第二十三話 過渡期(1/6)
******視点:伊達郁雄******
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2018ペナントレース バニーズvsヴァルチャーズ
○天王寺三条バニーズ
監督:柳道風
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[左左]
4左 金剛丁一[左左]
5三 アレックス・グレッグ[右右]
6指 ロバート・イースター[右左]
7一 天野千尋[右右]
8捕 伊達郁雄[右右]
9二 徳田火織[右左]
投 三波水面[右右]
●博多CODEヴァルチャーズ
監督:羽雁明朗
[先発]
1二 ■■■■[右左]
2遊 睦門爽也[右右]
3中 友枝弓弦[右左]
4一 成宮知久[右右]
5指 フィアマル・ローウェン[右右]
6左 田所瑠璃子[左左]
7三 穂村小町[右右]
8右 ■■■■[右左]
9捕 久保正典[右右]
投 真木菊千代[右左]
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「送りバント成功!睦門、1球でキッチリ決めてきました!」
「こういう攻撃が当たり前のように出来るところがヴァルチャーズの強さたる所以だと思いますね」
開幕戦、久しぶりの一軍の本番マスクなのに、いきなり重労働だねぇ……
1回の表のウチの攻撃は睦門くんの好守備もあって三者凡退。それに対して裏は1番が初球いきなりセンター前で、2番で送り。いきなりワンナウト二塁でこの次に来るのが……
「3番センターフィールダー、友枝。背番号9」
「おっしゃあああ!いきなりチャンスで友枝たい!!」
「チェストぶちかませー友枝ーッ!!!」
「あ、伊達さん。お久しぶりっす!」
「久しぶりだね」
"現役日本球界最強打者"友枝弓弦。右投げ左打ちで、今年30歳の外野手。天野くん並の大柄な体格から繰り出されるその打力は3年連続で出塁率・長打率リーグトップ、さらにトリプルスリーを達成したこともあるほどの俊足も兼ね備えてる。おまけにここ一番にも強いメンタルも持ち合わせてる……この打順なのが数少ない救いだね。
「友枝はオープン戦こそ不調でしたが、やはり今年も開幕3番センターを任されました!」
「何故かポップフライばかり打ってましたよね。しかしこの辺は実績によるベンチからの信頼の証ですね」
四球の数も3年連続でリーグトップだけど、実は初球のスイング率も非常に高い。というわけで三波くん、まずはこれで入ろう。
(……はい!)
初球は高めボールゾーンへのまっすぐ。想定通りスイングに入ってくれたけど……
「ファール!」
「ファールボールにご注意ください」
「いやぁ、えぐいっすわ……」
「相変わらずのバケモンぶりやな……」
バックネットをそのまま突き破りかねないような一打。どこの球場でもファールに関する注意喚起がされるから逆に気が緩んじゃうかもしれないけど、友枝くんの打球に関しては本当に気を付けた方が良い。
前脚の大きなストライドにより、右半身に弓の如く強い『割れ』を作り、利き手かつボトムハンドである右手を矢の如く放つことであっという間にトップスピードに入り、球界最高峰のスイングスピードを実現。さらに、インパクト後のスイングの勢いと右半身の重さをうまく逃すナチュラルな大きいフォロースルー。力任せの強引なスイングに見えるけど、実際は『右利きの左打者』のスラッガーとしての利点を最大限に活かした理詰めの打撃なんだよね。
(イメージ通りにファールを取れたのは良いんだけど、あんなスイングされると心臓に悪いわね……)
「ボール!」
「ボール!」
「ボール!」
「3ボール1ストライク!三波、ストライクが取れません!」
「流石に慎重な配球になりますよね……純粋なスピードで勝負するのが難しい三波には厳しい状況ですね……」
(……監督)
(しゃあないのう)
ベンチの方を向いて、サインを送る。
「ん?ここでバニーズベンチ、柳監督が出てきて……ああっと、申告敬遠!バニーズ、初回から新ルールを早速使ってきます!!」
「ファーwwwwwいきなりビビりすぎやろwwwww」
「おいヘタレウサギ!きっちり勝負せんかい!」
悪いけど、このカードの間に経験値を積ませたくないんでね。
(ヤベェ。多分オレの考えバレてるわ。伊達さんマジヤベェ)




