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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
155/1167

第二十五話 認めてやる(1/5)

2018ペナントレース バニーズ 3-1 ヴァルチャーズ

5回表 1アウト

二塁:伊達


○天王寺三条バニーズ

監督:柳道風(やなぎみちかぜ)


[先発]

1中 赤猫閑(あかねこしずか)[右左]

2遊 相沢涼(あいざわりょう)[右右]

3右 森本勝治(もりもとかつじ)[右左]

4左 金剛丁一(こんごうていいち)[左左]

5三 アレックス・グレッグ[右右]

6指 ロバート・イースター[右左]

7一 天野千尋(あまのちひろ)[右右]

8捕 伊達郁雄(だていくお)[右右]

9二 徳田火織(とくだかおり)[右左]


投 三波水面(みなみみなも)[右右]


[控え]

冬島幸貴(ふゆしまこうき)[右右]

リリィ・オクスプリング[右両]

有川理世(ありかわりせ)[右左]

早乙女千代里(さおとめちより)[左左]

相模畔(さがみくろ)[右左]



●博多CODEヴァルチャーズ

監督:羽雁明朗(はがりあきたか)


[先発]

1二 ■■■■[右左]

2遊 睦門爽也(むつかどそうや)[右右]

3中 友枝弓弦(ともえだゆづる)[右左]

4一 成宮知久(なりみやともひさ)[右右]

5指 フィアマル・ローウェン[右右]

6左 田所瑠璃子(たどころるりこ)[左左]

7三 穂村小町(ほむらこまち)[右右]

8右 ■■■■[右左]

9捕 久保正典(くぼまさのり)[右右]


投 真木菊千代(さなぎきくちよ)[右左]

******視点:伊達郁雄(だていくお)******


「ストライクスリー!バッターアウト!!スリーアウトチェンジ!!!」


 結局、後続の赤猫(あかねこ)くんと相沢(あいざわ)くんも打ち取られて5回は終了。


天野(あまの)、よう打った!」

伊達(だて)もまだまだやれるやんけ!」

「開幕戦ビジターでヴァルチャーズ相手にリードとか……これ明日米国株が暴落したりするんじゃね?」


 裏の守備に入ると、ファンからの歓声。当然応えるけど、いつも基本ネガティブなバニーズファンにしては珍しいね。


「いつもよりもバニーズ側の応援席が賑わってますね」

「▲▲さん、実はバニーズは2012年シーズンから去年までで開幕戦6連敗中なんですよ」

「へぇ、そうなんですか。そんな中でこのままヴァルチャーズ相手に敵地で勝てたりしたらファンも大喜びでしょうね」

「そういう期待も込みでしょうね」


「チッ……このまま勝てると思うなよ……!」


 と言っても、野球の試合というのは筋書きのないドラマ。ちゃんと伏線が回収されるような名作になったりもするし、思ったほど盛り上がらない駄作になったりもする。


「ストライクスリー!バッターアウト!!スリーアウトチェンジ!!!」


 真木(さなぎ)くんがピンチを切り抜けて流れを掴んで、先頭打者のヒットと睦門(むつかど)くんの内野安打でチャンスが作れても、最強打者の友枝(ともえだ)くんが案外簡単に打ち取られたりもする。


「アウト!!スリーアウトチェンジ!!!」


 そしてこっちも、そう簡単に押せ押せにはならない。グレッグが歩いただけで、他の打者は普通に打ち取られて、6回の表も動きなし。


三波(みなみ)、まだやれるかの?」

「大丈夫ですよ!何なら完投しちゃいますから♪」


 ……流石に厳しいだろうね。

 球数を抑えられてるのは確かだけど、現代プロ野球で完投が難しいとされてるのは、単に『今の投手が昔の投手と比べてひ弱』だとかじゃない。『球威が増して身体への負担が大きくなった』というのもあるけど、それよりもっと根本的な原因は『投手のレベル以上に打者のレベルが上がってる』ということ。


「ショート相沢……抜けた!レフト前ヒット!」


 先頭の成宮(なりみや)くんは打ち取れたけど、次のローウェンには第一打席のリベンジをされた形となったね。


 日本の野球というのは、当然プロ野球が最もレベルの高い環境ではあるけど、そのプロ野球というのは高校野球の延長になってるところがある。だから今でも野手よりも投手の方が特別視されやすく、その延長で先発完投主義を唱える人間も少なくない。にも関わらず、現代プロ野球では『先発は6回くらいで降りて残りのイニングを信頼できるリリーフに任せる』という、継投策を生かした内容のゲームが多くなってる。

 人間に限らず、ある程度賢い生き物には『慣れ』という機能が備わってる。過去の経験を活かして次に繋ぐというもの。その性質上、『投手と打者の勝負』というのは最初は投手の方が有利で、次第に打者の方が有利になっていくのが自然。つまり継投策というのは、投手が有利な状況を可能な限り維持するために、1人の好投手の力だけに頼らず、複数人の投手を投入しようというアプローチだね。


 でも、だからこそ、5回6回という先発が代わるか代わらないかのタイミングが一番怖い。打者は目に見えないところで慣れてきてるんだけど、今日のゲームみたいに、投手は投手で『この回までゲームを作ってきた』という目に見える実績を作ってることもある。

 監督としても頭を悩ませるところだよね。仮に好投してきた状態で代えた場合は『先発のプライドを傷つけた』という(そし)りを受けるかもしれないし、当然代えて打たれたら責任を問われかねない。だから、アメリカの野球ではスタンダードな『100球縛り』が日本でも見られるようになったのは、単に『先発投手への負担を減らす為』というだけではなく、『好投してきた投手を降ろせる大義名分になり得るから』というのもおそらくあるんだろうね。

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