第二十六話 カーテンコール(3/9)
******視点:冬島幸貴******
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2018ペナントレース バニーズvsヴァルチャーズ
○天王寺三条バニーズ
監督:柳道風
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[左左]
4左 金剛丁一[左左]
5三 アレックス・グレッグ[右右]
6指 ロバート・イースター[右左]
7一 天野千尋[右右]
8捕 冬島幸貴[右右]
9二 徳田火織[右左]
投 氷室篤斗[右右]
●博多CODEヴァルチャーズ
監督:羽雁明朗
[先発]
1二 ■■■■[右左]
2遊 睦門爽也[右右]
3中 友枝弓弦[右左]
4一 成宮知久[右右]
5指 フィアマル・ローウェン[右右]
6左 田所瑠璃子[左左]
7三 穂村小町[右右]
8右 ■■■■[右左]
9捕 久保正典[右右]
投 ■■■■[右右]
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「ストライク!バッターアウト!」
「スイングアウト三振!これで三振5つ目!」
「いやぁ、氷室は本当に変わりましたねぇ……」
「氷室くぅぅぅん!」
「なんとおおおおお!!!!!」
「この瞬間を待っていたのよー!!!」
「氷室篤人は伊達じゃない!」
「いや、まぁ今日のキャッチャー冬島やけど……」
打者二巡目、ここまで出塁は成宮さんのテキサスと田所さんの四球だけ。一昨日の真木さんと似たような感じやな。
「2番ショートストップ、睦門。背番号6」
(良いピッチャーになったな、氷室……!)
(もう投げ合うことは出来ねぇが、今日は1本も打たせねぇぜ、睦門……!)
「さぁ3回の裏、ツーアウトランナーなし。打席には開幕から当たってる睦門です!」
「爽也くぅぅん!パンダなんかに負けないでねー!!」
「いやぁ、こんな形で氷室と睦門の勝負がまた観れるなんてなぁ」
「やっぱ日本のプロ野球って高校野球の延長みたいなもんやな」
篤斗と睦門の坊や、お互いに見つめ合い、笑い合う。かつてその実力と容姿で嚆矢園を賑わせたもん同士。絵になるわな、憎たらしいくらいに。
「……!」
「ストラーイク!」
「初球空振り!いきなり出ましたフォーク!」
「去年までとは比べ物にならないくらい良い球になりましたねぇ……スピードもキレも段違いですよ」
(初っ端からか……!)
第一打席はスプリットで三振やからな。それにツーアウトランナーなしで、去年までのデータを見る限り睦門は火織ほど球を選べるタイプやない。故に直後が友枝さんであっても、追い込まれる前にでかいのを狙うのがセオリーやな。
「ボール!」
(チッ、外れたか……!)
睦門は火織とほぼ同じくらいのチビやのに、高校通算62本のパンチ力。特にインローは一戦目でもホームランにしたくらい大好物や。もう1球外スラ、一番苦手のアウトローを徹底的に突くで。
(なめんな……!)
「ファール!」
「ああっ、惜しい……!」
少し上擦ったとは言え、意外と右方向にも打てるんやな。せやけど……
「またスライダー!バットは……?」
「ボール!」
「回ってません!これでツーツー!」
構へん。これで外低めへの意識付けは十分。
(うっ……!?)
「ストライク!バッターアウト!」
「スイングアウト!高め150km/h!氷室、これで三振6つ目!」
「少し逆球になりましたが、まっすぐにも力がありますねぇ……」
「キャアアアアア!!!」
「あっくぅぅぅん!!!」
「……徳田、そういうのは観客席でやれ」
篤斗のスプリットが強力なのは、速球にも磨きがかかったからこそや。インハイきっちりならより安全やったけど、スライダー慣れした状態ならアレで十分や。
「スリーアウト!チェンジ!」
(……流石だべ、氷室。それでこそおらに投げ勝った男だ……!)
「さっすがあっくん!」
「おう、サンキューな!」
「ぐぬぬ……!」
「あんのビ■チ……!」
ベンチへの移動中、わざとらしく篤斗に近づいて、レフトスタンドの方をチラッと見て、口元を隠しながら嘲笑う。さっき相沢さんに咎められてたのに、ええ性格しとるわ火織……
「いやぁ、▲▲さん!ここまでの氷室のピッチング、チームに希望を与えますねぇ!」
「ええ。ヒットこそ出てはいますが危ない当たりは全然ないですし、この三振の数。安心して見てられますね。ヴァルチャーズ相手に開幕戦勝利だけでなく開幕カード勝ち越しができれば、他の選手達にとっても自信に繋がるはずですよ。そういう希望を持たせられるピッチャーが"エース"ってやつなんでしょうね」
「3回の裏、攻撃終了、0-0。まだまだ投手戦が続きます!」
ここまで良い流れできてるのは間違いないけど、その主体になってるのは篤斗。キャッチャーってのはどこまで行っても脇役働きやな。
まぁそれでも"日本一のキャッチャー"になるって決めたのは他ならぬオレ自身やけど、オレやってピッチャーやれるんならピッチャーやりたかったし、野手であってもやれるんならショートとかセンターとか、もっと華のあるとこをやりたかったわ。オレにとっちゃ、キャッチャーなんてもんは『天職』とかそんな綺麗なもんやなく、『呪い』みたいなもんなんやからな。
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『乾くんすごーい!!!』
『あんなカッコいいのに、勉強でも体育でも何やらせても一番やね、乾くん』
『野球チームでもエースで4番なんやろ?マジ完璧やわ』
『あーあ、遥ちゃん羨ましいわぁ……ウチも乾くんと付き合いたいわぁ……』
『あ……付き合う言うたらさ、この前ウチの下駄箱に"ブヨ島"のラブレター入ってたんやけど……』
『うわっ、キモ!どないしたんそれ!?』
『そんなんソッコー捨てたに決まってるやんwww変な菌移ったらどないすんねんwwwww』
『まぁ"ブヨ島"も勉強だけはできるけど、ないわなー』
『妹ちゃんはあんなに可愛いのにねー』
『うわっ、脚遅ッ!』
『おいおい、妹に負けんなや冬島……』
『まぁまぁ。漬物石でも乾の球は捕れるんやし、普通にキャッチャーやらせときゃええやん』
『あのツラ、マスクで隠せてちょうどええしなwwwww』
『プッwほんまに来よったwww』
『え、先輩……?■■さんは……?』
『騙されてやんのーwwwあんなん俺らのなりすましに決まってるやんwww』
『わざわざあんなカッコつけた自撮りまで送ってきてクッソウケたわwww』
『1年でレギュラー獲れたからって勘違い乙wwwww』
『モテない童貞くんはこれだからwwwww』
『どうっすか?割といけると思うんすけど……』
『うーん、確かに捕るのと肩は良いけど、この脚とバッティングじゃなぁ……普通に進学させてやった方が良いんじゃないか?』
『嚆矢園出てないんだから、実力か見た目とかのタレント性がないと、プロでは売り物にならんだろ?』
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『最終学歴』でも、『ドラフト順位』でも、オレはアイツに勝った。あとは肝心の『プロ野球選手としての実力』と、それに付随して『経済力』と『嫁さん』や。他のポジションという選択肢がなかったオレやけど、全部叶えられたら『キャッチャーなんてもんはオレにとっちゃ手段に過ぎひん』って言い切ってやる。
……まぁそうは言っても、今日こうやってスタメン起用してもらえてるのは、単純に実力が認められたというのとは少し違うんやけどな。故障持ちの伊達さんに定期的に休んでもらうために、とりあえず前の紅白戦で相性の良さそうやった篤斗の登板日をオレのスタメンマスクにするっていう方針から……
「幸貴、この回も良いリードだったぜ。逆球多めですまねぇな」
「気にすんな。それも織り込み済みの組み立てや。ナイピーやで篤斗」
要はよりによってアイツと同じ、オレの大嫌いなイケメン野郎に頼っとるってこっちゃ。不本意かと聞かれれば、全くもってその通りや。
けど、今はそれでもええ。そうまでしてでも、オレはアイツに勝てる可能性のあることは何もかも勝たんとアカンのやからな……!




