第二十五話 認めてやる(5/5)
2018ペナントレース バニーズ 4-2 ヴァルチャーズ
7回表 1アウト
一塁:徳田
○天王寺三条バニーズ
監督:柳道風
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5三 アレックス・グレッグ[右右]
6指 ロバート・イースター[右左]
7一 天野千尋[右右]
8捕 伊達郁雄[右右]
9二 徳田火織[右左]
投 三波水面[右右]
[控え]
冬島幸貴[右右]
リリィ・オクスプリング[右両]
有川理世[右左]
早乙女千代里[左左]
相模畔[右左]
・
・
・
●博多CODEヴァルチャーズ
監督:羽雁明朗
[先発]
1二 ■■■■[右左]
2遊 睦門爽也[右右]
3中 友枝弓弦[右左]
4一 成宮知久[右右]
5指 フィアマル・ローウェン[右右]
6左 田所瑠璃子[左左]
7三 穂村小町[右右]
8右 ■■■■[右左]
9捕 久保正典[右右]
投 真木菊千代[右左]
******視点:睦門爽也******
「ボール!フォアボール!」
「ボール!フォアボール!」
「これはいけません!赤猫、相沢に連続フォアボールでワンナウト満塁!」
お菊さんは確かに元々四球は少なくねぇ。けどこれは明らかに集中力が切れてる。100球超えた後の全力投球のツケか、出力も明らかに落ちてる……
「ああっと!ここで羽雁監督、ベンチから出てきました!」
「交代ですね。これはしょうがないですね。開幕投手としてせめてこの回は投げ切りたいとこだったんでしょうが、点差的にもまだ勝ちの目はありますし……」
くそッ、おらのせいで……!
「ヴァルチャーズ、選手の交代をお知らせいたします。ピッチャー真木に代わりまして、波照間。ピッチャー波照間。背番号57」
波照間さん……左のリリーフエース。サイドスローでスライダーが得意な、ウチの投手陣を代表する左キラー。こっから森本さん、金剛さんと左が続くから妥当だな。
「3番ライト、森本。背番号24」
(今日は開幕戦だってのに、下位打線にいいとこ取りされすぎだな。せっかくの満塁、1点くらいはもぎ取らねぇとな……!)
「スライダー捉えた!!!」
左対左で波照間さんのスライダーを……!?やばい!これは……
「サード飛びつく!」
「アウト!」
ま、マジか……!?
「そのままサードベースタッチ!」
「アウトォォォ!!!スリーアウトチェンジ!!!!!」
「サードライナーゲッツー!サード穂村、超ファインプレー!守備でもチームを支えます!」
「ファイヤアアアアア!!!!!」
「おっしゃあああああ!!!」
「燃えたぜ小町ィ!!!」
「まだやれる!このままメソメソ負けてられるかい!!」
小町さんの変な雄叫びに呼応して、ファンもベンチも盛り上がる。やっぱすげぇ、小町さん……!
(くそッ……!やっぱクリーンナップってのはチマチマ打つだけじゃダメなのかよ……!)
「お疲れ様で〜す。波照間さん、すみませんでした〜」
降板してケアをしてるお菊さんがベンチに戻ってきたメンバーを労う。
「お菊さん……すんませんでした」
「気にしなくて良いよ〜。天野さんのは絶対ヒットだったのに、爽也くんのおかげで自責点は3だしね〜」
「でも、せっかくの開幕投手が……」
「そこは羽雁監督にもフォロ〜してもらったから大丈夫だよ〜。『7回続投を最終的に決めたのは自分だから気にするな。次に期待してる』ってね〜」
良かったべ……おらもずっと投手やってたから、そこが一番心配だったべ……
「……そういえば爽也くん、あの徳田さんって高校でチームメイトだったんだよね〜?」
「あ、はい……一応……」
「良いバッターだねぇ〜。また勝負するのが楽しみだよ〜」
……そうだな。だらしねぇ徳田をずっと見てきたし、おらは鳴物入りでこのチームに入ってきたのに、投手を諦めて努力を重ねてそれでようやく認められるようになっだからこそ、認めたぐなかった。徳田の実力を。徳田火織を侮ってた睦門爽也を。
「今度はどうやって打ち取るんすか?」
「そうだねぇ〜……155くらいのまっすぐじゃやられちゃったから、今度は160投げられるようになろうかなぁ〜?流石にこのシーズン中は難しいと思うけどね〜」
確かに先発投手で160km/hってのは幾重光忠と妃房蜜溜って前例もいるし、何よりお菊さんが言うと非現実的とは思えねぇな……そう思わせられるくれぇの選手に、おらもなりてぇなぁ。
・
・
・
・
・
・
「ご覧頂きました一戦は、3-5でバニーズの勝利となりました。本日のご観戦、誠にありがとうございました」
「よっしゃあああああああ!!!!!」
「8年ぶりの開幕戦勝利じゃあああああああ!!!」
「勝てる……勝てるんだ……!」
「今年のバニーズは一味ちゃうで!」
「勝率10割で首位!実質優勝や!」
レフトスタンドのバニーズファンがもうすでに優勝した気なんじゃねぇかってくらい盛り上がってる。あんなとこで胴上げなんてよくやるべ……
「放送席ー、そしてバニーズファンの皆様、お待たせしました!ヒーローインタビューです!今日のヒーローは2安打1四球2打点、一軍デビュー戦のこの開幕試合で、攻守でチームを盛り上げた、徳田火織選手です!」
勝ち越しホームランの天野さんかと思っだけど、徳田か……まぁデビュー戦補正だべな。ホーム戦なら2人共確実に呼ばれてただろうけど。
「まずは今日のバッティング、振り返ってみていかがでしたか?」
「うーん、一軍のピッチャーってどんな感じかなぁって思ってましたけど、思ったよりも打てましたね!」
「三打席目のプロ初ヒットで初打点、打ってみていかがでしたか?」
「ちょっと真っ直ぐが速かったから打てるか不安でしたけど、身体が上手く反応してくれました」
「9回の四打席目も見事なタイムリーツーベースでした!最後の打席、何か意識されたことはありましたか?」
「前の8回に向こうの爽……睦門選手がゲッツー決めてホームランまで打ってたから、こっちも絶対打ってやろうって思ってました。代走で入った理世ちゃんが上手く走ってくれて嬉しかったです!」
「そういえば8回裏もワンナウト一二塁のピンチでファインプレーを決めてましたね。そこでもそういう気持ちで守られてたんですか?」
「そうですね。打つのも守るのも負けたくないです!」
「ええぞー!かおりーん!」
「スタメン定着期待してるでー!」
「最強球団のショートと最弱球団のセカンドか……アリやな」
試合が始まる前は、絡んできてウザいって思ってた。でも今は、そうは思わねぇべ。
・
・
・
・
・
・
「おい、徳田!」
球場を出る途中。たまたま徳田と鉢合わせて、思わず声をかけちまった。振り返ってキョトンとしてる徳田だけど、やっぱり言っといた方が良いべな。
「……今日だけは、おらの負けだ!けんど、明日からはもう負けねぇ!お前が望む通り、おらはお前を"ライバル"として認めてやる!」
お菊さんのおかげで、あのミスがあっても切り替えられた。あのままずっとミスを引きずって縮こまったままプレーしてたら、8回のゲッツーだって取れなかった。
そしてそんなお菊さんが徳田を認めたから、おらも素直に認められるようになった。気付いたら意地とかじゃなく純粋に徳田に負けたくねぇって思えるようになってたから、8回にホームランを打てたんだと思う。
侮ってるだけじゃ何も得られねぇけど、認めて何かを得られるってんなら、いくらでも認めてやる。それで徳田もまた強くなっていくとしても、むしろ望むところだべ。『勝ち負けにはこだわるけど、負けてもそれ以上に勝負できたことを喜べる』。お前はそういう奴になれるって信じてやる。
「いきなり"ライバル"って……何恥ずかしいこと言ってるの?大丈夫?その歳で厨二病患っちゃったの?」
わざとらしいくらい、本気で心配するような素振り。
「お前……!先に喧嘩吹っかけてきたのはお前だべ!!?」
「だからって"ライバル"って……プププwww」
「ふざけんなよお前!ヒーローインタビューでもあんなこと言ってたくせに……!」
そこからのこのうっぜぇ煽り顔で、徳田が女なの忘れて思わず胸ぐら掴んじまった。
「きゃーおかされるー(棒読み)」
「そんなことするわけねぇべ!この破廉恥馬鹿野郎!」
「ププwwwしないんじゃなくてできないだけじゃないの?wwwwwヘタレチェリーボーイwwwwwww」
「うるせぇ!チェリーは関係ねぇ!」
やっぱり絶対負けねぇ……!徳田にだけは絶対負けねぇべ……!




