!!」
「ちょっとすぐには戻れないかもですね……」
「ふーむ……まだシーズン頭じゃし、大事を取るかのう……病院連れてってやれ」
「はい!」
ベンチに戻ったグレッグはまだぶつかった辺りを手で覆って、苦しそうな顔をしてる。元々思いっきり踏み込んで外の球でも構わず引っ張るタイプで、デッドボールが多かったからな……そしてヴァルチャーズはビリオンズほどじゃねぇけどデッドボールの多さで有名……
「ふざけんなやヴァルチャーズ!」
「ノーコンけしかけとんちゃうぞ!」
「やかましか!ただの事故たい!」
「こげなもん、避けん方が悪いわ!」
「ファーストランナー、グレッグに代わりまして、オクスプリング。5番サードベースマン、オクスプリング。背番号54」
レフトスタンドからのブーイングと、ライトスタンドからの擁護に紛れてコールされたのは、あのなんちゃってイギリス人。
「代走に入ったのは昨年のドラフト3位、ルーキーのリリィ・オクスプリング!西帝国学院大学出身、関西大学リーグで歴代1位の通算本塁打14本を記録した、強打のスイッチヒッターです!」
「ゲーム展開的に脚で1点もぎ取りたいとこですが、まだゲーム中盤ですからね。打線とポジションの補完を優先したんでしょうね」
(ま、そっちがメインじゃが約束もあったしの。せいぜいこのチャンスを生かすことじゃな)
くそっ、俺には走らせてくれねぇのかよ……!
「6番DH、イースター。背番号42」
一発打てる奴が2人続くが、リリィはリードを大きめに取ってる。まさか、盗む気なのか……?相手キャッチャーは鬼肩の久保だぞ……?
(確か盗塁も大学通算で2桁はやってたはず……可能性はあるな。一応釘を刺しといて下さい)
「一塁牽制!」
「セーフ!」
ちゃんと戻れはしたけど、戻るのに集中してリードを活かせないとか、そういう本末転倒になってる方が個人的にはありがたいとこだな。
「ボール!」
「もう一球牽制!」
「セーフ!」
「また一塁へ!」
「セーフ!」
危ねぇな。戻るのかなりギリギリじゃねぇか。
(あんまり投げさせると暴投のリスクもあるからな……そろそろホームだな)
(……!)
ピッチャーがようやく2球目……!?
「一塁ランナースタート!」
(くそっ、このタイミングか……!)
「ストライーク!」
「セーフ!!!」
「セーフ!セーフ!間に合いました!」
「うぉぉぉ!マジかよ!?」
「久保相手にやるやんけあの外人の姉ちゃん!」
「リリィ・オクスプリング、プロ初出場でいきなり初盗塁!」
決めちまいやがった……俺より先にプロ初盗塁……
「……ふぅん、やるじゃない」
あの赤猫さんが珍しく、他の奴の走りを褒めてる。その横で徳田は頬を膨らませてる。