第二十四話 刮目せよ(2/7)
2018ペナントレース バニーズ 0-1 ヴァルチャーズ
3回表 2アウトランナーなし
○天王寺三条バニーズ
監督:柳道風
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5三 アレックス・グレッグ[右右]
6指 ロバート・イースター[右左]
7一 天野千尋[右右]
8捕 伊達郁雄[右右]
9二 徳田火織[右左]
投 三波水面[右右]
[控え]
冬島幸貴[右右]
リリィ・オクスプリング[右両]
有川理世[右左]
早乙女千代里[左左]
相模畔[右左]
・
・
・
●博多CODEヴァルチャーズ
監督:羽雁明朗
[先発]
1二 ■■■■[右左]
2遊 睦門爽也[右右]
3中 友枝弓弦[右左]
4一 成宮知久[右右]
5指 フィアマル・ローウェン[右右]
6左 田所瑠璃子[左左]
7三 穂村小町[右右]
8右 ■■■■[右左]
9捕 久保正典[右右]
投 真木菊千代[右左]
「ボール!」
「ボール!」
……釣られてくれないか。
(外まっすぐはともかく、追い込まれてるのにバックドアのスライダーも簡単に見送っちゃったか〜。どうも反応できなかったって感じでもないし……)
「ファール!」
アウトロー、やや浮いてはいたが151に合わせてきたか……だが、今のスイングは明らかにカット狙い。外低めに目付けはさせられたはず。
(なら〜、ここは高めまっすぐ……!)
「ファール!」
「「!!?」」
今日最速の153……これも合わせるのか……!?
(ま、マジかよ……?)
「良いぞー徳田ー!」
「プロ初打席やぞ!かましたれー!!」
「気にすんなお菊ー!打たせてけ打たせてけ!!」
「いやぁ▲▲さん、思いのほか良い勝負になってきましたねぇ……」
「バッテリーも色々工夫してますが、ことごとく凌いでますね……真木は完投能力がネックなのでおそらく球数を抑える方針でやってるんでしょうけど、それが裏目に出てるような感じですね」
アウトを取れるのがベストだが、ツーアウトランナーなしだから出塁はそこまで痛手ではない。ここで最悪なのは、向こうがカットを一貫してボール球すら許容してくれず球数を稼がれること。
……やむを得ないな。
(初志貫徹できない時点で戦略負けだけど、これはしょうがないよねぇ〜)
幸いまだツーツー。どうせボール球なら、カットすら許容させないこの球だ……!
(……よし!)
球界でもスプリット系で間違いなくトップクラスの、お菊のフォーク。途中までは速球と見紛う軌道と速度……奴のスイングが始動した!これなら……!
(……落ちる!)
!!?
「ファール!!!」
「うおおおおお!?マジかよ!!?」
「今のを当てやがった……!!?」
「な、何と徳田、真木の『お化けフォーク』を地面スレスレでカット!」
「器用なことしますねぇ……」
瞬間的にヘッドが届かないと判断して、トップハンドを離してボトムハンド1本でカット……左の巧打者がやるとこはたまに見かけるが、お菊のフォーク相手に初見でやってのけただと……!?
(いやぁ〜……この子すごいねぇ……!)
******視点:徳田火織******
爽也くんのあの驚いた顔……してやったりだね。さっき守備ではちょっと情けないとこ見せちゃったけど、これでちょっと溜飲が下がったよ。
……本当はあっくんのためにもうちょっと貞淑でいたいんだけど、高校の頃から爽也くんにはずっと負けっぱなしだったからね。
『だから残念。もうちょっと早かったら格安で爽也くんに筆卸しさせてあげたんだけどね』
『そんなもん望んでねーべ!この破廉恥馬鹿野郎!』
『あ、吸ってる途中の禁煙パイポならあげるよ?』
『いらねーべや!』
あんな風に試合前にいじったりして、『アタシはこの人と対等なんだ』って自分に言い聞かせないと、どうも立ち向かえる自信が湧いてこないんだよね。相変わらずアタシって、根っこの部分は何も変わってないよね。
でも、そうまでするからには、アタシは尚更あっくんの為になりたい。
「ファール!」
「ああっ!惜しい……!」
「レフト線ギリギリ切れましたファール!」
「ストレートに少しずつアジャストしてきましたね。あのフォークのカット直後でもしっかりとした打球を飛ばせるのは大したものですよ」
(まずいな……単純な力押しが厳しいとなると……)
「粘ります、打席の徳田。真木、第10球……」
「ボール!」
(せめて振って欲しかったけどね〜……)
(見逃されてしまったが、懐をえぐる軌道のカットボール。これで多少なり外に手を出しづらくなったはずだ。最悪四球でもしょうがない。ボール球でも良いから外にまっすぐを……ん?)
アタシが見てきた限り、今日初めて向こうのピッチャーが首を振った。
(我儘でごめんね、マサ。でも、マサの判断を蔑ろにしたいわけじゃないよ?)
(……もしかして、これか?)
今度は首を縦に。
(落ちこぼれだったウチはフォークを手に入れて、ここまで上り詰められたんだよ。今までの苦労や悔しさは、全部フォークを手に入れるための犠牲だったとすら思ってる。なのにそのフォークの温存策を崩されて、その上カットまでされた。これ以上、ウチのフォークに恥をかかせられない。どうせ四球覚悟になるのなら、ウチは『負け逃げ』だけはしたくない……!)
(全く……だが、お前はそういう奴だからここにいるんだよな。これまで通り罷り通ってみせろ、お菊!)
この相手バッテリーを見ててもよくわかるけど、ピッチャーにとって一番支えになるのはやっぱりキャッチャー。セカンドとかショートのアタシにできることなんてのはたかが限られてる。
そんなアタシでもできること。まずはどこのポジションであろうと当たり前だけど、『ちゃんと守ること』。
そして……
「ボール!フォアボール!」
(……あっちゃあ〜)
(やられたな……)
「よっしゃー!とりあえずパーフェクト回避や!!」
「ようやったかおりん!レギュラー入り期待しとるで!!」
「選びましたフォアボール!徳田、11球目で出塁!!プロ初打席でいきなり結果を出しました!!!」
「たまたまのヒットやホームランよりも、価値のある四球だと思いますよ。最後のもストレートとフォーク両方を想定に入れた上でスイングを止めた感じでしたからね。良い感じに実力をアピールできたんじゃないでしょうか?」
『あっくんと同じ右のフォーク系ピッチャーには負けないこと』。そういう役回りがたまたま一軍の初めての打席で回ってきたのは逆に都合が良いね。前に妃房蜜溜を打った逢ちゃんみたいにできたらもっとよかったんだけど、まぁ十分だよね?
見せつけるかのようにバットをゆっくり置いて、肘当てを外しながら一塁へ向かう。一番強い球団相手で、今までずっと勝てなくて悔しかった奴もいるからこそ、この開幕カードで謳ってやりたい。『バニーズの未来のスーパースター、天才・徳田火織を刮目せよ』ってね。




