第二十話 世界の頂点に君臨しうる器(6/8)
オープン戦 バニーズ 0 - 0 シャークス
4回裏 1アウト 一三塁
○天王寺三条バニーズ
[先発]
1二 徳田火織[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 松村桐生[左左]
4左 金剛丁一[左左]
5一 天野千尋[右右]
6指 リリィ・オクスプリング[右両]
7捕 冬島幸貴[右右]
8中 相模畔[右左]
9三 ■■■■[右右]
投 百々百合花[右右]
[控え]
早乙女千代里[左左]
伊達郁雄[右右]
有川理世[右左]
夏樹神楽[左左]
秋崎佳子[右右]
月出里逢[右右]
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●横須賀EEGgシャークス
[先発]
1遊 数橋艶[右左]
2右 深海御厨[右左]
3一 ■■■■[右左]
4左 天竺甚兵衛[右左]
5三 小森大瀬[右右]
6捕 与儀円子[右左]
7指 頬紅観星[右右]
8二 ■■■■[右左]
9中 ■■■■[右右]
投 妃房蜜溜[左左]
[控え]
綾瀬小次郎[右右]
長尾七果[左左]
恵比寿唯一[右右]
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「プレイ!」
「ストライーク!」
「ボール!」
「ボール!」
「ファール!」
ここまで全て変化球。得意のカーブと、スライダー・シュートでの横の揺さぶり。となると決め球は……
(これで決め……ッ!)
「打ったァァァ!!!」
「ファール!」
「ああっ、惜しい……!」
「レフトポール側、切れましたファール!」
「そこまで甘くないまっすぐでしたが、巧く合わせましたねぇ」
天竺さんはいわゆる好球必打のタイプ。じっくり球を見極めて、甘く入った変化球を逃さず捉えるのを得意としている。そしてそういうスタイルのせいか、速球打ちはあまり得意じゃなかったはずだが……
(ただまっすぐ投げてりゃオレを抑えられるなんて思ってくれるなよ?)
「確かにジンベエはファストボールが苦手だが、あくまで苦手としてるのはフォーシームの性質的な部分じゃなく、単純な球速帯の部分DA。一般的に球種というのは『フォーシーム』と、フォーシーム以外の球種を全てひっくるめて『変化球』と定義して二分しがちだが、フォーシームもまた、人間がナチュラルに投げた球とは異なる軌道を描くという点で見れば立派な変化球DA。百々(どど)のファストボールはまさにフォーシームの変化球的な性質に特化したもの。球速自体は140前半……ジンベエの脅威になるものじゃないZE」
「そんな天竺相手に変化球のみで追い込める度胸と実際の制球力から言っても間違いなく良いピッチャーではあるが、それでも相性という点で天竺が優位、というわけですね」
今の当たりは偶然とは思えない。百々さんと冬島さんはこの状況をどう乗り切る……?
「百々さん、大丈夫かなぁ……?」
「お、佳子。シャークスの応援はもう良いのか?」
「もう、神楽ちゃん!さっき怒られたんだからもうしないよ!」
こういう時に違和感なく秋崎に絡めるとこ、正直言って羨ましいよ。
それにしても月出里、さっきから本当におとなしいな……いや、普段から口数はあまり多くないけど、さっきから妃房蜜溜のピッチングをひたすら凝視してるか、バットを握ってその手をじっと見つめてるだけだ。しかも妙な迫力があって話しかけづらい。
(今ので決められてたら良かったんだけど……そういうことなら仕方ないわね。幸貴くん)
(はい!)
(貴方の捕球に頼らせてもらうわよ……!)
(まっすぐ……!今度こそ捉えた!!)
ストレート、カーブ、チェンジアップ、シュート、スライダー。豊富な球種の中で、バッテリーが選択したのは、ストレートと思わしき球。
(何……ッ!!?)
だがそれはストレートにあらず。元々ある選択肢にはなかった球種。
「ストライク!バッターアウト!!」
「よっしゃあ!天竺抑えたで!」
「流石は百々や!ナイスエース!」
「三振!百々、この局面で天竺を三振に切って取りました!」
「今のはフォークですかね……?」
「映像を見てみましょう!」
「ああ、挟んでますね……」
フォークかスプリット……厳密にどちらかはわからないけど、何にしても百々さんが投げるのは初めて見た。流石に氷室さんのそれほどではないけど、あの浮き上がるまっすぐに落ちる球は相手打者からすれば厄介な組み合わせになるな。
「アウト!スリーアウトチェンジ!!」
後続もシャットアウトしてピンチを脱出……前回に続いて責任回を無失点。流石は百々さん、と言ったところか。
「お疲れ様っした、百々さん!」
「幸貴くんもありかとね。いきなりのスプリットもちゃんと捕ってくれて」
「あの、百々さん」
「ん?どうしたの司記くん?」
「そのスプリットってもしかして、天竺さんに最後に投げた……」
「ええ、そうよ。結構前からこっそり練習してて、もうちょっと温存しとくつもりだったんだけどね……去年の段階で今までの私の投球を対策してた球団もあったから、どのみち今シーズンのどこかで解禁してたと思うけど、テストするのに良い機会になったわ。あの子にも負けたくなったし」
「あの子?」
「投手の司記くんならわかるでしょ?」
そう言って、マウンドの方を見た。相変わらずウチの野手陣の動向ばかり目で追ってる妃房蜜溜の姿があった。
「……なるほど」
「でもちょっと悔しいわねぇ。こんなに頑張って投げたのに、私の方は全然見てくれない」
「そりゃそうですよ。妃房蜜溜は投げ合いなんかしません」
「え……?」
アイシングを始める百々さんをあまり邪魔してはいけないと思って、その辺りで席を外した。
「うーん、相変わらずだなぁ……」
「神楽ちゃん?」
「いや、妃房さんだよ。ほんと野手しか見ないんだよなぁ。同じピッチャーなんか眼中にないって感じで……」
「そういえば夏樹は中学の時に……」
「ああ、まぁな。投げ合ったこともあるし、世界の舞台でチームメイトになったこともある。あの人はあの頃から化け物だったよ」
「……知ってるさ。ボクも中学の時に一度だけ投げ合ったことがあるからね」
「え?そうなの?」
「ああ……」
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