第四話 今日は可愛い後輩としてお行儀良く過ごさなきゃね(2/4)
◎2月4日 紅白戦メンバー表
※[投打]
●紅組
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 ■■■■[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5一 ■■■■[右右]
6指 ■■■■[右左]
7三 ■■■■[右右]
8二 ■■■■[右左]
9捕 真壁哲三[右右]
投 百々百合花[右右]
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○白組
[先発]
1左 相模畔[右左]
2右 松村桐生[左左]
3指 リリィ・オクスプリング[右両]
4一 天野千尋[右右]
5三 財前明[右右]
6捕 冬島幸貴[右右]
7二 徳田火織[右左]
8遊 桜井鞠[右右]
9中 有川理世[右左]
投 雨田司記[右右]
[中継登板確定]
氷室篤斗[右右]、早乙女千代里[左左]
[控え]
山口恵人[左左]、夏樹神楽[左左]、伊達郁雄[右右]、
月出里逢[右右]、秋崎佳子[右右]、……
******視点:雨田司記******
「雨田くーん!」
「今日先発頑張ってねー!」
「アタシ、氷室くんより雨田くんの方がタイプかも!」
ついにこの時がやってきた。この日をどんなに待ち侘びたか。
もう周りのレベルを気にする必要なんかない。バニーズは最弱だけど、プロはリーグ形式。それでも試合の機会を周りに左右されることもあるけど、今までのトーナメント形式と比べれば遥かにマシだ。それに何より、個人成績は共通して出られる試合で算出される。ボクにはそれだけで十分。
「それじゃあ雨田くん。今日のサインはこんな感じでいくから」
「わかりました。くれぐれも捕りこぼさないでくださいよ?それと、サインに不服があれば遠慮なく首を振らせて頂きますので」
今日バッテリーを組むのは、同じルーキーの冬島幸貴さん。ここまでキャンプ中は去年のレギュラーキャッチャーの真壁さんとよく組まされてたけど、ボクに次ぐドラ2の期待株である以上、あんなザル以下ではないことを祈るばかりだね。
「おうおうリリィ。ルーキーなのに指名打者様なんて良い御身分やな」
「せやろ幸貴?まぁ見とけや。ウチの三冠王伝説はここから始まるんや」
見た目明らかに白人女性なのにコテコテの関西弁で話すリリィ・オクスプリングさん。"関西大学リーグ歴代トップクラスの強打者"って触れ込みながらドラ3なんだから何かしらの欠陥があるんだろうけど、まぁ守備をやらないのなら前評判通り打つ方でやってくれれば別に良い。何なら打つ方でも散々でも構わないさ。『勝利投手』なんていう野手に依存する部分が多すぎるものには興味がないしね。
雨田司記の名は、ボクが勝手に残させてもらう。
「氷室。ちょっとこっち来て」
「あ、はい」
驚いた。二軍監督はあの旋頭真希が務めてるとは聞いてたけど、こんなとこで実物が見れるとはね。今日は白組の指揮を執るみたいだけど、ボクは基本的にこれといったトラブルがない限りは6回まで投げると確約をもらってる。他の人をどう使うかとかは勝手にやってくれればいい。
「おはよう雨田くん。今日はよろしくね」
「……ども。よろしく願いします」
紅組側の先発で、バニーズの現エースとして君臨する百々百合花さん。綺麗な顔立ちだけど、頭の右半分がショートヘアのオールバック、左半分が少し癖のあるセミロングヘアという変な髪型の人。
「百合花キター!!!」
「年の始めからいきなり不動のエースとスーパールーキーの対決、熱いねぇ」
「ルーキーにプロの厳しさ教えてやれよー!」
「ありがと、ちゅっ」
「ヒューッ!!」
ウインクと投げキッスでファンからの声援に応える百々さん。入団以来ずっと主力投手として活躍してるらしいけど、お山の大将だったってことを思い知らせてやるさ。
「プレイボール!」
「1番センター赤猫。背番号5」
「うぉぉぉ!閑ちゃーん!!」
「ワイもニャンニャンしてくれやー!」
さて、初っ端から面倒な相手だ。赤猫閑。こんな見た目だけど実はバニーズの不動の1番センターにして球界を代表するリードオフヒッターで、30代。弱小不人気球団で数少ない全国的な知名度を誇るスタープレイヤー。
だけど、丁度良い。
「ストライーク!」
「おお!いきなり145km/h!」
ボクの実力を証明するのにはね。
「ボール!」
「ファール!」
(3球続けてストレート……随分自信満々だこと)
流石にやるね……まだ全力じゃないけど、一振り目で合わせてくるなんてね。
なら、これはどうかな?
「ボール!」
「出た!雨田得意の縦スラ!!」
「すげぇ落差だな!」
「でも閑ちゃんは振らなかったぞ!」
(そりゃ、こんな配球見え見えだし)
「ドンマイドンマイ!ナイスボール!」
ふぅん。赤猫さんもだけど、冬島さんもやるね。ボクの縦スラを難なく捕球。初日に言ってた通り、少なくとも捕る方では真壁さんよりもできそうだ。
だけど、ボクの本領はここからだ……!
(むっ……!?)
「ストライク!バッターアウト!!」
「うひょおおお!すげぇ、154km/h出たぞ!!」
縦スラ後に、球速も球質もベストを出せる高め全力ストレート。これがボクの黄金パターンさ……!
******視点:柳道風******
評判通りじゃな、あの小僧。体格こそプロの投手としては平均かそれ未満程度なれど、ストレートの威力は雷の如し。選球眼の良い赤猫がボール球に手を出したということは、スピードだけではなくキレもある証拠。出身校は野球に力を入れてない進学校じゃったが、だからこそ、独学で投球動作の1つ1つを緻密に計算し、あれだけの球威を生み出せるようになったのじゃろう。
「大したものですね」
「おお、金剛。どうじゃ、打てそうか?」
「……すぐには難しそうですね。ほら」
続く相沢達も凡退でチェンジ。まぁ、初回はこんなもんじゃろうな。