第二十五話 認めてやる(1/5)
2018ペナントレース バニーズ 3-1 ヴァルチャーズ
5回表 1アウト
二塁:伊達
○天王寺三条バニーズ
監督:柳道風
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5三 アレックス・グレッグ[右右]
6指 ロバート・イースター[右左]
7一 天野千尋[右右]
8捕 伊達郁雄[右右]
9二 徳田火織[右左]
投 三波水面[右右]
[控え]
冬島幸貴[右右]
リリィ・オクスプリング[右両]
有川理世[右左]
早乙女千代里[左左]
相模畔[右左]
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●博多CODEヴァルチャーズ
監督:羽雁明朗
[先発]
1二 ■■■■[右左]
2遊 睦門爽也[右右]
3中 友枝弓弦[右左]
4一 成宮知久[右右]
5指 フィアマル・ローウェン[右右]
6左 田所瑠璃子[左左]
7三 穂村小町[右右]
8右 ■■■■[右左]
9捕 久保正典[右右]
投 真木菊千代[右左]
******視点:伊達郁雄******
「ストライクスリー!バッターアウト!!スリーアウトチェンジ!!!」
結局、後続の赤猫くんと相沢くんも打ち取られて5回は終了。
「天野、よう打った!」
「伊達もまだまだやれるやんけ!」
「開幕戦ビジターでヴァルチャーズ相手にリードとか……これ明日米国株が暴落したりするんじゃね?」
裏の守備に入ると、ファンからの歓声。当然応えるけど、いつも基本ネガティブなバニーズファンにしては珍しいね。
「いつもよりもバニーズ側の応援席が賑わってますね」
「▲▲さん、実はバニーズは2012年シーズンから去年までで開幕戦6連敗中なんですよ」
「へぇ、そうなんですか。そんな中でこのままヴァルチャーズ相手に敵地で勝てたりしたらファンも大喜びでしょうね」
「そういう期待も込みでしょうね」
「チッ……このまま勝てると思うなよ……!」
と言っても、野球の試合というのは筋書きのないドラマ。ちゃんと伏線が回収されるような名作になったりもするし、思ったほど盛り上がらない駄作になったりもする。
「ストライクスリー!バッターアウト!!スリーアウトチェンジ!!!」
真木くんがピンチを切り抜けて流れを掴んで、先頭打者のヒットと睦門くんの内野安打でチャンスが作れても、最強打者の友枝くんが案外簡単に打ち取られたりもする。
「アウト!!スリーアウトチェンジ!!!」
そしてこっちも、そう簡単に押せ押せにはならない。グレッグが歩いただけで、他の打者は普通に打ち取られて、6回の表も動きなし。
「三波、まだやれるかの?」
「大丈夫ですよ!何なら完投しちゃいますから♪」
……流石に厳しいだろうね。
球数を抑えられてるのは確かだけど、現代プロ野球で完投が難しいとされてるのは、単に『今の投手が昔の投手と比べてひ弱』だとかじゃない。『球威が増して身体への負担が大きくなった』というのもあるけど、それよりもっと根本的な原因は『投手のレベル以上に打者のレベルが上がってる』ということ。
「ショート相沢……抜けた!レフト前ヒット!」
先頭の成宮くんは打ち取れたけど、次のローウェンには第一打席のリベンジをされた形となったね。
日本の野球というのは、当然プロ野球が最もレベルの高い環境ではあるけど、そのプロ野球というのは高校野球の延長になってるところがある。だから今でも野手よりも投手の方が特別視されやすく、その延長で先発完投主義を唱える人間も少なくない。にも関わらず、現代プロ野球では『先発は6回くらいで降りて残りのイニングを信頼できるリリーフに任せる』という、継投策を生かした内容のゲームが多くなってる。
人間に限らず、ある程度賢い生き物には『慣れ』という機能が備わってる。過去の経験を活かして次に繋ぐというもの。その性質上、『投手と打者の勝負』というのは最初は投手の方が有利で、次第に打者の方が有利になっていくのが自然。つまり継投策というのは、投手が有利な状況を可能な限り維持するために、1人の好投手の力だけに頼らず、複数人の投手を投入しようというアプローチだね。
でも、だからこそ、5回6回という先発が代わるか代わらないかのタイミングが一番怖い。打者は目に見えないところで慣れてきてるんだけど、今日のゲームみたいに、投手は投手で『この回までゲームを作ってきた』という目に見える実績を作ってることもある。
監督としても頭を悩ませるところだよね。仮に好投してきた状態で代えた場合は『先発のプライドを傷つけた』という誹りを受けるかもしれないし、当然代えて打たれたら責任を問われかねない。だから、アメリカの野球ではスタンダードな『100球縛り』が日本でも見られるようになったのは、単に『先発投手への負担を減らす為』というだけではなく、『好投してきた投手を降ろせる大義名分になり得るから』というのもおそらくあるんだろうね。




