第二十四話 刮目せよ(4/7)
2018ペナントレース バニーズ 0-1 ヴァルチャーズ
3回表 2アウト
一塁:徳田火織
○天王寺三条バニーズ
監督:柳道風
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5三 アレックス・グレッグ[右右]
6指 ロバート・イースター[右左]
7一 天野千尋[右右]
8捕 伊達郁雄[右右]
9二 徳田火織[右左]
投 三波水面[右右]
[控え]
冬島幸貴[右右]
リリィ・オクスプリング[右両]
有川理世[右左]
早乙女千代里[左左]
相模畔[右左]
・
・
・
●博多CODEヴァルチャーズ
監督:羽雁明朗
[先発]
1二 ■■■■[右左]
2遊 睦門爽也[右右]
3中 友枝弓弦[右左]
4一 成宮知久[右右]
5指 フィアマル・ローウェン[右右]
6左 田所瑠璃子[左左]
7三 穂村小町[右右]
8右 ■■■■[右左]
9捕 久保正典[右右]
投 真木菊千代[右左]
******視点:リリィ・オクスプリング******
「フォッフォッフォッフォッ……やりおるのう」
(あのフォーク対応……おそらく氷室と共に研鑽を重ねた賜物じゃな)
調子がええままやな、火織。実力自体もウチより上なんは承知の上やけど。
「1番センター、赤猫。背番号5」
さて……赤猫さんは前の紅白戦ではホームラン打ってたけど、そもそも赤猫さんはそういうバッターやないし、ドームやさかい風に乗るみたいなことはありえへん。テラス考えると狭いっちゃ狭いけど、前の地方球場の方が狭いはず。
柳監督も火織に向かってサインを送っとる。二盗指示、やっぱりそうするわな。
(ンッフッフッフ……ツーアウトだからって割り切ってるのかもしれないけど、アタシの出塁は安くつかないよ?)
ただ問題なんは、火織の脚があの人に通用するかやな。
「おっと。一塁ランナー徳田、少しリードを大きく取ってるようですが……」
「この状況なら走ってもおかしくないですね」
「セーフ!」
「ここで一塁牽制!」
(オープン戦の頭でいきなりやらかしちゃったからね。今度はあんなポカしないよ?)
(……こりゃダメね)
赤猫さんが溜息をついたように見えたけど……とりあえず牽制死の心配はなさそうやな。リード幅は変わっとらんし。
「ボール!」
「ストライーク!」
高めストレートと、次は多分内へのカットか……真木さんは元々緩い球はほとんど投げんピッチャーやけど、どこで走るか……
「セーフ!」
「もう1球牽制!」
「第3球……一塁ランナースタート!」
「ストライーク!」
外低めボール気味の速球を、赤猫さんは空振りで援護。せやけど……
(……甘い!)
「げっ!?」
「アウトォォォ!!!」
「盗塁失敗!"クボキャノン"炸裂!!」
「調子乗るなや小娘!」
「ウチの正捕手から盗めるわけないじゃろが!」
さすが、去年盗塁阻止率12球団No.1の久保さん。簡単には盗めんか……
「スリーアウトチェンジ!」
「やっぱ肩強いなぁ……」
「でゅふっ……確かに肩もありますけど、久保さんの場合はモーションが素晴らしいですね。通常の捕手は捕球だけでも神経を尖らせるものですが、久保さんは『捕球による反動』すらもスローイングモーションの一部にできるんですよねぇ……」
「こう……捕る時にピタッと止めるんやなく、あえてミットを流す感じっすか?」
「そういうことですねぇ。投球の勢いを殺さず、むしろ利用してミットを懐に入れる動作を省略してる、そんなイメージですねぇ。ワタクシメもアレの練習を結構やってるんですけど、なかなかものにできないんですよねぇ……」
「それに加えて、再現性の高さだね。久保くんはポップタイムの最速も優れてるけど、その最速に近いタイムを毎回安定して出せるくらい、自分のモーションを身体に覚え込ませられてる。率の高さがそれを証明してるね」
参考のため、幸貴と伊達さん、有川さんの捕手談義に耳を傾けてみる。
ウチはおそらく代打か代走、それか怪我人の代わりのスタメン辺りがしばらく主な役割になるやろうし、正直守備固めは全くできる気がせぇへんから、レギュラー取るためにもできれば走る方で結果を出したい。せやけどあの火織でも刺されてまうとなると……どうしたもんか……
「す、すみません閑さん……空振りの援護もしてもらったのに……」
「遠いわよ、へたっぴ」
「……!」
辛辣やな、赤猫さん……火織も反論こそせんけど、頬を膨らませとる。
しかし、『遠い』とは一体……?
「アウト!スリーアウトチェンジ!」
三波さんの制球が不安定やったのは初回だけで、2回以降はしっかり修正して、3回裏も3凡。向こうは強力打線ながら割と早打ちのバッターが多いからか、点が動かない回は淡白なもんやな。




