第二十四話 刮目せよ(6/7)
2018ペナントレース バニーズ 1-1 ヴァルチャーズ
4回表 0アウト
二塁:相沢
○天王寺三条バニーズ
監督:柳道風
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5三 アレックス・グレッグ[右右]
6指 ロバート・イースター[右左]
7一 天野千尋[右右]
8捕 伊達郁雄[右右]
9二 徳田火織[右左]
投 三波水面[右右]
[控え]
冬島幸貴[右右]
リリィ・オクスプリング[右両]
有川理世[右左]
早乙女千代里[左左]
相模畔[右左]
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●博多CODEヴァルチャーズ
監督:羽雁明朗
[先発]
1二 ■■■■[右左]
2遊 睦門爽也[右右]
3中 友枝弓弦[右左]
4一 成宮知久[右右]
5指 フィアマル・ローウェン[右右]
6左 田所瑠璃子[左左]
7三 穂村小町[右右]
8右 ■■■■[右左]
9捕 久保正典[右右]
投 真木菊千代[右左]
「さぁ同点に追いついたバニーズ!なおもノーアウト二塁でクリーンナップという絶好のチャンスです!」
「3番ライト、森本。背番号24」
(赤猫さんと相沢さんがあれだけできて貧打って言われるんだから、クリーンナップは不甲斐ねぇって思われてんだろうな。俺も3割打てたのは去年が初めて。こういうとこで決めてレギュラーの座を磐石にしてやるぜ……)
「……ッ!!?」
「ストライーク!」
「うげっ!?速ぇ!」
(これ以上はやらせないよ〜……!)
今日最速の154km/hアウトハイ速球。元々157まで出せるリリーフ投手だっただけに、ペース配分を度外視すればまだまだ球威は捻り出せるっちゅーことか……!
「アウト!スリーアウトチェンジ!」
結局あの後、クリーンナップ3人を切られて攻撃終了。追いつけはしたけど、やっぱ一筋縄じゃいかんわな。
「ストライクスリー!バッターアウト!スリーアウトチェンジ!」
三波さんもランナー2人出してちょっと危うかったけど、それでも無失点。
しかし、中盤で同点のままやと不味いな。ウチも勝ちパターンは決して悪くはないけど、それでもリリーフは質量共に向こうの方が圧倒的に上。特に最終回はそのまま流れるようなもんやと割り切った方がええ。三波さんと真木さん、球数は向こうの方が放っとるけど、逆に言えば早い段階で慣れてない投手が途中で出てくるのが考えられるっちゅーわけや。
「5回の表、バニーズの攻撃。6番DH、イースター。背番号42」
「頼んだで新外国人!」
「相性良さそうやし、遠慮なくぶちかましたれ!」
打順的には何ともやけど、この回か、せめて次の回には勝ち越したいところやな。
******視点:真木菊千代******
「ボール!フォアボール!」
ありゃりゃ〜……ちょ〜っと警戒し過ぎちゃったかなぁ〜?
(さっきの回にギアを上げた影響で、元のギアの投球感覚が鈍ったのかもな……)
「7番ファースト、天野。背番号32」
「ノーアウト一塁、ここで打席を迎えるのは天野!バニーズにトレードされて以来、初の開幕スタメンです!」
「よーし!今日も一発撃つよー!」
「ホームランホームランチッヒ!」
「さっきの打席の打ち直しやー!」
次は天野さんかぁ〜……また一発あるなぁ〜。
(何にしてもノーアウトのランナーを出した以上、警戒は必要だな。お菊、悪いがまた飛ばせるか?)
よゆ〜よゆ〜。なんせまだ春先だし。それに、ウチとしてもあんまりイニングを稼げないのを理由にエ〜スになるのをケチつけられたくないからね〜。せっかくの開幕戦なんだから、こういう時に『その気になれば最後まで投げ切れる』ってアピ〜ルしなきゃね〜。
(とは言え、馬鹿正直に勝負する必要はない。天野はフリースインガーの傾向が強い。さっきの打席と同じで外スラ中心で振らせていくぞ)
(とは言え、スライダーがまた来たら嫌だなぁ……カットボールみたいにスピード重視であんまり曲がらない球だったら多少外されても力押しでいけるんだけどなぁ)
オープン戦でも当たってた天野さん、クリーンナップと同じくらいの警戒度で絶対に打ち取るよ〜。
「……あ!」
しまった……リリースが甘い……!
「いったああああああああああ!!!!!」
抜けたスライダーを捉えられて、強烈な打球がレフト方向へ飛んでいく。振り返ると、もうテラス席さえ超えてレフトスタンドへ。
「天野!勝ち越し!!今季第一号は、値千金の勝ち越しツーラン!!!」
「ナイスバッティング!」
「天野さんさすがっす!!」
「どやヴァルチャーズ!?」
「今年のバニーズはちゃうんやぞ!」
「あ……アホォ!あんなんただのマグレ当たりたい!!」
「中盤の2点リードくらいでイキっとるんちゃうぞ!」
バニーズのメンバーがベンチから身を乗り出して拳を掲げてる。ウチの監督はいつも通りの愛嬌のある表情だけど、それでも遠くからでもどこか強張りを感じる。
……過程はどうあれ、勝ち越されたという事実に変わりはない。参ったなぁ〜、エースとかそんなことで浮かれてる場合じゃないよねぇ〜……
「8番キャッチャー、伊達。背番号10」
(……ランナーが消えただけ御の字と考えるしかない、か)
(このイケイケの状況で、実績だけはある僕が相手だから……)
「ボール!」
念の為フォークから……いつものマサと違ってちょっと慎重だね〜。でも見送り方を見るに、読まれてたかもね〜……
(やはりフォークで冷やかしてきたか。だけどコントロールがアバウト気味の真木くんにボール球ばかり投げさせる余裕はないだろう。向こうからすれば幸いなことに、相手は怪我明けの年寄り)
30後半でも実績のある相手。どうせ読まれてるかもなら、罷り通せる全力ストレ〜ト……!
(やはりそうきたね)
「打ったぁ!ライト線……」
「フェア!」
やば……!
「打った伊達は一塁蹴って二塁へ!ツーベース!伊達、久々の公式戦で結果を出しました!」
(慎重が過ぎて臆病になってしまったな……結果論になるが、最初からストレートで力押しして主導権を握るべきだったか……)
「タイム!」
マサがタイムをかけると、マサだけじゃなく内野陣も集まる。当然だね。なんせ次は……
「9番セカンド、徳田。背番号36」
「さぁ5回の表、1-3、バニーズが勝ち越してなおもノーアウト二塁の大チャンス!ここでバッターボックスに向かうのは徳田!」
「おっしゃあ!かおりんに回ったで!」
「このまま押せ押せやー!」
間違いなく今日一番ウチの球と合ってる、あの徳田さんって子。




