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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
144/1129

第二十三話 過渡期(3/6)

2018ペナントレース バニーズ 0-1 ヴァルチャーズ

1回裏 1アウト一二塁


○天王寺三条バニーズ

監督:柳道風(やなぎみちかぜ)


[先発]

1中 赤猫閑(あかねこしずか)[右左]

2遊 相沢涼(あいざわりょう)[右右]

3右 森本勝治(もりもとかつじ)[右左]

4左 金剛丁一(こんごうていいち)[左左]

5三 アレックス・グレッグ[右右]

6指 ロバート・イースター[右左]

7一 天野千尋(あまのちひろ)[右右]

8捕 伊達郁雄(だていくお)[右右]

9二 徳田火織(とくだかおり)[右左]


投 三波水面(みなみみなも)[右右]


[控え]

冬島幸貴(ふゆしまこうき)[右右]

リリィ・オクスプリング[右両]

有川理世(ありかわりせ)[右左]

早乙女千代里(さおとめちより)[左左]

相模畔(さがみくろ)[右左]



●博多CODEヴァルチャーズ

監督:羽雁明朗(はがりあきたか)


[先発]

1二 ■■■■[右左]

2遊 睦門爽也(むつかどそうや)[右右]

3中 友枝弓弦(ともえだゆづる)[右左]

4一 成宮知久(なりみやともひさ)[右右]

5指 フィアマル・ローウェン[右右]

6左 田所瑠璃子(たどころるりこ)[左左]

7三 穂村小町(ほむらこまち)[右右]

8右 ■■■■[右左]

9捕 久保正典(くぼまさのり)[右右]


投 真木菊千代(さなぎきくちよ)[右左]

「ボール!」


 2球目はさっきのより明らかに外れた外スラ。これは流石に手を出さへんけど……


「ファール!」


 内のツーシームを上手いこと打たせるための伏線にはなったな。


「ここへ一旦二塁送球!」

「セーフ!」

「もう1球牽制!」

「セーフ!」

「と、ここですかさず第4球……」

「ボール!」


 テンポの良い投球で追い込んだ後に、牽制2つ挟んで外スラ釣り。おもろい攻め方やけど、変化球に強い打者がそう簡単に手を出さんか……


(……三波(みなみ)くん、次が勝負どころだよ)

(はい!)


 次の投球になかなか入らず……


「タイム!」


 バッターがいったん打席を外し、


「セーフ!」


 また二塁への牽制。ひたすら間を作る。


「おいおい早く投げろよー!」

「どーせ打たれんだからよー!」

「プレイ!」


 次の1球、おそらくここまで取っておいたまっすぐのはず……


「!!ああっと!」

「ボール!」

「あっちゃあ……」

「せっかく隠しといたストレートだったのに……」


 温存してたまっすぐが、アウトハイへの完全なボール球。言うまでもなくローウェンは手ぇ出さへんし、むしろパスボールでランナーが進まんかっただけマシやったくらいや。


「おいおいおいおい、ヤバイやろこれ……」


「ファーwwwwwあんだけ焦らしといて大外れしてやんのーwwwww」

「どうせ負けるんじゃからさっさと投げんかい!」


 今のまっすぐは多少甘くても入れたかった。


(今ノふぉーしーむハ読メテタガ、意識シスギタアマリノみすしょっとハ十分アリエタナ。コレデ残ル手ハ1ツ……)


 今日まだ投げてない、三波さんのウイニングショットのスクリュー。せやけど、今日の三波さんは前にオレらに投げた時と比べて、変化球の細かい制球が怪しい。歩かせても次の田所瑠璃子(たどころるりこ)も高出塁率のアベレージヒッター。上手いこと決められるんか……?


「さぁこれでフルカウント!バニーズバッテリー、このいきなりの窮地で何を選択するのか!?」

(コノ絶好ノ稼ギ時、ふぉあぼーるジャモッタイネェ。絶対ニ打ッテ仕留メテヤルゼ……!)

(……三波くん)

(はい……)


 沈痛な面持ちで、伊達さんのサインに首を縦に振る三波さん。そんな中で投じられた1球は……


(良いストレートだったよ……!)

「ナ……!?」


 投じられたスクリューは前の登板の時と同じ……いや、それをも上回ってそうなキレ。膝下のゾーンを掠め取らんとする軌道に対して、ローウェンですら当てるのが精一杯。


「打ったぁ!しかしピッチャー正面!!1……」


 さっきまでの重い表情から一点、してやったりと言わんばかりの顔で、三波さんは向かってくるゴロを軽く捕球。


「セカンド!」

「アウト!」

「6……」

「ファースト!」

「アウト!!」

「3!ダブルプレー成立ッッッ!!」

「スリーアウトチェンジ!!!」

「よっしゃあああああ!何とか凌いだで!!」

「せ、先制点は取れたから……(震え声)」


 いきなり沈んでたバニーズ側観客席が一転して沸き上がる。


「三波くん、苦しい状況をよく投げ抜いてくれたね!」

「ふふっ……伊達さん、どっちの決め球も良い制球してましたよね?」


 意気揚々とベンチに戻ってきたバッテリー。思わず声をかける。


「あの、伊達さん、三波さん。あのまっすぐって、もしかして……」

「ええ、そうよ。わざと外したのよ」

「あの状況、確かに打ち取れる確率も三振を取れる確率も一番高いのはまっすぐだったけど、1つアウトを取ったところで次の田所くんも巧打者だからね。あえて牽制を多く入れたり色々小細工して、まるでまっすぐが虎の子であるかように見せかけて、最後に併殺が取れる確率が高いスクリューを打たせるように誘導したんだよ。変化球打ちに長けたローウェンだからこそ、際どいとこでも自信を持って振ってくれると思ってたしね」


 ……オレはキャッチャーを本職にしとるし、プロからドラ2で選んでもらえた自分のキャッチャーとしての実力に自信を持っとるつもりやけど、別にキャッチャーってポジションに特別な愛着とかがあるわけやない。最初はガキん時にデブやからってやらされただけやし、今も続けてるのやって、脚遅くて肩は自信あるけどピッチャーとしては才能がなくてバッティングも凡才程度のオレがプロになるためにはこれしかないって思ったってだけや。"日本一のキャッチャー"を目指してるのやって、『キャッチャーの道を極めたい』とかそんな思いは全くあらへん。単に『自分に合った身を立てる方法』くらいにしか思ってへん。

 そんなオレやから、キャッチャーの力がそっくりそのままチームの力に直結するとは思ってへん。だから『バニーズが弱いのは伊達さんのせい』とか全く思ってへんし、むしろ『どんぐりの背比べみたいな選手層が伊達さんの足を引っ張っとる』くらいにすら思っとる。

 ただ、それでもオレは伊達さんのことを"打撃に優れたキャッチャー"として分析してた。実際、テレビでたまにバニーズ戦を観た時も、正直リードに疑問を持つことは少なからずあったしな。

 オレの見立てが甘かったのか、それとも伊達さんがオレの預かり知らぬところで実力をさらに伸ばしたのか、その辺はわからんけど……


「参考になったかい?」

「ええ、めっちゃ……」

「それなら良かった」


 やっぱオレはまだまだ、『怪我のおかげで出番を恵んでもらえる』程度の立場みたいやな。

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