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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
148/1130

第二十四話 刮目せよ(1/7)

2018ペナントレース バニーズ 0-1 ヴァルチャーズ

1回裏 攻撃終了


○天王寺三条バニーズ

監督:柳道風(やなぎみちかぜ)


[先発]

1中 赤猫閑(あかねこしずか)[右左]

2遊 相沢涼(あいざわりょう)[右右]

3右 森本勝治(もりもとかつじ)[右左]

4左 金剛丁一(こんごうていいち)[左左]

5三 アレックス・グレッグ[右右]

6指 ロバート・イースター[右左]

7一 天野千尋(あまのちひろ)[右右]

8捕 伊達郁雄(だていくお)[右右]

9二 徳田火織(とくだかおり)[右左]


投 三波水面(みなみみなも)[右右]


[控え]

冬島幸貴(ふゆしまこうき)[右右]

リリィ・オクスプリング[右両]

有川理世(ありかわりせ)[右左]

早乙女千代里(さおとめちより)[左左]

相模畔(さがみくろ)[右左]



●博多CODEヴァルチャーズ

監督:羽雁明朗(はがりあきたか)


[先発]

1二 ■■■■[右左]

2遊 睦門爽也(むつかどそうや)[右右]

3中 友枝弓弦(ともえだゆづる)[右左]

4一 成宮知久(なりみやともひさ)[右右]

5指 フィアマル・ローウェン[右右]

6左 田所瑠璃子(たどころるりこ)[左左]

7三 穂村小町(ほむらこまち)[右右]

8右 ■■■■[右左]

9捕 久保正典(くぼまさのり)[右右]


投 真木菊千代(さなぎきくちよ)[右左]

******視点:秋崎佳子(あきざきよしこ)******


「すごいな……あの状況で抑えるなんて……」

「ね?伊達(だて)さんなら抑えられるんだよ」


 寮のテレビで開幕戦の観戦。去年までは迷わずシャークス戦を観てたけど、後で配信サイトでチェックすれば良いよね。他のお仕事だとこの時間でも観戦なんてできないなんて珍しくないみたいだし、試合観戦が仕事の一環になるだけ恵まれてるよね。

 それにしても、山口(やまぐち)さん機嫌が良いなぁ。いつもは(あい)ちゃんよりも澄まし顔であんまり笑わない人だけど、珍しく椅子を揺らしながらニコニコしてる。こういうとこは見た目相応って感じなんだね。うーん、あざとい。


松村(まつむら)さん松村(まつむら)さん」

「……どうしました?」

「チーム最年少のクールな美少年と最年長の温和なベテラン……アリですね」

「!……気づきましたか、秋崎(あきざき)さん」

(な……何ニヤニヤしてるんだろ、あの2人……)


 わたし自身はどちらかと言うと年上派だけど、やっぱりこういう妄想は美少年が絡むと美味しいよね。御厨(みくり)きゅんみたいに年上で見た目美少年とかなら尚良し。御厨きゅん、今年も開幕スタメンだけど今頃活躍してるかな?


(……松村さんとは同期だけど、秋崎さんの方が早く仲良くなっちゃったみたいだね。何か悔しいというか……)


 松村さんも、これでちょっと元気出たかな?いつも外野の守備とかバッティングでも色々教えて貰ってるから、もっと力になりたいんだけどね。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


******視点:久保正典(くぼまさのり)******


 初回の1得点以来、スコアの変動はなしのまま3回の表。

 と言っても、あの1点は紙一重だったからな。無得点でもおかしくない場面だった。それに、逆に危うい場面もいくつかあった。

 ウチのホーム球場、博多ヨグバゲドームは球場自体はかなり広いが、テラス席をグラウンド内に設置してる関係で比較的本塁打が出やすい。そして今年から芝生を変えて、以前よりもゴロが死にやすくなってる。結果的に打ち取れはしたが、新外国人のイースターと天野(あまの)からはデカい当たりを喰らった。

 元投手の羽雁(はがり)監督としては、やはりウチの投手力を信じてロースコアを制する方針でいきたいみたいだが……まぁ少なくとも今日に関しては問題はなかろう。


「ストライク!バッターアウト!」

「空振り三振!伊達、復帰第一打席では結果を出せず!」

(流石に一線級の投手相手だとまだまだ身体がついていかないなぁ……)


 何せ今日の先発を任されたのは、お(きく)なんだからな。


「これでツーアウト!ヴァルチャーズ先発の真木菊千代(さなぎきくちよ)、史上初の"育成出身の開幕投手"という大一番ですが、今日も『お化けフォーク』が冴え渡ります!」

「4ま〜い♪」

「お菊ー!」

「良いぞー真木(さなぎ)ー!」

「ここまでランナー出してませんからね。しかも打者8人中三振がこれで4つ。緊張してる様子もなくピッチングに集中できてますね。同期で同じ育成の久保(くぼ)が受けてるのも大きいかもしれませんね」

(うーん、やっぱ良いピッチャーだなぁお菊さん。おらドラ1だけど、お菊さんや久保さんみてぇな人がいる以上、まだまだ安泰じゃねぇよなぁ)


 最速157km/hのまっすぐと非常に大きい落差のフォークを中心として、まるで皿を数えるかのようにサクサクと三振を稼げる右のパワーピッチャー。今のところ2年連続で2桁勝利と防御率2点台。

 入団したての頃なんか上背だけで、球速は野手の友枝(ともえだ)さんに負けて、練習にもまともについていけないくらいひ弱だったのに、逞しくなったものだ。お菊自身も先発に転向してまだ数年程度で他にも好投手が揃ってるからウチは現状まだ明確なエースが定まってない状態ではあるが、去年の帝国シリーズの開幕投手に続いて今年のシーズン開幕投手を務める以上、ほぼ当確の段階に来てると見て良いだろう。

 そして、今日の相手はバニーズ。侮るわけではないが、相対的に打力に優れていないのも事実。共にまだまだ駆け上がるぞ、お菊……!


「9番セカンド、徳田(とくだ)。背番号36」

「さぁ3回の表、もうツーアウトでランナーなし。ここで打席に向かうのは、オープン戦首位打者の徳田!昨年まで一軍昇格すら一度も経験せず、高卒4年目の今年、開幕スタメンに抜擢されました!」

「かなり珍しいケースですね。結果を出したとは言え……ですがバニーズは二遊間の枚数こそ豊富ですが、レギュラークラスと言えるのは相沢(あいざわ)くらいですからね。オープン戦の勢いをキープして、本番でもアピールしていってほしいですね」

「かおりーん!"顔だけ枠"脱却せぇやー!」

「そろそろ生え抜きの若手でポジらせてくれー!」

(あ、そういや次徳田か。まぁお菊さんだったら心配ねぇべな)


 軽く話題になってたバニーズのプロスペクトか。オープン戦に関しては一通りチェックしたが、コイツは首位打者ではあるもののヒットの内訳は全てシングル。続く打者の赤猫(あかねこ)さんも短距離打者の典型。ツーアウトではさほど脅威にはならん。

 というわけで、お菊。余計な経験を積ませたり無駄に球数を嵩ませないよう、積極的にカウントを取っていくぞ。握力を消耗するフォークも極力温存する方向でな。


(は〜い)


「ストライーク!」

「初球は146km/h速球見逃してストライク!」

「ファール!」


 初球を悠々と見送ったから多少不安がよぎったが、2球目の速球には差し込まれてたな。お菊はストライクが全く取れないほどではないが、それでも球威の分、細かい制球は得意ではない。甘い速球2つで簡単に追い込めたのなら僥倖だ。


(次はどうする〜、マサ?)


 オープン戦のデータを見る限り、どうも選球眼は悪くない打者のようだ。何だかんだで当てられてはいるからゾーン内にまっすぐ3つは少しリスキーだし、かと言って簡単に外すのも勿体無い。とりあえず右投げ左打ちの泣きどころ、膝下にスライダーいっておくか。外しても構わん、甘いのだけはNGな。


(おっけ〜)


 素直に首を縦に振ったお菊は、これまた普段あまり投げられないナイスなコースの膝下スライダー。見逃せば三振、手を出すのも困難……!


(これで5ま〜……)

「い!!?」

「打ったァ!!!」


 何……!?


「ファール!」

「ああっ、惜しい……!」

「いや、でもすげぇ当たりだったな……」


 膝下いっぱい、完璧なコースのスライダー……あれを簡単に引っ張り返してフェン直だと……!?


「▲▲さん、意外と徳田、パンチ力ありますねぇ……」

「徳田は二軍でもホームランは殆どないんですが、スイングが速いからか打球自体はかなり鋭いのが多いんですよ。特に引っ張った時はあんな感じでスラッガー顔負けですよ」

(……ふぅ〜ん)


 お菊、笑ってる場合じゃないぞ。まぁ頼もしいことだがな……

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