第二十四話 刮目せよ(7/7)
2018ペナントレース バニーズ 3-1 ヴァルチャーズ
5回表 0アウト
二塁:伊達
○天王寺三条バニーズ
監督:柳道風
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5三 アレックス・グレッグ[右右]
6指 ロバート・イースター[右左]
7一 天野千尋[右右]
8捕 伊達郁雄[右右]
9二 徳田火織[右左]
投 三波水面[右右]
[控え]
冬島幸貴[右右]
リリィ・オクスプリング[右両]
有川理世[右左]
早乙女千代里[左左]
相模畔[右左]
・
・
・
●博多CODEヴァルチャーズ
監督:羽雁明朗
[先発]
1二 ■■■■[右左]
2遊 睦門爽也[右右]
3中 友枝弓弦[右左]
4一 成宮知久[右右]
5指 フィアマル・ローウェン[右右]
6左 田所瑠璃子[左左]
7三 穂村小町[右右]
8右 ■■■■[右左]
9捕 久保正典[右右]
投 真木菊千代[右左]
「ドンマイドンマイお菊!球は走ってるよ!その調子で熱く燃え上がれ!」
「あ、ありがとうございます……」
サードでベテランの穂村さん、熱い人だから『頑張れ』ってニュアンスで言ってるんだろうけど、投手に『燃え上がれ』はちょっと縁起でもないねぇ〜……
「それで、具体的にどうするんだ?ノーアウト二塁だし、1点覚悟でアウトを優先したいというのならそれでも構わん。その分は打線の責任としてちゃんと取り返してやる」
やっぱり頼もしいねぇ〜、成宮さん。一番弱かった球団から来て、元々強かったヴァルチャーズを一番強くした人が言うと頼りになる。
けど……
「いえ〜。野手の皆さんを信頼してないわけじゃないですけど〜、とりあえず徳田さんからは三振を奪りにいこうと思いま〜す。二塁の伊達さんはもうそんなに頑張って走れないと思いますけど〜、ノーアウト二塁とワンナウト二塁じゃ失点の確率はだいぶ違いますからね〜」
「それはまぁそうだが……だがあの徳田という奴はフォークPに強いみたいだぞ?どうやるつもりだ?」
「そうですね〜、だからそれを逆に利用したいと思ってま〜す」
「もしかして、『アレ』を使うつもりか?一軍初試合の相手に……」
さすがマサ。察してくれたみたいだね。
「おやおや〜?マサ、選手の格の上下でものを言うなんて、知らない間に随分偉くなったねぇ〜」
「……!」
「それを言うなら、向こうは"本指名様"、ウチらは"育成指名風情"。初心忘れるべからず、だよ〜」
「……そうだったな、すまん」
「というわけで、少々無茶をするかもですけど、この回はどうにかしてこれ以上失点することなく切り抜けてみせま〜す」
ごめんね、マサ。ウチだけじゃなく、マサの立場まで利用することになっちゃって。
確かに、徳田さんに加えて同点打を仕掛けた赤猫さんと相沢さん相手に、この状況を切り向けるのは難しいってわかってる。でも、だからこそ、切り抜けられれば流れを取り戻せるはず。
……ってのが本来の目的ではあるんだけど、建前でもある。
(お菊さん達、何するつもりだ……?何か大層な隠し球さあるみてぇだげど、徳田みてぇなのにやるほどか?)
「プレイ!」
「さぁ来い、フォークのお化け!」
この子には、徳田さんには、どうしても負けっぱなしじゃいられない。こんなウチだからここまで来れたんだってことで、今回は勘弁してね〜。
「ボール!」
「初球は高め145km/h速球!」
(んー、そろそろバテてきたかな?)
初球はそう思わせるために、敢えて捨てる。その代わり2球目は……
「……!?」
「ファール!」
(速い……!)
「おおっと!ここで今日最速の156km/hです!!」
「ほぼ最速ですねぇ……これはかなり気合い入れてアウト取りにいく気みたいですね」
想定通り、空振りもしくは振り遅れ。
そしていくらフォークへの対応が良いと言っても、フォークPの攻略の基本は追い込まれる前に叩くこと。速いストレートに振り遅れた直後で、カウント的に追い込まれてなかったら、次の1球は『空振っても構わない』『打ち損じるよりはマシ』『最悪でも右方向』『追い込まれても対応できる』と考えて、スイングの始動を早めるのが自然。
「ストライーク!」
「空振り!これでツーストライク!!」
ゆえに、ここのフォークは失投せずにボールゾーンに落とせば確実に通る。
「ボール!」
(チッチッチッ……アタシに高め真っ直ぐ振らせるなんて簡単にできると思わないでね?確かに良い真っ直ぐだけど、あの妃房蜜溜ほど浮き上がる感じはないしね)
ここで決められれば良かったんだけど、さすがの選球眼だね〜。だけど、低めに落ちるフォークか高め真っ直ぐで決めたいという意志が伝わればそれで十分。
「さぁこれでツーツー!ヴァルチャーズバッテリーは次に何を選ぶのか!?」
あとはウチの技量次第。とっておきではあるけど、リスクも大きい。だけど、こういう時に決められなきゃ、ウチはもっと高みを目指せない……!
(このスピード感はフォーク……いや、これは高すぎる!)
高めまっすぐ直後だからこそ、同じピッチトンネルを通るフォークは見切りやすい。早々に見切って、スイングの気配は全くない。
勝ったね……!
「……え?」
「ストライク!バッターアウト!!」
「見逃し三振!徳田、バットが出ませんでした!!」
「おぃィ!?何でそんなど真ん中見逃すんや!!?」
「打てたやろ今のー!」
(何で……!?あっくんのスプリットだったら、あの高さだと絶対にこんな落ちてこないのに……!)
普通のフォーク系なら、あの高さだと絶対にストライクゾーンまでは落ちないだろうね〜。今の変化球は変化量よりもスピードやキレを求めるのがトレンドだしねぇ〜。
だけど、ウチのフォークの落差を甘く見ちゃダメだよ〜……!
(とは言え、今のはかなり博打に近い勝負だった。お菊は元々細かい制球はできないタイプ。同じ球種を様々なコースに投げ分けてフレキシブルに対応するよりも、コースに偏りがあったとしても確実に仕留められる球威でゴリ押す方が適してる。あのフォークもまた、『ストライクからボールに落とすことで空振りを取る』ことに特化したからこそあれだけの落差を生み出せてるところがある。ボールからストライクに落とすのは本来なら想定外の運用法。だからこそのとっておきなんだよな……)
(次は絶対に打ってやる……!)
悔しがる徳田さんを見て、思わずニヤけてしまう。これだからピッチャーはやめられないんだよね〜。高校まで野手メインで控え投手程度だったウチだけど、諦めなくて本当に良かったよ。




