第十九話 ビフォア・ザ・■ン■■■リ■■(9/9)
オープン戦 バニーズvsシャークス
1回裏 0アウト一塁
○天王寺三条バニーズ
[先発]
1二 徳田火織[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 松村桐生[左左]
4左 金剛丁一[左左]
5一 天野千尋[右右]
6指 リリィ・オクスプリング[右両]
7捕 冬島幸貴[右右]
8中 相模畔[右左]
9三 ■■■■[右右]
投 百々百合花[右右]
[控え]
早乙女千代里[左左]
伊達郁雄[右右]
有川理世[右左]
夏樹神楽[左左]
秋崎佳子[右右]
月出里逢[右右]
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●横須賀EEGgシャークス
[先発]
1遊 数橋艶[右左]
2右 深海御厨[右左]
3一 ■■■■[右左]
4左 天竺甚兵衛[右左]
5三 小森大瀬[右右]
6捕 与儀円子[右左]
7指 頬紅観星[右右]
8二 ■■■■[右左]
9中 ■■■■[右右]
投 妃房蜜溜[左左]
[控え]
綾瀬小次郎[右右]
長尾七果[左左]
恵比寿唯一[右右]
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******視点:与儀円子******
「このような打順を組めるのは、ミラー監督の外国人指導者としての視点があってこそでしょうね」
「HAHAHA!そんなに褒めるなYOマルコ!」
それにウチの経営元は今、良くも悪くも結果より集客に比重を置いてるところがある。他球団よりも早く『2番強打者』という新しいものを取り入れれば、うまくいこうがいくまいがメインのターゲット層である若者のウケを狙える。そういうのを快く思ってない技術屋達も、この点に関しては得点期待値を根拠に意見が一致してるしな。
だがそういうの抜きでも、妾も正捕手として、深海さんが最も2番に適してると考えてる。
「ストライーク!」
(……ッ!)
「セーフ!」
「一塁ランナー数橋、盗塁成功!」
「ふぅ……ちょっと危なかったなぁ」
「キャッチャーの冬島も良い肩してるんですけどねぇ。これは相手が上手かったと言うしかないですね」
2番打者は左右ジグザグの理念から右打者になるケースが少なくないが、キャッチャーとしては2番は左打者の方が困る。何せキャッチャーというのはほぼ全て右投げ。故に、二塁へのスローイングの際に左打席に打者がいると、送球軌道の確保のためにほんのワンテンポだが遅れが生じる。一瞬が勝敗を分つ盗塁においては、この点は決して小さくないファクターとなる。
「打ちました!一二塁間、セカンド追いつきました!」
(でも、この体勢じゃ……)
「火織!無理せんでええ!ファーストや!」
「アウト!」
「ふぅ……これで良いんでしょ?」
「上出来DAZE、ミクリ」
深海さんは生粋のプルヒッター。さらに左打者であるから、必然的に打球が右方向に偏る。特に意識しなくても右打ちは可能というわけだ。
それに、左のプルヒッターは打った後にナチュラルに一塁方向へ身体が向くから走り出しも早い。『後ろにクリーンナップが控えてる』という理由で最も併殺打が許されない2番打者にとっては、この点も大きなアドバンテージと言える。
加えて、深海さんは長打を打つために厳しい球を捨てられる度胸を持ってる。それ故に打率があまり高くなく三振も多いが、一応併殺リスクを回避しやすいという利点に繋がってるし、何より四球もかなり多い。
野球は出塁した数を競うのではなく、点を競う競技。『初回であってもノーアウト一塁で2番ならバントが定石』という、期待値よりも確率を重視したいという考え方も確かに理に適ってる部分はあるが、確率を持ち出すというのなら、優秀な1番打者であっても出塁率など4割あれば理想的と持て囃されるほど。逆に言えば多少のエラー出塁を計算に入れても、出塁できない確率の方が大きいのが普通。そしてそれは、2番が繋ぎの仕事をする機会よりも、出塁を求められる機会の方が多いという事実にも繋がる。
そして現実として、現在ワンナウト三塁でクリーンナップ。得点期待値と得点確率、両方の高さを示してみせた。我が軍の群鮫打線の脅威、まだまだ味わってもらうぞバニーズ……!
「打ったァ!」
「やばっ……」
「サード頭上、抜け……ません!」
「アウト!」
「ほえっ!?」
「サードランナー数橋、流石に戻れません!」
「アウト!スリーアウトチェンジ!!」
「サード■■、ファインプレー!」
「よっしゃあ!ナイスや!」
「運も実力の内やで!」
……ま、まぁこういうこともあるな……うん。




